文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_147

2007/09/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第147号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/9/15
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」        第34回
 【3】 宮本淳世「怨時空」            第7回
 【4】 編集後記


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
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 みなさま、こんにちは、遥彼方です。
 図書館から戻ってきたら総理大臣が辞めることになっていました。

                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第34回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 流れてゆく、知らないのに、どこか懐かしい景色。

 ……………………………………………… 佳人 ……………………………………………

 梅林に着いてみれば、二人きりの宴に招待してくれた主は不在で、林間には柔らかな香
が舞い落ちるばかり。頭を下げて満開の枝をくぐって進むと、楽器と酒器が散らばってい
る広がりに出た。主は今しがたまでここにいたようだ。私は草の上に腰を落ち着け、座を
外した主が残した徳利を拾い、呑み、奏しかつ歌った。穏やかな晴天と乾いた枯れ木と、
枯れ枝と見えるところに現れ出ている整った五枚の花びらと、ほころんだばかりの蕾から
のぞく蕊と、その蕊に射す光と、光がこぼす影と、それを揺らす風と、それを見ている私、
私が呑んでいる酒の口の中での広がりを、口を開けて歌った。
 ふいと光が揺れて、体が小さくなった。ふいと風が吹いて、私は梅の花の中に座ってい
た。そびえる蕊の横に、主が先に来ていた。黙って主は肩から衣を滑らせる。陽光を受け
た裸の胸に蕊の金が照り映えて、小さな体は花びらを踏み超えてもそれを散らせない。か
ぐわしい髪が頬に触れ、私の背は花弁の内側の脹らみを滑った。穏やかな晴天と整った形
と、蕾からのぞく蕊と、その蕊に射す光と、光の下で揺れる影と、影をつくる穏やかな陽
光、透ける花びらの壁の上の晴天。

 …………………………………………… 関係 ………………………………………………

 古くて大きな家があった。誰も住まなくなってから、襖の絵からライオンが、窓の桟か
ら鷲が現れた。ライオンは鷲を捕らえようと物陰からうかがい、鷲は機敏に飛んで逃げる。
そうして、柱から柱へ、梁から梁へ、一匹と一羽は追い追われて長い年月がたった。やが
て屋根が破れ、鷲は穴から羽ばたき出た。家の外には鬱蒼と木々や竹が茂り、空は遠く広
がっていた。しかしきゅうに鷲は飛べなくなった。羽ばたいても、空気を押しやることが
できない。そのまま鷲の体は希薄になって風の中に消えてしまった。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第148号(9月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 宮本淳世『怨時空』            第7回
                著/宮本淳世
 ──────────────────────────────────────

 絡まる憎悪の糸。坂を転げ落ちていくように崩れていく状況。
 ひとの闇と業をめぐる、不穏でミステリアスな物語。
 
 ………………………………………… 第4章 ……………………………………………

 泉美が不法侵入で警察に逮捕されたことは、城島にとって離婚を有利に運ぶのには好
都合に思えた。まして凶器を持っていたとすれば、うまくいけば殺人未遂になるのではな
いかなどと、城島は素人判断を口にしたりした。
 しかし二人の甘い期待は裏切られた。泉美が手に持っていたのは凶器ではなく、携帯
電話だったのだ。城島の携帯に電話し、壁に耳をあて、その呼び出し音を聞こうとしてい
たらしい。遠目でみれば広げた携帯はナイフに見えないことはない。
 城島は香子の親戚を名乗って警察に電話したのだが、その事実を知った時、城島はが
っくりとうな垂れた。もし、凶器さえ持っていれば、離婚に向けて一歩近付く、そう思っ
ていたのだ。その晩、城島は家に帰ると、泉美を怒鳴りつけた。
「貴様、いったい何を考えているんだ。恥ずかしいとは思わないのか。人の家に不法侵入
して警察に逮捕されるなんて、何て馬鹿なことをしでかしたんだ」
泉美も負けてはいない。声を押し殺してはいるが、怒りの度合いが数段上だ。
「あの女と別れたなんて嘘だわ。私には分かっているのよ。昨日だって、あの家の中にい
たんでしょう。えっ、どうなの、あの中にいたんでしょう」
確かに、泉美が連行された後に、あの家に入ったのだが、その前は銀座にいたのだ。
「馬鹿言え、俺は銀座で接待していたんだ。あの山口先輩を接待していた」
「嘘よ。それなら、何で警察に引き取りに来てくれなかったのよ。とうとう連絡がとれな
かったって警察の人が言っていたわ」
「しかたないだろう。山口先輩が3軒目に行きたがった。接待相手を置いて帰ることなん
て出来ない。接待が終わったのは午前3時だ。しかたないから、会社で寝たんだ」
泉美が押し黙った。大きく肩で息をしている。城島もこれ以上何を言っても無駄であるこ
とは分かっていた。泉美は心のバランスを崩していた。城島に対する執着は尋常ではない。
あの晩、泉美の誘いに乗ったのは間違いだった。眠った子をおこしたようなものだ。泉美
がぽつりと呟いた。
「絶対に離婚なんてしてあげない」
城島は深い溜息で応えた。泉美が城島を睨みすえ、唸るように言った。
「あんなお屋敷に住んで、美人で、あんたが飛びついた理由が分かり過ぎるから、絶対に
離婚なんてしてやらない。もっと醜くなって、あんたの奥さんでい続けてやる」
城島がかっとなって立ちあがった。殴ってやろうかと思い泉美を見下ろした。肉が歪んで、
顔が変形していた。一見したところ、泣きそうなのか、怒っているのか、判然としなかっ
た。しかし、笑っていると知って、城島はぞっとしたのだ。悪意に満ちた目は明らかに笑
っていたのである。

 それからというもの、香子の家に無言電話が日に何回とかかるようになり、注文して
いないピザや寿司が届き、また男の声で子供の事故を知らせる電話まであったと言う。明
らかに泉美の仕業であり、その行為はまさに常軌を逸していた。
 或る晩、城島は会社を一歩出たとたんぴんときた。見張られている。泉美か、或いは
泉美の雇った私立探偵か。そのまま、香子の家に行く予定をすぐさま変更した。下請けの
製作会社に電話して担当を呼び出し銀座のバーに直行した。
 その店のトイレで香子に電話を入れた。香子はうんざりしたような声で言った。
「貴方の奥さんは異常よ。今日だってお寿司が10人前届いたわよ。何とかして、もう耐
えられない。警察に調べてもらったけど、携帯はプリペイドカード式を使っているらしく
って、証拠がつかめないらしいの」
「分かった、しかし、『香子が言っていたけど、とんでもない嫌がらせをしているって?』
とは聞けないよ。いったい何と言って、あいつを問い詰めたらいいんだ」
「簡単よ、既に別れたけど、元恋人から相談されたって言えばいいじゃないの。私とは別
れたんでしょう、一ヶ月も前に。だったら、その人から電話で相談されたって言えば問題
はないはずよ」
「そんな嘘を言っても始まらない。恐らく、俺とお前がまだ続いていることを知っていて、
意地になって嫌がらせをしているんだ。お前が疲れ果て、俺を諦めるよう仕向けている」
「そんな事出来ない。貴方を諦めるなんて考えられない。何とか離婚できないの。お金な
ら私が都合つけるわ」
「いや、無理だ。いくら金を積んでも、マンションを譲るといっても絶対に離婚届に判は
押さないだろう」
「それじゃあ、どうするの、私はどうすればいいの。一生、日陰者で、あの人の嫌がらせ
に耐えていかなければならないの」
「分かった、何とかする。だからもう少し待ってくれ。何とかするから」
「何とかするって、何をどうすると言うの。ずっとその繰り返しじゃない。一向に事態は
変わっていないわ。何とかする、待ってくれ。その言葉をもう何度聞いたと思っているの

「そう責めないでくれ、まさか殺すわけにはいかないだろう」
こう言った瞬間、城島はごくりと生唾を飲み込んだ。殺すという言葉にリアルな響きがあ
った。香子も黙り込んでいる。城島は頭を激しく振ってその思いを心の奥底に閉じ込めた。
そして自分でも驚くほど苛苛した声で言った。
「とにかく、今日は行けそうもない。それに、何とかする。何とかするつもりだから、も
うこれ以上何も言うな」
一瞬、香子は息を呑み、城島の怒りをやりすごした。そして静かに言った。
「分かったわ。今日は会えないのね、そのことは諦めるわ。それに、今日は貴方を責めす
ぎたみたい。本当に、御免なさい」
そう言うと、受話器を置いた。城島は携帯を見詰め、大きなため息をついた。見ると便器
に吐しゃ物がこびりついている。泉美に対する憎悪がむくむくと膨らんでゆく。

 その日から、城島の心に殺意が芽生えた。仕事中にも、城島の心に住み着いた悪魔が
囁く。そうだ、殺してしまおう。それが一番だ。しかし、完全犯罪でなければならない。
警察に捕まって、刑務所暮らしなんてまっぴらだ。香子だって愛想尽かすだろう。
 泉美の横に座っていても、その囁きは聞こえる。とにかくアリバイだ。それを何とか
しなくては。まして香子に俺が殺したと疑わせるのも、今後の幸せな家庭生活の障害にな
る。香子をアリバイ工作に使うなんてもってのほかだ。では、どうする? 
 犯罪の臭いのしない事故死が理想的だ。まてよ、などとあれこれ思いを巡らせ、そし
て最終的に思いついたのが自殺にみせかけた殺人だった。考えに考え抜いたのだ。
「何、考え事しているのよ」
泉美の声に驚いて、城島は我に返った。その日は、いつものように遅く帰ったのだが、め
ずらしく泉美は起きていた。城島は素面で寝室に入る気がせず、ソファーに腰掛けウイス
キーを飲んでいた。その横で、泉美はピーナツを口に放り込みながら、テレビを見ていた
のだ。
「いいや、何も考えてはいない。ただ、ぼーっとしていただけだ」
泉美がにやにやしながら言った。
「この女、死んでくれねえかな、なんて思っていたんじゃない。どお、図星でしょ。ねえ、
いっそ殺したら。包丁持って来てやろうか、台所から」
「馬鹿なことを言うんじゃない。俺を犯罪者にしたいのか、お前は」
憎悪と怒りが頭の中で渦巻いているが、そんなことおくびにも出さず答えた。殺意を気付
かれては完全犯罪なんて出来るはずもない。城島は立ち上がりながら、言った。
「少し夜風にでも当たって酔いを醒ましてくる。先に休んでいなさい」
泉美のこめかみに血管が浮く。
「あんたに言われなくても寝るわよ。ふん」
あれを期待して起きていたのは確かだ。城島は、だぶついた肉を揺すりながら歩いてゆく
後姿を眺め、背筋に悪寒が走った。ドアを閉めるバタンという音が二人の居た空間を引き
裂いた。

 15階建てのマンションの屋上から下を眺めた。深夜だというのに、春日通りはヘッ
ドライトの流れが川のように暗闇に帯をなす。交通量はまずまずだ。ドライバーは、誰か
が歩道に落ちてくれば、気付かないはずはない。
 問題は泉美を屋上に何と言って呼び出すかだ。「おい、屋上に来て見ろ。星が綺麗だぞ
」なんて言おうものなら、すぐさま見抜かれて「私をそこから突き落とすつもりなの」な
どと厭味を言われかねない。まあ、それはいい。それより、問題は上野のことだ。
 既に上野と接触し、泉美殺害の手はずは整えてある。上野は大学の演劇部の後輩で、
資産家の一人息子だったが、バブル期に不動産に手を出し、今は零落している。問題は、
上野の口の軽さだ。絶対に秘密は守ると言っているが、これが信用ならないのだ。
 上野は気が弱く、力もない。もしかしたら力なら泉美の方が強いかもしれない。その
上野が脅迫者にならないとも限らないのだ。報酬の一千万円など、すぐに使い切ってしま
うだろう。その後が問題なのだ。
 巷で話題になっている、4、50万で殺しを請け負う東南アジア系の殺し屋とのコネ
クションはないが、いずれ手蔓を探す必要がある。上野が脅迫者に豹変する前にコストの
安い殺し屋を見つけ出し、そして上野も殺す。城島はそう決意した。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第148号(9月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。

 ジョセフ・コーネルという人物をご存知でしょうか。
 アメリカのシュルレアリストであり、ベイサイドの自宅の地下室で日々、夢の標本箱の
ような不思議な箱をつくりつづけたアーティストであります。
 彼についての評論と、作品の図版を収めた本が文藝春秋社より出ておりまして
「すべての芸術は、自己が他者を求める渇望にかかわっている。(中略)芸術とは、少し
ずつ、難儀に、自分が他者に変容していく営みである」(「トーテミズム」)
『コーネルの箱』著者はチャールズ・シミック、柴田元幸氏による訳文も澄み渡った非常
に美しい本です。

 きのう、これを抱えて家に帰ってきたら、冒頭の状況だったわけです。

 引き続き新たな原稿、募集中ですよ。編集部までお気軽にお問い合わせください。
 それでは、また。 

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は9月25日を予定しております。では、またお目にかかりましょう。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。
 
 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com


   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年9月15日 
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:遥彼方
           キセン
       ご意見ご感想:
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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