文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

全て表示する >

雲上マガジン vol_140

2007/06/15

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第140号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/6/15
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第27回
 【3】 宮本淳世「怨時空」           第2回
 【4】 文芸座談会               第2回
 【5】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 みなさまどうもこんにちは、遥彼方でございます。
 いや、はや、なんだか、日々が嵐のようでして、つい一週間前のことが一年くらい前の
ことのように思えます。ええ。雲上に載っけるための小説を読んでは、あぁもう創作がし
たいなぁと思う日が続きます……しばらくは。
 
                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第27回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 揺らめく光景、うつろう季節、秋と冬をめぐる夢想。

 ……………………………………… 「種まきの十一月」 …………………………………

 目を開けた。自由な空気を吸った。自分の王国を見た。
 ここがただの囲い地に見えたことがある。よそから水を引けばより豊かになるように思
 ったことがある。
 領土の外に出るべきだと感じたこともある。少しの草と数本のねじくれた木々の向こう
 はいきなり縁で、その先に行くことが勇気であり冒険であると信じた。
 今、私は足元を見る。私が踏んでいる土地を。二つの靴の周りに広がる土を。
 鍬を振り上げ、自分の畠を耕す。
 腕に返ってくるのは、ひどくなじみがあり、あまりにもあたりまえすぎて照れる感覚。
たったこれだけのことがこれまでできなかった。
 長らく眠って夢ばかりを映していた自分の目を信じられない。堅い土の中から鍬で掘り
起こしたのは大小の金塊、数々の像、しかしそれを集めた一角は、ほかの人が見たら石の
小山かもしれない。それでもこんなに日を照り返している。私の目がおかしいのかと目を
こすると土が入って痛い。
 しばらくは続けるだけでよかった。土地はすっかり耕した。
 柔らかく膨らんだ土に埋める種を持っていない。けっきょく、胸を開いて心臓を埋めた。
夜のうちに獣に掘り起こされて食われるかもしれない、地中の虫にひそかに血を吸い取ら
れるかもしれない、それとも愚かな自分の鍬が不注意にも己の心臓に触れて、私は春を待
たずに目を閉じるかもしれない。
 どうしてこんなことになっているのだろう。十一月の太陽を見上げて汗をぬぐう。これ
から雪の降らない冬が来て春になる。その間に、育てなければいけない。育てたことなん
て一度もない。座って見守るのは育てるのとは違うだろう。しかしそれは私の心臓だから、
答えを知っているのは一番に私のはずなのだ。

 ……………………………………… 「冬の思い出」 ………………………………………

 わたしのマグマをわたしは知っていて、そんなマグマを抱えている弱いわたしに、わた
しは少しずつ復讐している。
 そうして、そんなマグマをわたしに与えた連中に復讐している。
 光は闇を見通すが、闇は光を理解しない。
 わたしは、見通して書き記す。
 この手の指先が何を生むか。雲と並木の陰で、かがみこんで冬を固め、両手に丸めた。
醜いものを霜で包んで、きらめく光に凍えさせた。そんな戦闘を通じて、→をつけた。も
う間違えないように。誰もにせものを幸せと勘違いしないように。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第141号(6月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 怨時空 第1回
                 著/宮本淳世
 ──────────────────────────────────────

 滲み出す憎しみ、日常にゆっくりと広がる歪み。
 ひとの闇と業をめぐる、不穏でミステリアスな物語。
 
 ………………………………………… 第一章 ……………………………………………

 二人の生活に変化が起こったのは、流産から三年後である。泉美は結婚直後からブティ
ックを経営していたが、それまで売上はぱっとしなかった。しかし、太り出したのを機に、
店をビッグサイズ専門店に衣替えすると、お客がどっと押し寄せたのだ。
 城島はその成功に目を見張った。そしてこれが城島に経済的ゆとりと、思うままの生活
をもたらせた。城島はサラリー全てを小遣いとして使えたし、他の営業マン以上の接待で
売り上げを伸ばすことが出来たのである。
 泉美の方は、生活ぶりが派手になったとはいえ、夜は趣味の油絵に没頭しており、次々
と作品を仕上げてゆくし、休みの日にも出かけている様子はない。どうも腑に落ちず、泉
美の携帯のメール、住所録、履歴を調べてみたが、それらしい男の影もない。
 しかし、男なしでは生きられない泉美のことだ、何かあると思い、よくよく調べてゆく
と、ある符合に気付いたのだ。女友達からのメール、餡蜜屋での待ち合わせの約束が入っ
た翌朝、泉美はシャワーを浴び、念入りにめかしこんで出かけるのだ。
 まったく笑ってしまうのだが、蓼食う虫も好き好きとは良く言ったもので、どこでどう
知り合ったのか、泉美には恋人がいたのである。しかし、城島は見て見ぬを振りをするこ
とにした。或るときなど、そのことで鎌をかけたことがある。
「泉美、先週の金曜日の昼頃、ブティックに電話をいれたら、仕入れに出かけていて今日
は戻らないと言っていたが、本当に仕入れに行っていたのか」
その日は、朝、シャワーを浴び、念入りに厚化粧をする泉美の様子でデートだとぴんとき
たのだ。泉美は一瞬ひるんだが、気を取り直し、きっぱりと言った。
「当たり前じゃない、あの店は仕入れが勝負なのよ。お得意さんが何を求めてるかを見極
めて、それを問屋街で探すの。一日仕事よ。足が棒になっちゃったわ」
「しかし、仕入れの日に限って、シャワーを浴びて、厚化粧して出かけるのはどういうわ
けだ? 」
城島が、にやにやしながら聞いたのが気にさわったらしい。泉美がむきになって言い返し
てきた。
「それってどういう意味よ。私が浮気でもしているって言うわけ。そんな言いがかりをつ
けて離婚しようたって、そうは問屋が卸さないわ。あんたが好き放題やっていることは、
こっちだって知っているんだ。もし離婚しようというなら、このマンションは私が貰うか
らね。いい、浮気をしているのはあんたの方なんだから」
城島は、この話題で深入りはしなかった。泉美の言う通りだったからだ。
 しかし、或る時、城島の遊び相手の女が妊娠し、女房との離婚を迫られるという事態に
見舞われ、城島は泉美の浮気の証拠と掴むために探偵を雇った。浮気の証拠をつきつけ、
離婚を有利に運び、泉美をお払い箱にしようと決心したのだ。
 しかし、その調査は途中で止めさせた。というのは、その妊娠が嘘だと分かったからだ。
この時、ほっとする自分を不思議に思った。泉美との離婚は常日頃の願望ではあったが、
自由にお金が使え、遊び放題の生活にもやはり未練があったのかもしれない。

 城島は広告代理店に勤めている。勤続15年で第一営業部の課長に抜擢された。しかし、
今期は全社の売上目標未達成で、社長以下経営陣は全社員に新規開拓の大号令を発した。
城島の課は120%達成率であったが、決して例外というわけにはいかない。
 大手企業を担当して長く、新規開拓から遠ざかっていたため、城島にはそれが心の重荷
だった。しかし、ワンマン社長の命令で一人最低一社がノルマとなり、ボーナスの査定の
対象になると言う。城島も必死にならざるを得なかったのである。
 城島は早速大学の卒業名簿を取り寄せ、その中に、篠田翔の名前を見出した。大手自動
車メーカーの総務部長の肩書きであった。城島はすぐさま電話番号を控えた。篠田ならば
城島の期待に応えてくれるはずである。城島は思わずにんまりとした。
 篠田とは大学の演劇部で知り合った。互いに母一人子一人という家庭環境が近いという
こともあり、知り合って直ぐに親しくなった。或る女性を張り合って、一時険悪な関係に
なったことはあったが、四年間通じて同じ時間を共有した友人であることは間違いない。
 そして、篠田は、あの忘れがたい事件の主犯である。城島は死体を運んで遺棄したに過
ぎない。事件以来、篠田とは数える程かしか会ってはいないが、あの事件のことを忘れる
はずもなく、ケツの穴の毛を残らず抜いても文句は言えないはずである。

 城島は秘書に通された応接室でコーヒーを飲みながら旧友の面影を思い浮かべた。どう
変わっているか楽しみだった。篠田の自分勝手な性格からいって出世するとは到底思えな
かったが、それが大手自動車メーカーの総務部長とは畏れ入ったと言うしかない。
 秘書が笑顔を作りながら応接室に入ってきた。先客があり、しばらく時間がかかるから
と応接に案内されてから10分もたっている。
「城島様、お待たせ致しました。どうぞ」
秘書がドアを開け、そのままの姿勢で待っている。城島はアタッシュケースを引き寄せ、
おもむろに立ち上がった。篠田にCM枠の一つくらい買わせるつもりだ。もし言うことを
聞かなければ、あのことを匂わせてやってもよい。たとえ時効が成立したとはいえ、やっ
たことの責任は消えないのだから。
 秘書が重厚なドアを外側から開け、総務部長室に入るように促している。城島も鷹揚に
頷き、歩を進める。秘書と目が合った。美人だがどこか冷たい表情が、一瞬、城島を不安
にさせた。そんな思いを振り払い、城島がドアの内側に顔を覗かせた。
 篠田は昔のままの顔でそこにいた。城島はにやりとして室内へ一歩入った。篠田の顔が
一瞬にして歪んだ。そしてうわずるような声を漏らした。
「お前は、死んだはずだ。な、な、何故……」
絶句したまま唇を震わせた。まるで幽霊にでも出会ったように驚愕の表情のまま固まって
いる。城島は秘書の方をちらりと見て言った。
「おい、おい、俺が死んだなんて誰から聞いた? 俺は確かにこうして生きているよ。そ
れに、こちらの秘書の方に電話して、俺の名前を言ったはずだ」
見る見るうちに篠田の顔は、恐怖で引きつってまるで別人のようだ。椅子から立ちあがり、
よろよろと城島から逃げようとする。足元がおぼつかない。机の上の水差しがガチャンと
いう大きな音をたてて倒れた。城島はあっけにとられ、見ているしかなかった。
 部長室の物音に驚いて、秘書が城島を押しのけ部屋に入って来た。秘書は思わず手を口
に当てた。異変に気付き、篠田に声を掛けた。
「部長、どうなさったのです。城島様です。サンコー広告の城島課長です。アポイントは
頂いております。部長にもそう申し上げました。……」
篠田は、這いつくりばりながら窓に向かった。レバーを握って、窓のガラス戸を開けよう
としている。ようやくこじ開けると、そこに右足を上げ這い登った。秘書の悲鳴が響く。
その声に振り返り、篠田は恐怖に歪んだ顔を城島に向けた。
 その目は城島に救いを求めるかのようだ。その顔が奇妙に歪んだ。頬は恐怖に震え、唇
には泡を浮かべている。レバーを握った手の指が一本一本離れてゆく。篠田の視線が自ら
の指に注がれ、絶望がその顔に広がった。
 次いで篠田の視線は深い谷底へと向けられた。城島からその表情は見えない。その体が
スローモーションのごとくゆっくりと傾き、奈落の底へ落ちてゆく。「ぎゃー」という悲鳴
が次第に遠のいた。19階のビルから、篠田が飛び降りたのである。
 城島は唖然として見ているしかなかった。秘書は悲鳴を上げながら窓に近寄った。窓か
ら下を見下ろしていたが、しばらくして腰が抜けたようにへたり込んだ。城島は咄嗟にこ
こに残るのは得策ではないと判断し、必死の思いで秘書に声を掛けた。
「申し訳ないが、私はこれでお暇するよ。あんたも見ていただろう。私は彼に何もしてい
ない。奴が勝手に飛び降りたんだ。俺はこの事件とは何の関係もない、そうだろう」
秘書は顔面蒼白のまま頷いた。
 エレベーターでロビーまで降りた。誰も異変に気付かず、何事もなかったように、笑い、
話し、或いは黙々として行き交う。ビルを出ると、遠くに人だかりが出来ている。血の海
に横たわった篠田の姿を想像して鳥肌が立った。
 城島はその方向に向けて合掌し、そそくさと歩き出した。後を振り返らず、足の裏のみ
に意識を集中し歩きに歩いた。頭の中は真っ白だった。何故、何故、その言葉だけが宙に
舞っている。何の答えもないまま、30分ほど歩き続けた。
 ふと、篠田の特異の性格を思い出していた。篠田は極端に集中力のある人間だった。の
めり込むと回りが見えなくなってしまう。意識が一点に集中する様子は、見ていても分か
った。演劇にはそういう能力が必要なのかもしれない。
 しかし、その才能は、プラスにも働くこともあるが、マイナス面もなきにしもあらずで、
総務部長になれたのは、その才能がプラスに働いたからかもしれないが、結局自殺したと
いうことはそのマイナスの面が一挙に吹き出した結果とも考えられる。
 城島は篠田の恐怖に慄く様子を思い出し、自らも震えた。篠田は何に怯え、何に恐怖し
たのだ? 城島の突然の訪問が彼に異常をもたらしたのか。しかし、アポはフルネームで
取ったのだから、城島が来ることは分かっていたはずである。
 それにしても、最初の一言が気になった。「お前は死んだはずだ。……」とは、どういう
意味なのか。篠田は誰かから城島が死んだと聞かされていた。それが生きていたと知って、
驚きのあまり気が狂ったのか。しかし、その程度のことが引き金になるとは思えない。
 篠田はそれ以上の何かに恐怖していた。まして自殺とはいえ何処か不自然さが伴う。あ
のギクシャクした動きは尋常ではない。まるで操り人形だ。篠田を操る黒い影? 想像し
た途端、背筋に冷たいものが這い上がり、ぞぞっと体が震えた。

 その夜、城島はぐでんぐでんに酔っ払って家に帰った。飲まずにはいられなかったのだ。
真夜中を過ぎており、泉美は寝ているはずだが、居間には人の気配がする。一瞬、恐怖に
かられたが、恐る恐るドアを開けると、泉美のでっぷりとした後姿が見えた。
 城島はほっと胸を撫で下ろし、居間に入ると幾分おどけて「おす」と言って、女房の向
いに腰をおろした。
「水をくれ」
泉美は無言でソファから立ちあがった。城島は、その背中に声をかけた。
「今日、俺の大学時代の友人が自殺した。俺の目の前で」
泉美は振りかえり、大袈裟に驚いて見せた。
「本当、貴方の目の前で。そんなこと信じられないわ。でも何で? 」
「それが分からないんだ。そいつは俺が死んだはずだって言った。つまり、死んだはずの
人間が尋ねてきたもんだから、驚いて正気を失ったのかもしれない」
「でも、そんなことで気が狂うほど驚いて、自殺するかしら。誰かから、あいつは死んだ
と聞かされていても、本人が現れれば、あれー 、お前死んだって聞いたけど、とかなん
とか言って、それで終わりよ」
「ああ、その通りだ。まったく、何故あいつが自殺したかさっぱり分からない」
こう言った瞬間、ふと、あの事件のことが脳裏をかすめた。あの事件が引きがねとなった
可能性は否定出来ない。城島と同じように、あの日、篠田も時効成立を祝ったであろう。
そして忘却の彼方から共犯者が現れ、自制心を失ったのか?
 或いはあの少女が……。ガラス越しの深い闇の彼方からふわっと少女の面影が浮かんだ。
心臓の鼓動が聞こえそうなくらい高鳴った。慌ててその面影を手で払いのけ、頭を強く横
に振った。泉美が水を満たしたコップを運んできた。そして言った。
「でも、大学時代の友人なんて聞いたことなかった。そんな親しい人がいたなんて、あん
た一言も言わなかったじゃない」
城島は恐怖から立ち直り答えた。
「ちょっと厭なことがあってな、卒業後は付き合っていなかった。でも、本当に気の合う
奴だった」
「何ていう人、その人」
「篠田っていう。篠田翔。本当に良い奴だった」
泉美はくるりと踵を返し、台所に消えた。暫く音沙汰なかったが、洗物をしているらしい。
こんな夜に、洗物? 不思議に思ったが、気にもとめず水を一気に飲んだ。考えてみれば、
女房とこんな普通の会話を交わしたのは久しぶりであった。
 台所から声が聞こえた。よく聞き取れず、怒鳴った。
「おい、何て言ったんだ」
ややあって、泉美が大きな声で聞いた。
「その人、何処に勤めていたの」
「三和自動車だ。そこの総務部長だった」
「へー。」
会話はここで途切れた。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第141号(6月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 文芸座談会          第2回
 ──────────────────────────────────────

 さる5月7日、文芸スタジオ回廊(http://magazine.kairou.com/)に創作者がふたたび
集結。「魅力的な人物を書く(描く)ために行っている努力」をテーマに、それぞれの創
作スタンスについて熱く語り合った、その記録。

 ………………………………………… パート2 …………………………………………

秋山真琴(秋 山):
言わずと知れた「回廊」編集長。小説に「廃墟と都市」(「回廊」第十号)など。

遥彼方( 遥 ):
「雲上」編集長、「回廊」編集部員。連載コラムに「旧式ラジオ」、小説に
「Phantasmagoria-Melanchoria」(「回廊」第七号)など。

夏目陽(夏 目):
「回廊」宣伝班長。コラムに「失われた楽園を求めて」(「回廊」第九号)、小説に「彼
女が愛するUFO」(「雲上」連載)など。

雨街愁介(雨 街):
小説に「雨日」(「回廊」第九号)、超短編に「DO YOU KNOW WHERE THEY ARE GOING?」
(「回廊」第十号)など。

踝祐吾( 踝 ):
「回廊」コラム班長、製作班長。連載コラムに「積読にいたる病」、小説に「さよなら、
異邦人」(「回廊」第七号)など。

遠野浩十(遠 野):
小説に「ラーメンを食べに行こう!」(「回廊」第九号)など。

からすとうさぎ(烏 兎):
小説に「ラストパピヨン」(「回廊」第十号)など。

キセン:
「雲上」編集部長。小説に「Don't Trust Over Zero.」(「回廊」第十号)など。

六門イサイ(六 門):
「回廊」副編集長。小説に「歓喜の魔王 FRUDEN・ALBERICH.」(「回廊」第十号〜)など。

芹沢藤尾(芹 沢):
小説に「陽炎の夏」(「回廊」創刊号〜)など。

 遥 :はい、では次は夏目さんどうぞ。

夏 目:とりあえず、私は登場人物に関しては書くときにはかなりどうでもいいとおもっ
    ていますし、読んでて魅力的じゃないなあと思ってます。だから、なっちゃんが
    この話をするには不適切だと思うのです。

 遥 :逆に、どういう訳で、キャラクタはどうでもいいと思うのでしょうか?

秋 山:なっちゃんの小説と言えば、写実主義。そこらへんから切り込めそうな予感。

夏 目:私の小説は世界ありきです。世界観ではありません。私の見ている世界ではなく、
    皆が共用している世界です

 遥 :えーと。読者が物語りに入っていくひとつの足がかりになるのが「キャラクタの
    魅力とか個性」だと思うんです。

夏 目:世界の次には社会があります。そしてやっと個人にたどり着くわけですが。私は
    おおよそ読者を想定していません。読みたければ読めばいい、読みたくないなら
    読むなのスタンスです。だから私は世界の創造をする際、導入となるであろう登
    場人物の魅力を削ってでもその世界の歴史を書き続けるのです。

雨 街:なかなかすごい発言が。

 遥 :いち個人から見た世界には興味は無く、無色透明の神さんの視点からみた「世界
    そのもの」を描くことに興味がある、と。

秋 山:踝さんがきっと何か言いたいはず。

 踝 :キャラクタ小説全否定やね。

遠 野:全否定ではないのでは。なっちゃんのスタイルがそうであるだけで。

夏 目:ならば個人が世界に対して、圧倒的な無力を感じながらも出来ることはあるのか
    っていう話を夏目はよく書きます。

 踝 :うーん、何か言いたいったって……作劇法が完全に対極の位置にあるから特に何
    も言うことがないのですが。

夏 目:ありますよ。だって私は嘘を書いているんだもん。なくたってあるといいます。

雨 街:じゃあいいますが、そんなものは本当に存在するのでしょうか?

秋 山:なんか回廊が、なっちゃんの小説とイサイどんの小説が、同時に掲載されうる雑
    誌だと思うとゾクゾクするね。

 遥 :広いね回廊。

 踝 :まぁ、スタイルがそうあるだけで、というのは同意。夏目さんの読書遍歴を見る
    限りではキャラクタ小説が嫌いじゃないってのは分かるので大丈夫ですよ。

夏 目:大切なのはあるかないかを考えるのではなく、あることを盲目的に信じることな
    んです。

雨 街:じゃあ、神からの歴史、とはただ事実のみがそこにある世界ではないのですか。
    んで、それをしたければ単に『世界』を箇条書きすればいいのでは。小説にする
    必要はないと思います。

 踝 :架空戦記とか、スペースオペラとか(ちょっと違うか)

夏 目:歴史ならばそうでしょう。事実のみがそこには存在します。

 遥 :まあ、本気で神の視点からの世界を書こうとするとただの年代記になるっきゃな
    いような気がするなあ。
 
 踝 :叙事詩、というジャンルもあるので、一概に「それは違う!」とは言えないので
    すが。

雨 街:叙事詩にもそこに『語り手』という取捨選択をする存在があるでしょう。

 踝 :別に語り手が作者自身だっていい気がしますよ? なんだろう……「赤朽葉家の
    伝説」のモデルになった360年間の歴史を何らかになぞらえて……って小説があっ
    たような。

雨 街:『百年の孤独』ですか。でもあれも取捨選択がある。

秋 山:『赤朽葉』は『百年の孤独』を模倣した、マジック・リアリズムですよ。

夏 目:なんだろう。話が一人歩きしてる。

 踝 :うーん、僕の勘違いの部分があったら申し訳ないです。

雨 街:夏目さんがいっていることは、語り手そのものの否定に聴こえます。勘違いでし
    ょうか? というか、『主体』というか。

 遥 :雨街さんの言いたいのは「神の視点からみた世界を描くことは不可能、それは小
    説のやることではない」 ということ?

雨 街:はっきりいうと、そうです。『神』っていう主体がいるなら別ですが。

 遥 :「神」っていう主体で小説を書こうとすると、神さんは個人のレヴェルに降りて
    きてもらわないといけないような。あ、それで、なっちゃんの言ってることは
    「主体の否定」に繋がるってことですかね?

夏 目:私の言いたいことを整理するなら、世界(歴史)に対して個人というのは圧倒的
    に無力である。私たちはそれを知っている。だから、何もしないんじゃなくて、
    その圧倒的無力を感じながらも、個人は一体何が出来るのということを世界の方
    向から私は書いている。だから、世界から見れば個人というのはとてもどうでも
    いい存在なのです。

秋 山:それがちょっと不思議なのだよねー。

夏 目:たぶん、みんなは世界と個人の拮抗を個人のほうから見て書いているんだと思う。

雨 街:ええと、主体を否定しているわけではまたちょっと違うということですか。

夏 目:別にそういう意図があるわけじゃないし、そんなこと考えたこともない。

烏 兎:世界の方から「書こうとしている」ということですかね。実現できてるかどうか
    はともかくそれを目指す?

雨 街:たぶん、夏目さんは昨今のキャラクター小説への不満感みたいな――キャラ主体
    の創作観というか、そういうのじゃないのをやっています、ってことですか。

(司会 遥→踝)

 踝 :次の人に行きましょう。遥さん、テーマ「魅力的な人物を書く(描く)ために行
    っている努力を教えてください」

 遥 :えーと。自分の場合、ふつうの日常が突然歪んでおかしくなる、その瞬間に興味
    があって、回廊ではそういう話ばっかり書いています。

 踝 :幻想文学ですな。

 遥 :なので、キャラクタの動く舞台も、大事件とかではなく日常の中が主になります。
    で、えーと。日常の会話、恋人とすれ違ってどーたらこーたらとか、借金の返済
    が間に合わなくてどーたらこーたらとか、そういう会話に気を配るようにしてい
    ます。

 踝 :以前遥さんの作品を読んで思ったのは、登場人物が結構等身大に描かれている気
    がするんですが。その辺は意識したりしたことはありますか?

 遥 :んと。等身大のキャラを書こう、というかたちで意識したことはないです。自分
    が一番興味があるのは物語の構造そのものなので、あまりトんでるキャラを描く
    ことに意識がいきません。思い返せば、だいたいどのキャラも自分のなかから出
    てきています。自分の嫌な部分とか、へたれてる部分とかから。だから等身大に
    見えるのかもしれないです。

 踝 :成程。するとどちらかというと人物よりも物語世界に重心を置いて、人物の描写
    をもってバックボーンに代える、みたいなそんな感じでしょうか。

遠 野:非日常を活かすために、「地に足のついた」台詞や人物を書くことを意識してる、
    って感じですかね。ぶっさんが等身大に感じたのも、そのあたりが理由という気
    がするのですが。

 踝 :確かに、登場人物が自分の分身みたいに思えることはありますね。

秋 山:遥さん自身が描かれているのですか。作品に匂いたつリアリティは、そこに所以
    するのかもしれませんね。

 踝 :非日常世界を描くのに非常識な人間ばかり出てきたらそれはそれで面白くはなり
    そうなんですが、幻想小説にはならないよなぁ、と。

雨 街:やはりこういうものは出てしまうものなんでしょうかね、自分のキャラが。

 遥 :時々自分の考えてることとか、行動がもろに出てきます。ぶち切れて牛乳瓶投げ
    るとか(笑)。ストレスとトラウマ解消、みたいな。

秋 山:牛乳瓶(笑)。遥さんを怒らせると怖いと秋山はメモした。

遠 野:食べ物を粗末にしてはだめ(笑)。

 遥 :もち空ですよ!

遠 野:ああ、中身が入っていたほうが、絵的には面白かったのに(笑)。

烏 兎:自分出ますよね。いつの間にかキャラクターが自分と同じ嗜好を持っていたり。

 遥 :そんなみんなメモるなぁ!

 踝 :では、最後に雨街さん。テーマ「魅力的な人物を書く(描く)ために行っている
    努力を教えてください」

雨 街:とりあえず、魅力ある人物を描くということは、その人物が魅力的である創作上
    の要請がないといけないわけです。それ以外ではまったく薄っぺらでも構わない
    人物もOK、というわけです。んで、魅力的な人物にも二つあると思います。それ
    はただ単に読者の要請にあっただけのキャラ、もう一つは多面的な造形のために
    引き付けられるというキャラ。

夏 目:前者の要請がないなっちゃん。というより受け付けてないぜ!

 遥 :読者の要請っていうのは、ツンデレとか猫耳とか、なんかそういう、ある程度型
    が出来上がってるようなものですか?

雨 街:どちらも否定はしませんが、薄っぺらいのは、目指すべきなのは前者でなければ
    いけないわけです(無論後者でも使えればOK)。後者が造形的。

 踝 :何でもかんでも眼鏡って言えばいいんじゃねぇんだよ、見たいな(違う)。

雨 街:読者が感情移入するときに、『こうありたい』という充足願望を満たすものです。
    否定はしませんが、多いと単なる消費物です。

烏 兎:いわゆる記号的キャラクターというやつですか。恣意的で都合のよいキャラクタ
    ーということですかね。

雨 街:そうですね、そうなります。でもそれがすべてダメではなくて、たとえば『雨日』
   では女の子を薄っぺらにしている。妄想ですから。

キセン:読者は本当にそれを求めてるんですか? 雨街さんは求めてますか?

雨 街:読者が求めているからあるのが小説ではないと思っています。

秋 山:さて、そろそろ時間ですね。本日は皆さま、文芸スタジオ回廊主催の文芸座談会
    にお集まりいただきありがとうございました。

夏 目:登場人物を魅力的に書く方法とは十人十色であるので、君も自分なりの方法を見
    つけてみよう!

秋 山:4時間という時間でしたが、色々な示唆に富んだ話が出て、皆様のモチベーション
    も上がったことと思います。たぶん。また、四ヶ月ぐらいしたら第三回を開催し
    たいと思いますので、そのときはよろしくお願いします。お疲れ様でした!
 …………………………………………… おしまい ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【5】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 先日幸福な夢を見ました。幸福な夢というのはただの夢に過ぎないのですが、それでも
目覚めた後に続く現実をほんの少し色づけてくれます。世の小説や漫画なんかも、それと
同じようなものであってくれると嬉しいですね。

 引き続き原稿、募集中でございます。編集部までお気軽にお問い合わせください。
 それでは、また。 

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
info@kairou.com

 次回の配信は6月25日を予定しております。では、またお目にかかりましょう。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年6月15日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:遥彼方
           キセン
       ご意見ご感想:
           info@kairou.com
       購読の解約および、公式サイト:
           http://magazine.kairou.com/unjyou/

       (c) unjyou_kairou 2007 all right reserved

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
Score!: 90 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。