文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_142

2007/07/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第142号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/7/15
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第29回
 【3】 宮本淳世『怨時空』           第3回
 【4】 編集後記


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 こんばんは、遥彼方です。すこし体調を崩してしまい、前回はお休みを頂きました。し
ばらく寝込んでいたらなんだか浦島太郎状態、え、もう7月が半分過ぎたの? といった感じで、なんとも言えない寂しい気持ちです。みなさまお体にはお気をつけて。

                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第29回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 立ち昇る風景、旅人のあしあと。「みがきにしんの夜」から続く幻想紀行を二編。

 ………………………………………… フラスコ壜 …………………………………………

 Dr.野口というお酒がありまして 駅前の売店でもスーパーマーケットでも どこでも
そこでも売っています 七日町から大町通りのほうへ歩いていた時 道に半ば迷っていた
ので今となってはどこの商店街かわかりませんが 祝野口英世 の手書きの貼り紙を見ま
した 反射のきついガラスの奥はすぐに暗くなって文房具屋か乾物屋かもわかりませんで
したが 祝われらが野口英世博士 祝新千円札に決定 という赤い文字が雪の反射で早々
に焼けて ガラス戸の内側の何箇所かに並んでいました その軒の下で中年の男性が雪に
埋もれた植木鉢の手入れにかがんでいました 断って貼り紙の写真を記念に撮らせてもら
い その時にその人が女性であると思いましたがきちんと確かめたわけではありませんか
らやっぱり勘違いかもわかりません われらがというのは野口博士がこの町で書生をして
いたからだそうです 私は大人になってから美談だけではない野口英世の伝記を読み直し
 寄付で集まった渡米費用を見送り会ですっかり呑んでしまう人物だったと知っています
 ロックフェラー研究所に勤めてアメリカ人の娼婦と結婚し アフリカで研究していた伝
染病にかかって死にました 町が出している観光パンフレットは堂々とこの辺りの人の気
質を 頑固 実直 と言っています 私の友人はこれを 強情 愚直 と訂正したいと言
っています 友人はまた 科学者が日本の紙幣に載るのは初めてでしょう とそのことに
感慨深げでした 私は野口英世の死を賭した仕事が現代科学で否定された という記事を
数年前に読んだ記憶がありますが それからこの町の人たちはお札に目をつけて運動した
のでしょうか 今さら日本国の紙幣になるとは 不思議です 野口英世の千円札で買えば
完結していますが現行の夏目漱石君二人に出て行ってもらい Dr.野口というお酒を買い
ました フラスコ壜の中に純米吟醸が入っています 今日撮ってきた町歩きの写真を見な
がら呑みます 野口も漱石も七日町も大町通りも 文房具屋も乾物屋も 男性も女性も 
呑んでしまえば皆同じになります

 ……………………………………………… 狐 ………………………………………………

 私を震撼させたことにはここにも三島由紀夫の足跡があるのでした 七日町の駅カフェ
から阿弥陀寺も過ぎて 渋川問屋に至ると 壁に説明板が貼り付けられていました 配線
が全て壁と同じに黒茶に塗られている暗い建物です 景観保全の対象です 百年たった建
物というのはそうたいそうに古いとは思いませんが 戊辰戦争でほとんど焼かれたこの町
で珍しく昔の建物です 低い軒から垂れた暖簾が積もった雪に擦りそうです 案内板によ
るとこの建物の中には三島由紀夫が憂国の間と名づけた座敷があります その座敷で神童
と近隣の誰もが認める長男が育ち やがて二二六事件に民間人として関わったそうです 
遺体は菰でくるまれ荷物同然で運ばれてきたそうです 罪人ですから きっと強張った青
い身体だったでしょう 貨物で町に戻ってきました それ以上のことは書かれていないの
でわかりません 二二六事件は子供の時に習い それから二二六ではない三島を幾つか読
んでおもしろいと思い それからもっと大人になって読み返して当時の流行作家だったの
だと思いました それから読んでいません 今となってはそれほど好きでもありません 
ただ こうして町を歩いていてまた出会ってしまうと正直 神島にも蒲郡にもいてまたこ
こにもいたのか と うんざりする気分を通り越してがっかりしたような次第です 建物
の裏に回ると 暖簾の下から通り庭がこちらにまで突き抜けていて 暖簾の裏側から表通
りが透けて見えました 風はないとはいえ雪が積もっているのに開け放しです 通り庭は
背後の蔵の入口に続いています 棒鱈だの身欠き鰊だの 鯵の干物だの昆布だの 乾いて
縮んだ海産物が往時は壁に添って詰まれていたのでしょう その隣の蔵は漆喰が剥がれ落
ちて瓦も何枚か外れ 土に返ろうとしています その向こうに朱色の鳥居の側面が見えま
した 振り返るとこの庭にも小さな鳥居がありました 旅の安全や商売繁盛やそのほかに
もさまざまなことを祈るのでしょう お狐様です

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第143号(7月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 宮本淳世 『怨時空』            第3回
                著/宮本淳世
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 愛と欲望の絡み合う、もつれた糸をかれは垣間見る。
 ひとの闇と業をめぐる、不穏でミステリアスな物語。
 
 ………………………………………… 第二章 ……………………………………………
  城島はベッドで煙草をくゆらせながら、この不思議な縁に思いを巡らせていた。香子
は城島の腕に頬をのせ、静かに寝息をたてている。長い睫、すっきりとした鼻梁、小さな
唇。何もかも城島の好みだった。その香子を初めて見たのは、篠田の葬式である。
 その日、お焼香の順番を待つ間、城島は喪服に身を包む若妻に目を奪われた。喪服姿
の彼女は艶やかな色香を漂わせながら、弔問客一人一人に慎ましやかに辞儀を繰返してい
た。厳かな雰囲気が更に妖艶さを際立たせるていた。それが香子だったのだ。
 再会は、それから一年ほど経ったある夏の日で、城島はCM撮影の立会いで江ノ島の
海岸にいた。撮影が無事終了し、女性タレントはそそくさと車で引き上げ、製作会社の担
当者達が撮影機材を片付け始め、その彼らもいなくなると、城島一人残された。
 撮影を見学していた人々も、タレントが帰ると潮が引くように消え、夏の海の風景に
戻っていた。背広姿の城島は明らかに場違いである。城島は、くわえ煙草で、ぎらつく太
陽を睨み上げた。それが自分では格好良いと思っている。
 そこに大胆なビキニ姿の女性が近付いて来た。形の良い胸、くびれた腰、すっきりと
伸びた脚、城島の視線は再びこぼれんばかりの胸に取って返した。と、その女性がにこり
と微笑んで声をかけてきたのだ。
「その節は……」と言って、はにかむように佇んでいる。その顔に見覚えがあった。城島
はすぐに思いだし、微笑みながら言葉を返した。
「どうも、しばらくでございます。その節は本当に、お言葉をかけるのも痛々しかったも
のですから、ろくなお悔やみも申し上げられませんで、申し訳ございません」
「いえ、とんでもございません。皆様の、あの演劇部の皆様の、励ましのお言葉は今でも
心に残っております。あれから上野さまも、お線香を上げに何度かお見えになられて……」
と言って微笑んだ。城島は心の中で舌打ちした。上野の下心はみえみえだ。若後家の隙の
乗じてものにしようとしたのだ。しかし、その企みが成功しなかったことは、今の微笑み
が物語っている。意外に世慣れした女だと思い、城島は心中ほくそえんだ。
 その時、三四歳の子供が走り寄ってきて女の脚に絡みついた。女はその子を抱き上げ
て言った。
「翔の忘れ形見、詩織です。さあ、詩織ちゃん。素敵なおじ様に、ご挨拶しなさい」
思わず頬擦りたくなるほど可愛い子供だった。城島ははにかむ子供の頬を指先でつついて
挨拶した。
「詩織ちゃん、城島と申します。よろしくね」
子供の邪魔にあって、この心時めく再会ははこれで終わりを告げたのだが、自宅も電話番
号も知っているのだから、上野と同じように、お線香を上げに行けばよい。別れ際にみせ
た女のねっとりとした視線は、それを待っていると匂わせているようだった。
 そして数日後電話をかけ、自宅に押しかけ、そしてなるようになった。香子は篠田の
二番目の妻で、あの日は先妻が残した二人の子供と別荘へ行っていたのだという。葬式に
訪れ、二言三言言葉を交わした城島を覚えていて声を掛けてきたのだ。
 篠田は最初の妻を31歳の時に亡くし、自殺する二年前、総務部の部下であった11
歳年下の香子と再婚した。事件後、香子は旧姓に戻り、篠田の残してくれた狛江の600
坪の自宅に二人の子供と住んでいる。

 着替えをすませるとベッドに腰掛け、安らかな寝息をたてる香子の横顔を見詰めてい
た。髪を撫でると、香子が目を覚ました。城島が声をかけた。
「ご免、起こしたみたいだね」
「いいの、起こしてくれて良かった。そろそろ夕飯の時間だわ。一緒にお買い物に行きま
しょう。ねえ、今日は何が食べたい」
体を起し、瞳をくりくりさせて問う。
「そうだな、うーん……」
答えなどあるはずもない。家に帰る前に実家に寄って母親から小遣いをせしめなければ今
月乗り切れない。
「ねえ……」
「申し訳ない。悪いけど、そろそろ帰らないと。女房には箱根で接待ゴルフだと言ってあ
る。だから、今、ぎりぎりの時間だ」
「だってまだ早いじゃない。奥さんがそんなに怖いの?」
「いや、実家に……、実は母親が寝込んでいる。見舞ってやらないと……」
そんな言い訳など聞こえなかったように反論する。
「それとも、奥さんのところに帰りたいっていうこと?」
「そんなことない。勿論君と何時までも一緒にいたいさ。だけど、それは今のところ叶わ
ないんだ。そこを分かって欲しい」
香子の見上げる瞳が潤んでいる。今にも泣き出しそうだ。
「そんな悲しそうな顔をするなよ。俺だって仕事も接待もあるのに、週2回も機会を作っ
ているし、こうして週末だって泊まりにきている。これ以上、俺を困らせるなよ」
香子の唇が動いた。小さな声だ。城島は聞きとれなかった。
「今、何て言ったんだ?」
「……」
俯いたまま目を合わそうとしない。城島が顎に手を添え、顔を持ち上げた。涙が一筋こぼ
れて、城島の指を濡らした。小さな唇が開かれた。
「でも、毎日、会いたいんだもの」
こう言うと、背中を向けて肩を震わせている。城島は両手で香子をぎゅっと抱きしめた。
香子のしっとりとした肌が掌に吸い付く。胸がきゅんとして切なく、可愛さ、愛おしさで
胸が一杯になる。その時、女房と別れようと決意した。

 そんな或る日、一人の男が会社に城島を訪ねてきた。受付で顔を合わせると男は秘密
めいた微笑みを投げかけてくる。受け取った名刺を見ると近藤探偵社とある。近くの喫茶
店で話を聞くことにし連れ立って会社のビルを出た。
 店に腰を落ち着け、コーヒーを二つ注文する。探偵は、コヒーが運ばれ、ウエイトレ
スが去ると、開口一番こう切り出した。
「篠田さんは、あの女に殺されたんです」
城島は黙って探偵の視線を受け止めている。篠田は、城島の見ている前で自殺した。他殺
などありえない。心のうちでせせら笑っていた。近藤が続けた。
「篠田さんには3億の保険金が掛けられていました」
こう言うと、探偵は視線を真っ直ぐに向け、城島の反応を見ている。城島は微笑みながら
答えた。
「実は近藤さん。篠田が自殺するその現場に、私は居たんです。勿論、警察ざたは困るの
で、秘書の方に断ってその場を立ち去りましたがね」
「ほう、現場にいて、ビルから身を投じるのを見ていたと言うのですか」
「ええ、私と秘書の女性、二人で見ていました。止める暇もなく、篠田はあのビルから飛
び降りたのです」
「なるほど」
近藤はじっと城島の目を見詰めたままだ。すると今度こそとどめを刺すといった調子で、
顔を近付け声を押し殺して言い放った。
「彼女が保険金を手に入れたのは、これで2度目です」
城島はここで初めて表情を変え、口を開いた。
「ということは、結婚は二度目ってことですか」
「ええ、最初は18歳の時、やはり10歳年上の方でした。その方も結婚して二年後に自
殺して、彼女は2億の保険金を受けとっています」
「でも、何度も言うが、篠田は私の目の前で自殺した。彼女が殺したわけじゃない」
「ええ、その通りです。前の事件では、彼女、もしくは恋人が犯行に及んで、自殺に見せ
かけることも出来た。しかし、今回はさっぱり分からない」
城島はこれを聞いて漸く胸を撫で下ろすと同時に、絶対に結婚しようと決意した。香子は
5億の金を持っていることになる。会社など辞めてしまっても良い。ふと、或ることを思
い出した。
「近藤さん。ちょっとお願いがあるんですが、相談に乗ってもらえませんか」
近藤は、怪訝そうに顔を上げた。
 城島が近藤に頼んだのは、かつて泉美の身辺調査した会社を探し出し、調査資料を入手
することだった。実を言うと、城島はかつて頼んだ探偵事務所を失念してしまったのだ。
神田であったことは確かなのだが、場所も名前も覚えていなかった。
 当時、その探偵は泉美の浮気相手を突き止めていた。しかし、離婚する理由が失われ
契約を途中解除したのだ。料金が安くなると思ってそうしたのだが、さにあらず、全額請
求された。レポートをどうするか聞かれたが、険悪な雰囲気のまま「ドブに捨ててくれ」
と怒鳴ったのだ。泉美の相手など見たくも知りたくもなかったからだ。
 数週間後、近藤から会社に電話があった。例の喫茶店で待っていると言う。すぐに駆
けつけると、以前と同じ席で待っていた。城島が席につくと、近藤が口を開いた。
「こんな偶然があるんでしょうか。奥さんの浮気の相手、誰だったと思います?」
「分からないから貴方に頼んだんですよ。いったい誰なんです」
「そう、急かさずに、まず、写真を見て下さい。幸い同業者が、処分せずに残していまし
た。でも、まさかこんなことが……」
城島は笑いながら答えた。
「何が偶然だと言うんです。まさか女房の相手が篠田なんて言うんじゃないだろうな」
写真を手にして視線を移した瞬間、その表情から笑いは消えていた。目を剥き、あんぐり
と口を開け、写真を見詰める。そして視線を近藤に。苦笑いしながら近藤が口を開いた。
「仰る通り、相手は篠田さんでした」

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第143号(7月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 
 赤井さんの超短編を読んでいると旅に出たくなります。ひとりでふわっと出て行って、
遠くの知らない空気を吸ってみたくなります。
 が、残念ながらしばらくそんな蒸発はかなわないので、代わりに近所を散歩してみたり
するのです。最近になってJRの線路が高架化されたので、今ではもう使われなくなった
踏切があちらこちらに残っている土地です。打ち捨てられたものが好きです。いや別に打
ち捨てられているわけでもないのでしょうが。

 とりとめがなくなってきたのでこの辺りで打ち止め。

 引き続き原稿、募集中でございます。編集部までお気軽にお問い合わせください。
 それでは、また。 

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は7月25日を予定しております。では、またお目にかかりましょう。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年7月15日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:遥彼方
           キセン
       ご意見ご感想:
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