文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_162

2008/02/15

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 【1】 前書
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 みなさま、こんばんは。遥彼方です。
 前回は秋山さんとキセンさんにのっとられてしまいましたが、第162号は無事に奪還致
しまして。
 今回は一号まるまる塑性言論ですよ! どうぞお楽しみ下さい!

                                   後略。

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 【2】   塑性言論         第19回  第3話
                     著/桂たたら
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 何の因果か、新月小鳥は地下の試験会場へと導かれてしまった。
 そこには草壁空が居た。

 小鳥は、空と話す。時間が、流れてゆく――。

 …………………  ――今、私達、なにをしているんですか?――  …………………

「へえ、不思議なこともあるもんだねえ。来る気がなかったのに来ちゃったんだ」
 現在、ここは魔術師の性能を試験する会場となっているらしい。魔術師としてのある種
の資格を得ることができる――小鳥はそう解釈した――のだという。さらに加えて、そち
らの世界では有名な会社のいくつかが合同で採用試験を行っている。ここで大きな企業の
目に留まれば、魔術師として大きく躍進できることもあるらしい。
「で、受験者の中には、企業や学問団体からの優先枠の出場者もいるんだ。大体は、縄張
り争いっていうとちょっとアレだけど、自分の所属団体の技術力とかを競い合う目的で出
場してる人たちもいる。そういうのはちょっとタチが悪かったりするよな。さっきのあの
男達」空は声を小さくした。「ああいうのは、おっきな学閥の所属だよ。エリート意識だ
け高くていやになるっていうの。あとはまあ、ヘッドハンティングする目的で出場する人
もいるねえ」
「あなたはどこの所属ですか?」
「ただの高校生」
 へえ、と少しだけ小鳥は表情に出さずに驚いた。「では、なんのために、ここに?」
「資格が欲しいのさ」
「資格、ですか」
「そう。これがあればある程度の行動の自由が利くようになる。公共の機関からの援助も
受けられるのは便利だし」
「……魔術師というものは」小鳥は迷いつつも口を開く。「ロクな仕事ではない――と私
は認識しています。あなたのような若い女性が、志望するような業種ではないのではない
ですか」
「ようやく少しだけ、本当のキミってのが見えてきたぜ」空はにんまりと笑う。「当たり
障りのない言葉ばっかりで、小鳥がなにを考えているのか分からなかったんだ」
「私に言わせればあなたも同じですけど」小鳥は眉を少し持ち上げた。「嘘までは吐いて
いないにしても、本当のことは隠してるじゃありませんか」
「こ、これから話そうと思ってたんだよ!」空は少しムキになって言う。
「へえ? そうなんですか?」小鳥は意地悪く笑ってみせる。
「で、なんで敬語なの? 同じ高校二年生でしょ?」
「癖です。気にしないでください。――あなたこそ、よく目指す職業をこけにされて怒り
ませんね?」
「事実だしな」
 一呼吸の間が空いた。その間隙に、例の破壊試験の音が大きく響いた。
「まあ……別に事情を聞こうとは思いませんよ。きっと何か理由があるのでしょう。その
若さで、後ろ盾も無し、しかも聞いた感じですと」小鳥は周囲を見回した。あまり意味の
ない行為だ。「恐らく、ここにたどり着くのにも、大きな労力を払ったものと思われま
す」
「うん。だから、受かりたいんだ。絶対に」
 空は背筋を伸ばしてまっすぐに前を見る。これほど真剣な目付きも出来るのか、と小鳥
は空の人物像に、この認識を上乗せした。
「どんな零細企業だって構わない。そこを手掛かりにして、ずっとずっと上へ行く。誰も
が認めざるを得ない、一流の魔術師になる。今日はその第一歩」
 空はそこまで喋った後、はっとしたように口をつぐんだ。
「なんてね、すんなり上手くいくだなんて思ってないけど」空はごまかす様に笑う。「資
格の一つも取れるのが理想だね。ま、とりあえずは丙種でも取れれば万々歳だなあ!」
「――――」
「おっと、次、私の番だ。行って来るよ」
 小鳥がなんと返答するか迷っている間に、彼女は背を向けて歩いて行った。

 次に小鳥が受けたのは魔力機器の適性テストである。魔力を動力とする道具を、どれだ
け上手く扱えるかを測定する試験なのだという。
 最初に鉄アレイのような形状をした道具を渡された。材質は恐らくマグネシウム合金だ
ろう。外部入力用のコントロールパネルのようなものがあったが、表記が見たことの無い
言語だったので意味は分からなかった。そして彼女の目の前に先ほどの破壊試験に使われ
たサンドバッグの縮小版のようなものがおいてあった。膝丈くらいの大きさである。
 試験内容は、試験官が提示する形状を、目の前の灰色の塊で再現する、ということらし
い。
 試験官が最初に提示したのはアラビア数字の8である。やり方なんてわかんないよ、と
胸中で呟きながら、小鳥はなんとなくその形状を頭の中で思い浮かべてみる。
 途端、ぐにゃりと灰色の塊がその形状に変化した。
 お、これなら上手くいきそうだ、と小鳥はようやく楽しくなってきた。
 試験官が提示する形状を、小鳥は次々と再現していった。試験が終わり、結果を言い渡
されたが、その評価は小鳥には理解できなかった。破壊試験のように、単純に数値化でき
るものではないらしい。

 小鳥は携帯電話での通話をあきらめた。地下であるため、当然ながら圏外だからだ。現
在時刻は午後三時半。待ち合わせは完全に遅刻である。後で友人には謝罪しておかねばな
らない。
 先に試験を終えていた空が小鳥を手招きしている。
「で、どうするの? 帰る?」空が小鳥に問う。
「……いえ、仕方がありませんから最後まで受けていくことにしますよ」
「あ、なに? 気が変わって受験する気になったのか? まあそうだよな、こんなチャン
スはめったにないだろうし」
「いえ、そうではなく」小鳥は小さく首を振る。「一人では、帰れる気がしないんです。
さきほどから、移動がてら周囲の様子を見ていたのですが、どうやら私が使って降りてき
たエレベータ、なくなっています」
「うん、そんなことも間々ある」
「間々あるんですか……? 勘弁してほしいものですね……」小鳥は大きく嘆息した。
「最後、みなさんが一緒に帰るときに便乗することにしますよ」
「ようやく地が出てきたみたいだな。それに、もうすぐ終わりだろうからさ」
 次の試験を受けるために二人で並んで移動していると、ふいに小さな声が小鳥の耳に届
いた。
「……なあ、あいつ」
「ああ、前も違う試験会場で見たぜ。手当たり次第受けてるんだろ。なっさけねえな」
 ボソボソとした声は、確実にこちらへ向けられたものだった。小鳥がちらりと様子をう
かがうと、二十代半ばくらいの男性二人がこちらへ視線を向けていた。
 それは確実に空の耳へも届いているはずだったが、彼女は瞳が硬直したように前方だけ
を見つめ、黙々と脚を運んでいた。視線を意図的に声のする方へ向けないようにしている
ように見えた。
「恥ずかしくねえのかな。どこの小さな企業からも声もかけられずに、それで資格も取れ
るわけでもないし」
「さっさとあきらめろっつーの。才能ねえんだよ。俺なんてこないだラジアル社蹴って
やったぜ。あんなしょぼいとこ興味ねえつうの」
「うわ、贅沢ー」
 小鳥は踵を返す。その二人の元へとまっすぐに向かおうとして、空にその手を掴まれた。
 完全に頭に血が上っていた。
 小鳥が空へ向ける視線には、押し殺しきれない怒気が含まれていた。
「――――」
 小鳥は黙って空を睨み付ける。空はその視線をあわせて外さない。
 五秒ほど経過すると、小鳥の瞳から敵意がふっと消えた。
「……ああいうときは、ガツンと言ってやるんじゃないんですか?」小鳥は小さく笑って
言った。
「何も聞こえなかったよ」空はわずかに肩をすくめる。「さ、次に行こう」
 男性二人の会話は、既に違う話題へと移っているようだった。

 その後、いくつかの試験を受け、ようやく一通りが終了した。
 見ていると、どうやら空の成績はあまり良いほうではないらしいことが分かった。結果
が小鳥には理解できない場合も多かったが(ただ、小鳥の試験結果はその比ではないほど
に悪かった)。

 そして、ようやく迎えた最終試験は魔術試合である。
 五名で一チームを組んで、お互いの陣地奥にあるターゲット(例によって灰色の塊であ
る)への衝撃によって勝敗が決する。コートはおよそ百五十メートル×百メートルの長方
形。
 くじびきによるチーム編成の結果は――、
「まあ、ここまでだろう。小鳥は棄権したほうが良いよ」
 ――新月小鳥と草壁空は、同じチームだった。
 女性用の更衣室で、空が着替えようとする小鳥を止めた。
「試合になれば、当然怪我だってする。身を守る術があるなら良い、だけど小鳥は違うで
しょ。希望者には道具の貸し出しもしているけど、少し魔力機器が使えるくらいじゃあ、
どうしようもない」
 周りには、同じように受験者の女性がいる。二十名ほどだろうか。だが、やはり小鳥達
のように若い――否、むしろ幼い女性は全くいない。下は二十半ばほどから、上は三十半
ば程度の年齢層である。試合のために、個人にプロテクタが貸し出されたのだ。彼女達は
それに着替えている最中である。
 小鳥は、空の制止を聞かずにブラウスのボタンを外し、ロングスカートを脱いだ。ピン
クのショーツとキャミソールに包まれただけの華奢な肢体があらわになる。小さな肩と薄
い胸、露出したへそと、体格の良い男性の太腿程度しかない細い腰、そこから太腿へとつ
ながる、ほんのわずかな曲線。同年代の女性と比較しても、女性らしい丸みや曲線が欠け
ていて、発育が芳しくないようだ、と空は評価した。ただ、その肌は陶器のような滑らか
さがある。低身長と小鳥の童顔とが相まって、下着姿になるとまるで中学生か、やもすれ
ば小学生にすら見える。
「だから止めとけ、って……」
 ベンチに座ってスニーカを脱いでいた空の視線が、小鳥の膝の少し上で止まる。真っ白
な太腿に、痛々しいほどの引き攣りがあった。
「不思議なんですよね、本当に」
 小鳥はぽつりと呟いた。
「考えてみれば、ここに来たときから違和感はありました。どう考えても、ここへは偶然
なんかでたどり着けるわけがないんです」
「その脚は――」
「銃痕です」小鳥は自分の脚を見下ろして言う。「困ったものです、これのせいで水着は
おろか、ミニスカートだって私はもう穿けません。傷物になってしまいましたねえ」
 くすくすと小鳥は笑う。小鳥は慣れない動きで、貸し出されたウェットスーツのような
素材のインナーを、キャミの上から着始めた。おそらくあの下にはブラをしていない。あ
の胸の大きさでは不要なのだろう。しかしそのスーツも、彼女の身体には若干サイズが大
きいようで、わずかに袖丈を余らせていた。
「もう一つ、不思議なのは……。あの夏から、ずっと、私、これには触れていないはずな
のに――、なんで、ここに……」
 ちゃらり、と小さく金属が擦れる音がした。しかし、空からは、何が音を立てたのかが
分からない。
「……そう、それに、私が抜けたら、こちらのチームは四人になります」
「別に平気だよ。四人でだってやりようはあるさ」空はむきになって答える。
「空さん」小鳥が初めて空の名前を呼ぶ。「上手くいくとは思ってない、なんて言ってま
したが。……本心から、ああ言ったのですか?」
「……私は、」
「内心で、次の機会で良いや、などと思っているのなら、私は今すぐに降りますよ。――
本当は、受かりたいのでしょう?」
 空は少し答えに逡巡し――、
「と、――当然でしょ! 受かるなら、なにを犠牲にしたって受かりたいに決まってる!
あんな風に、馬鹿にされるのは、もう……!」
 空は俯いて拳を握り締める。その手が小さく震えていた。
「それなら、俯くのは終わりにしましょう」
 小鳥は強化プラスチック製のグローブを自分の手に装着し、パチンとベルトで固定した。
「そうして俯いて、他人の心配ばかりして……、なんですか、着替えも終わっていない
じゃないですか。そんなのは……、」
 彼女は言葉を選ぶ――、
「――そう、時間の無駄、というやつです」
 小鳥は全ての準備を終え、勢い良く立ち上がる。
「私の力でどこまでやれるか、分かりませんけど。やれることはやってみますから」
 その拍子、
 ――しゃらん
 軽く、鎖の音がした。

 大きなリボンで結わえた長い髪が、柔らかく揺れる。
 強い意志を湛えた少女の横顔が、空の瞳にこれ以上ないほど凛々しく映る。
 気付けば、空はその姿に見とれていた。
 その小柄な少女は落ち着いた表情で、空へと手を差し伸べる。

「さあ――行きましょう?」



 The term of festival second, to be continued. 

 …………………………… 第20回(後編)につづくッ――! ……………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第xxx号(0x月xx日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


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 【3】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
  
  いかがでしたでしょうか? 今後掲載予定の後編も、お楽しみにですよ:)
  遥の都合がつかずなかなか言村さんとおしゃべりする機会がないのが淋しい編集長で
 すが、これからサークルの合宿で、徹夜で油絵を描きに行ってきます。何が出来上がる
 ことやら。
 
 それでは、また!

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は2月25日を予定しております。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
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         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… テーマ ………………………………………
  
  10/15...「結婚しました」
  10/25...「真夜中の仮想パレードへようこそ」
 11/5...「六年目の結末」
  11/15...「ただいまママー」
  11/25...「王手!」
  12/5...「海岸の白い貝殻」
  12/15...「がばちょ」
 1/25...「人形の陰謀」
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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