文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_160

2008/01/26

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 【1】 前書
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 みなさま、こんばんは。遥彼方です。
 最近は寒すぎて眠れない日が続いています。しかし、遥の住む大阪は、なかなか雪が
降らず。通天閣からそれほど遠くないこの辺りは、毎日憂鬱なひやっこい雨ばかりです。
 さて、今回お送りしますのは赤井都さんの「白ハ緑ハ赤」、ぬいぐるみを崇めに下宿
に集まってくる老人たちがなんともいえない不可思議な温かみをかもし出しています。
 そして塑性言論小説版、今回は第2話をお送りしますよ。
 雲上第160号、お楽しみ下さい:)


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 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第47回
                 著/赤井都
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 ……………………………………… 白ハ緑ハ赤 …………………………………………

 白ハ雪、雪の角ハ尖っている、もっと尖っているのハ緑の葉、緑の葉の陰ハ赤い実が鈴
なり。鈴ハ空で鳴っている、鳴らしているのハ空を渡るサンタクロース、いや違う鈴の音
ハあたしの部屋から聞こえる。あたしハあたしの部屋の戸を開ける、そこに座っているの
ハ予想したとおりにいつもの爺婆の群れ。
「あ、またおじゃましとるでよう」
 噛み割られた煎餅の匂いに線香の匂いに煎餅を噛む音に鈴の音それらハあたしの四畳半
を満たしている、初めて見る赤いちゃんちゃんこを着た一人の老人ハ押し入れの前でしゃ
んしゃんと鈴を鳴らし笑顔、その行為に何かの意味ハあるのかどうなのか。開け放しの押
し入れの中にハあの黄色いくまがいる、ある日あたしの押し入れに現れたくま型の黄色の
物体ハそのままあたしの押し入れにあり続ける、それハそこから動かない、あたしたちハ
それを動かせない。近所の老人たちハそれを御神体扱いしてしかし敬うというより遊びに
来ているようにしか見えない。
 大家のお婆さんハひょっこりとあたしの肘の下から顔を出す、
「なあこの鈴の音と合わせると、本当に踊っとるみたいじゃね」
「まあね」
 黄色いくまを眺め鈴を聞き煎餅を食べて香を炊きくつろいでいる老人たちに混じりあた
しハ煎餅を一枚かじりはじめる。
「おっと今からあんた、この部屋使うかね。もうあんたの今日の仕事終わりかね」
 大家のお婆さんハ自分たちがくつろいでいるここがあたしが月七千円で借りているあた
しの借間であるという認識を一応していて、あたしがバイトから帰ってきたらたむろして
いる皆を連れて立ち去ってくれるようにハなっている。あたしハ答える、
「こんな日にまで四時まで働いたんだよ。ハムってお歳暮シーズンが山場なんだよね。こ
んな日にもう出かけたくないけど、五時からケーキの売り子に行くんだ」
「こんな日って何かね、討ち入りの日かね」
「違うよ、それって十四日でしょ。今日ハ二十四日、クリスマスイブ。雪降ってきてるし、
寒いし、凍えるし、なのに今から外で立つんだよ、やんなっちゃう。明日、売れ残ったケ
ーキもらいたいから、あんまりがんばって売らないことにするんだ」
 いつのまにか老人たちハあたしにとって何でも話せる仲になっている。煎餅を空腹に詰
め込んで誰かから差し出された家庭的な煮物もタッパーから直に食べて平らげてあたしハ
立ち上がる、
「チーズケーキなら皆で食べられるかな、クリームだと皆にとってちょっとくどいよね、
クリームをお勧め品にしてチーズを奥の方に隠しておこう」
 しゃんしゃんと鳴る鈴の音ハあたしを送り出す、あたしハコートの上からマフラーをき
つく巻きつける。
 隣の部屋の吉野ハ今日サンタクロースの衣装をつけてピザの宅配をしているだろう、バ
イト三昧の吉野とあたしハいったいいつデートできたりするのか、あたしハ閉ざされた吉
野の部屋の前を通り過ぎ玄関から外に出て早くもバイクの黒いシートに積もった雪を手で
ぬぐう、雪ハ道路に積もるほどの勢いもなくちらちらと舞っている、振り返る下宿の敷地
の奥で大木の緑ハちらちらする雪と早く降りてきた夕闇に隔てられている、緑の葉の陰に
赤い実ハびっしりついている、あたしたちの誰もその木の名ハ知らない、実ハ食べられる
のか、来年もなるのか何もあたしたちハ知らない。緑の葉ハ尖っている、尖っているのハ
雪片も同じ、雪ハ白。白ハ緑?
 バイクのエンジンが温まりあたしハ道路に滑り出す、緑ハ白ハ赤。あたしハ今日もバイ
ト、あたしの楽しみハ明日皆で売れ残りのチーズケーキを食べること、その明日ハ明日来
る。
 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第162号(2月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】   塑性言論         第19回  第2話
                     著/桂たたら
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 ――冬の雨の日、思いがけずに地下へと連れられた少女。
 ――そこで試験だという。状況を飲み込めないまま。

 ――始まり――順番がやってきた。

 …………………  ――お名前は……、新月小鳥さん、ですね――  …………………

 パーティションで区切られた空間へと彼女は足を踏み入れる。なぜこんなことになって
いるのだろうと思いながら。
「まずは単純な破壊力の試験です。そこにある」青年の試験官は小鳥の前方を指差した。
「対象を攻撃してください。時間は五秒間です。五秒の間ならば何度でも攻撃可能です」
 彼女の前には灰色のサンドバッグのようなものがあった。
「え? 攻撃?」
「準備はよろしいですか?」
「あ、はい。……はい?」
「では、三、二、一、始め!」
「え、あ――てい!」
 戸惑いながらも小鳥はサンドバッグを拳で殴る。それはそれなりに腰の入った正拳突き
だったが、ぽふ、と弱弱しい音しかしなかった。焦って殴ったため、小鳥は手首を少し
捻った。
「……終了、です」試験官が驚きの表情で告げる。「記録は……五ポイント」
 途端、背後から爆笑が響く。
「ははは! なんだあのパンチは! あれじゃ蚊だって潰せないぜ!」
「たった五! ぷは、ギャグかよ! あんなん狙って出せるもんじゃあねえぜ!」
 ちらりと小鳥が背後を振り返ると、数名ほどの人相の悪い人たちが腹を抱えて笑ってい
る。
「いったぁ……」
 小鳥は手首を押さえながら、背中を丸めて逃げるようにその場を去った。

 なし崩し的に次の試験のために整列し、また順番が回ってきてしまった。
「えー、この試験は魔力量の測定を行います。裸足でこの測定器の上に乗ってください。
回路を全て開けていただければ、それで流れる魔力量を測定できますので」
 言われるがままに小鳥は体重計のようなものに乗る。
「回路を開けといわれても……」
 以前に数度ばかり試し、自分には回路そのものがほとんど存在しない、ということが分
かっている。それでも小鳥はとりあえず、と前の人がやっていたように、見よう見まねで
全身に力を込めたりしてみた。
「うぅーん……!」
「えー、測定不能です……」試験官が困ったように言う。
「ぎゃはは」とまた同じ笑い声が後ろから聞こえてきた。小鳥は自分が情けないやらで肩
を落としつつ、靴を履きに列の方へ戻ると、小鳥のブーツを男の一人が靴で踏みつけてい
た。
「ああ、悪い悪い、あんまり小さいものだから気付かずに踏んでたぜ」
 それがそんなにおかしいのか、そのグループの人たちも同じように笑っている。
 ぱし、と蹴ってよこされた靴を大人しく履く。
「いえ、別に構いませんよ」
 靴の汚れをぱたぱたと払いつつ、小鳥はまたそそくさとその場を離れた。

「見てたよ! ああいうときはガツンと言ってやらないと!」
 帰るタイミングを窺っていた小鳥の背後から、同年代の――高校生くらい――少女が話
しかけてきた。
「なんでなんにも言ってやらないの! 女の子に意地悪するなんて、いい年した大人が
なっさけない! ホント、どうしようもないな、ああいうのは!」
 彼女はじだんだを踏みながらイライラとした様子を隠そうともしないで言った。
「え、だって怖いですし……、黙ってた方が問題起きませんよ」
「泣き寝入りって言うんじゃないの! まあとりあえず次のに並ぼうぜ。珍しいね、私と
同じくらいの女の子が来てるなんて。私は草壁空っていうの。よろしく」彼女はくるくる
と表情を変えながら喋る。
 またいつのまにか列に並ばされているなあ、と小鳥は思う。
「新月小鳥です。よろしく」
「小鳥? 面白い名前だねえ。で、小鳥ちゃんは、」
「小鳥で良いですよ。――すみません、先に質問させてもらってもいいですか?」
「ん、なに?」
「今、私達、なにをしているんですか?」

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第161号(02月05日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!
  
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 【3】 編集後記
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 いかがでしたか?
 次回は「塑性言論」すぺしゃるです。一号まるまる塑性言論、ですよ!
 それでは、また。

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*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は2月5日を予定しております。

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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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