文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_149

2007/10/05

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第149号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/10/5
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」        第36回
 【3】 宮本淳世「怨時空」            第16回
 【4】 編集後記


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────
 
 どうしたってSFが好きです。

                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第36回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 花びらの間に、あなたは何を見る?

 …………………………………………… 誕生2 ……………………………………………


 窓を開けたとたん、ばらの香りがして、あなたは自分の誕生日に気づく。
 誰が仕組んだのか、雲があなたの庭の上に降りてくる。ぱちんと空で音がすると、雲は
いっせいにばらの花びらに変わる。
 かぐわしさにあなたは足首を埋めて、花を一本手に取る。大きな蕾だ。朝まだきの薄明
の中で、強い香りを放っている。あなたの手の中で、それはゆっくりと咲いていく。奥の
芯まで開くと、小さな天使が飛び出して、そうして全部がまた雲に変わってしまう。あな
たはいつのまにか、金の冠をかぶっている。

  
  ………………………………………… さくらさくら …………………………………………
  
  
 桜が咲いてしまった。約束を思い出して、慌てて樹の下に行くと、微風に乗って花びら
が降ってきた。その心地よさに、抱えていた本を全部、足元に落としてしまった。かがみ
こむと、とん、と背に衝撃があって、振り仰ぐとめまいを起こしそうな白い天井が夜空を
透かして広がり、めまいの中心にその人がいた。
「今年も、あなたは忙しそうですね」
 微笑んだ口元が皮肉っぽい影をつくっている。
「今年も、私は読んだり書いたりしていますから」
 拾い集めた本を、とん、とまた突き落とされてしまう。地面に花びらと本がまんべんな
く散っている。その人は私の前に立つ。私は膝をついたまま、その人を見上げる。
「またあなたは、一年ぶん変わりましたね」
「でもあなたは、ほとんど変わりませんね」
 毎年、桜の下で会うその人が、いったい何者なのか私は知らない。桜の精なのか、それ
とも既にこの世を去った誰かなのか、それとも私が望む私の夢の姿なのか。分からないま
まに、こどものときから私はその人を見て、その人の声を聞いて、美しいその人が好きで、
花咲くたびに、満開の枝の下で会う約束をした。
「去年、桜が散る前にした約束を、忘れそうになったでしょう。今年もあなたは、忙しす
ぎて」
「いいえ、ちゃんと覚えて、それを果たしに来ました」
 応えると、その人はにこやかに笑んで、
「本当にあなたに果たせるものですか」
 と、私を樹の上へ放り投げた。私の体は軽く弾んで、鞠のようにこんもりと球形を成し
た花々の間に落ち着いた。黒い枝はどこも白く柔らかな花びらで覆われ、暗い空には朧な
半月が掛かっている。そのほのかな明かりだけで、花は自ずから輝くように白さを際立た
せ、逆光と影の隙間を美しい人と共に浮遊する。地面は遠ざかり、夢は深まる。重力はな
く、理屈はなく、ただ生身の感覚だけがある。
「あなたのほうから、目をそらさらないと約束しましたね」
「約束しました。そのとおりにしましょう」
 たとえこの目が焼ききれても。私はその人がたたえた暗く艶やかな暗黒を見ていること
にする、花開く夜の間。
 その人が、私の生命を奪う魔なのか、邪気のない桜の精霊なのか、何なのかを知らない。
私はとんでもなく危険なことをしているのかもしれない。夜風は花びらを交えて滑らかに
髪を、肌を撫で、剥き出しの蕊はいよいよ反り返る。暗黒は反射し、睫が月光を弾き、ふ
とその人は目を閉じて、唇を寄せてきた。柔らかな花びらの滑らかさ、優しい冷たさ、朧
なあわいの鋭さ。


 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第150号(10月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 宮本淳世『怨時空』            第8回
                著/宮本淳世
 ──────────────────────────────────────

 不安な影に気づかぬ振りして、愛のように見えるものに、手を伸ばす。
 ひとの闇と業をめぐる、不穏でミステリアスな物語。
 
 ………………………………………… 第4章 ……………………………………………

 実行の日は、来週の金曜日だ。手はずはこうだ。城島はいつものように午前零時に帰
宅する。そして、今日のように屋上で酔いを醒ますといって部屋を出る。屋上には行かず
1Fの24時間営業のジョナサンに入る。そこで酔い覚ましのコヒーを飲む。
 城島が携帯で泉美を屋上までおびき寄せる。屋上には城島の靴が揃えて置いてあり、
それを見て泉美は城島がビルから飛び降りたと思い、手すり越しに下を覗きこむ。上野は、
その後ろから近付き用意したブロックで後頭部を殴打し、靴を脱がせ、屋上から突き落と
す。そして城島の靴を泉美のそれに置き換える。
 城島は、今か今かと窓越しに春日通りを見詰めている。そこに、どさっと人間が降っ
てくる。そこで「おい、人間が上から降ってきた」と騒ぐのだ。何人ものアリバイの証言
者と店を出て、遺体を取り囲む。ふと、気付く振りをして遺体にすがりつき、「何故だー、
泉美― 」と泣き崩れる。これほど完璧なストーリーはない。城島は自殺の目撃者なのだ
から。

 その日はとうとうやってきた。朝から何も手につかず仕事どころではない。時間をも
てあまし、苛苛と過ごした。仕事が終わり、飲んで帰らなければならないのだが、行く先
はいくらでもあるのに、今日に限ってどこも気が進まない。
 城島は、気を静めるために歩くことにした。東銀座から晴海へ、晴海から銀座へ、ど
こをどう歩いたか記憶にない。酒の自動販売機を見つけると、ワンカップを買って一気に
飲んだ。へべれけになるまで飲みまくった。
 自宅のある後楽園まではタクシーを利用した。泉美は起きているだろうか。起きてい
ればそれはそれでいい。寝ていれば酔った振りをして起こす。前後不覚になって、もしか
したら抱いてくれるかもしれないと期待を抱かせるのだ。
 そして、いつものように屋上で酔いを醒ましてくると言う。今日は泉美を誘うか台詞
も考えていた。ドアベルを鳴らす。どさどさという泉美の足音が聞こえる。どうやら起き
ているらしい。ドアが開き、ふてぶてしい泉美の顔が覗く。
 城島は、叫んだ。「おい、俺の人生もこれで終わりだ。福岡支店に左遷が決まった。
ラインから外されたんだ。もう、終わりだ」
泉美が素っ頓狂な声で答えた。
「どうして、何か失敗でもしたの。いったいどうしたと言うのよ」
「山口先輩に、してやられた。俺の企画を蹴って電通に鞍替えしやがった。俺は赤っ恥を
かかされたんだ。ちくしょう、山口の野郎。殺してやりたい」
「それで左遷というわけ? 」
「ああ、その通りだ。経営陣も期待していた企画だ。もう、俺は死ぬっきゃない。福岡支
店なんて真っ平だ」
「私は福岡行ってみたいわ。福岡に支店を出すのよ。いい考えだわ。違う所で生活するの
も悪くはないもの」
「冗談じゃない。九州に左遷されて戻ってきた奴なんていない。支店とは名ばかりの10
人たらずしかいないし、それにもましてせこいビルだ。生きがいも糞もない。小さな仕事
を御用聞きみたいに取ってくるだけだ。くそ、冗談じゃない」
 城島はカバンを投げ捨て、玄関に取って返した。エレベーターに乗って一階のジョナ
サンに直行だ。動悸が高鳴る。上野はどうしているだろう。そのことばかりが気になって
呼吸が苦しくなる。ジョナサンでコーヒーを注文する。そして携帯で上野にサインを送る。
 呼び出し音を三回鳴らして切る。ジョナサンで席を確保したという合図だ。そして、
泉美に電話を入れる。
「もしもし、俺だ」
「どうしたの、もう酔いが冷めたの」
「いや、そういうわけじゃない……。そうじゃない……。と言うか……俺はもう駄目だ。
このまま、死ぬ。この屋上から飛び降りて死ぬ」
「あんた、冗談言っているんでしょう。いい加減にしてよ。もう眠るんだから」
「ああ、分かった。あばよ、またいい男を捕まえろ。じゃあな」
そこで電話を切った。後は待つだけだ。じっと春日通りに面した窓に目を凝らす。
 じりじりと待った。目を凝らした。塵一つ落ちては来ない。20分ほど経ったろうか、
ふと、上野がジョナサンの入り口に立っているのを見て、城島はぎょっとなった。上野が
城島を見つけ近付いてくる。凝視する城島の目には、その歩みは、まるでスローモーショ
ンのように映った。「いったい何が起こったというのだ」城島が心の内で叫んだ。
 席に着くなり上野が声を殺して言った。
「城島、お前の女房は屋上に来なかった。俺は15分待った。だが、これ以上待ったとこ
ろで来るはずもない。だから非常階段で降りてきた。だがな、城島」
ここで言葉を切り、城島の目を覗き込みながら続けた。
「約束は約束だ。金は返さん。お前はこう言ったはずだ。不慮の事故が起きて殺せなかっ
たとしても、それはそれで仕方がないってな。お前の女房が来なかったというのは、これ
は不慮の事故だ。お前の女房は、自分で考えているほど、お前のことを心配していなかっ
た」
俯いたまま、弱弱しい声で答えた。
「ああ、分かっている。金のことはそれでいい。兎に角、もう一度、計画を練り直さなけ
ればならない」
緊張の糸がぷつんと切れるとともに、落胆は城島の思考力をねこぞぎ奪ってしまったらし
く、何の考えも浮かばない。そして次に続く上野の一言は、城島に計画の頓挫を思い知ら
すことになる。その言葉とはこうである。
「俺は、やることはやった。だから、もうご免だ。もし別の計画をたてるのだったら、別
の男を捜せ。兎に角、俺は、やることをやって、お前との約束は果たしたんだ」
マンションの部屋に戻ると、泉美の壮大な鼾が天井を揺るがしていた。

 翌朝、城島は何事もなかったように新聞を読み、トーストを齧る。泉美が淹れてくれ
たコーヒーを一口飲み、
「おい、濃すぎるぞ。苦くて飲めねえよ」
と言って、いつもの重苦しい沈黙を振り払い、会話のきっかけを作った。
「私は濃い目が好きなの。苦いと思うなら、少しお湯で割ればいいでしょう」
「それより、お前は冷たいな。俺は本当に自殺するっきゃないと思っていたんだぞ。屋上
の手すりを越えて、何度も春日通りにジャンプしかけたんだ」
「あんたが自殺するだって?冗談言っているんじゃないわよ。あんたはどんなに間違って
も自殺するような男じゃないわ。それより、いつから行くの、福岡へ。私、先に行って良
い物件を探そうと思っているの」
「おい、お前、本気なのか。冗談じゃねえぞ。福岡支社に行くくらいなら、俺は会社を辞
める。だってそうだろう。あそこは言ってみれば姥捨て山なんだ」
うだうだと言葉を発しながら、城島は、福岡支社左遷という嘘をどう収めるか考えていた。

 泉美が自殺したのは頓挫したあの殺人計画から一月ほど経ってからだ。マンションの
屋上から飛び降りたのである。帰宅の遅い夫に苛立って、発作的に屋上に駆け上ったらし
い。階段で擦れ違った隣の主婦が、「自殺するだ」と口走ったのを聞いている。
 城島は、その日は、深夜まで山口を接待した後、タクシーで香子の家に行って泊まっ
た。そして、翌日、帰宅して泉美の死を知ったのである。警察で遺体と対面した。顔が潰
れてぐしゃぐしゃだった。主婦の証言から、自殺しか考えられず、取調べもなかった。
 しかし、どう考えても納得出来ない事実が二つあった。一つは、泉美が言ったという
「自殺するだ」という言葉である。泉美は出身こそ宮城県だが、東京の暮らしの方が長く、
そんな方言のきつい言葉を吐くとは思えないということである。或いは、かっとして思わ
ず出てしまったとも考えられるが、多少疑問が残る。
 今一つは、泉美の自殺そのものだ。城島は、その性格を知り抜いていた。他人を責め
ても決して自らを責めたり省みることのない女。絶望より先に、その原因がたとえ自分に
あったとしても、そのきっかけを作った人間に怒りを爆発させる人間。それが泉美だから
だ。自殺など考えられなかった。

 城島はマンションを売って、香子の屋敷に移り住んだ。木の香りに満ちた豪華な屋敷、
若くて美人の妻、まるで夢のような生活だった。子供はすぐになついた。香子との新婚生
活は刺激的で、屋敷の門をくぐった時から下半身が心地良く疼く。
 泉美の言っていたことも経験した。香子は家事が嫌いだった。食事はつくるものの、
後片付けと皿洗いを城島にせがんだ。
「お願い、ねえ、お願いよ」
そう言って哀願する香子には、確かに逆らい難かった。何度か繰返して、とうとう後片付
けは城島の仕事になったのである。
 哀願する香子の顔を思い浮かべ、思わず吹き出した。あれが、泉美の言っていた人を
自由に動かす不思議な力なのだと分かって可笑しかったのだ。城島は皿をスポンジで洗い
ながら声を出して笑った。居間の方で声がする。
「ねえ、何を笑っているの。ねえ、どうしたの」
「何でもないよ。ちょっと思い出し笑いをしていたんだ」
「何よ、気持ち悪い」
「それより、先に子供達を風呂に入れたら。さっき、風呂のスイッチを入れておいたから、
もう沸いているぞ」
「何言っているのよ。食べたばっかりでお風呂に入ってはいけないのよ。お風呂に入ると
血液が体全体に回って胃の方が手薄になって消化不良になってしまうの」
「ほう、そうかいそうかい。分かりました、分かりました。ゆっくり休んでから入って下
さい、お、く、さ、ま」
そう言いながら、城島は幸せを噛み締めていた。心の中で泉美に語り掛けた。死んでくれ
て有難う。お前の分まで生きてやるよ、と。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第150号(10月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!
  
◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。

 そういうわけで「幻詩狩り」を読んでいます。「言語」そのものについての考察があっ
たりするのかなあと思ったけど、(今のところ)そういうのは中心ではないみたい。
  読む者を異世界に連れて行く、不思議な詩の話。
 シュルレアリストたちが次から次へと幻詩に魅入られていく(そして連れてかれる)く
だりはどきどきします。あの辺りの芸術運動が気になってしょうがない身としてはなおさ
ら。

 引き続き新たな原稿、募集中ですよ。編集部までお気軽にお問い合わせください。
 それでは、また。 

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は10月15日を予定しております。では、またお目にかかりましょう。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com


   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年9月25日 
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:遥彼方
           キセン
       ご意見ご感想:
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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