文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_134

2007/04/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第134号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/4/15
                     http://magazine.kairou.com/unjyou/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「夢盗奴」                 第8回
 【3】 連載超短編「赤井都超短編集」      第22回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
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 まったく触れていませんでしたが、今日はオンライン文芸マガジン「回廊」第十号の
公開日です! 第十号を記念して人気投票、記念コラム、座談会などを掲載するほか、
第二特集「都市」も充実の内容! ぜひよろしくお願いいたします。
                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載小説「夢盗奴」                 第8回
                 著/宮本淳世
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 俗世の縁と怨が絡まりあうこの長編は、あなたの一部をいやおうなく書き換えてゆくで
しょう。五ヶ月に及ぶ長期連載第8回。

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

                  (第五章)

 
二度目の発作のことは覚えていない。会社でのことなのか、それとも家にいるときなの
か、はたまたその途中だったのか、確かな記憶がない。気が付くとここに縛り付けられて
いたのだ。聴覚以外の感覚を失って、孤独と絶望の日々を送っていた。
 初めて洋子の話しかける声が聞こえた時、篠田は必死で叫んだ。
「洋子、俺はここにいる。ここに居るんだ。助けてくれ」
 しかし、その声は洋子に届かなかった。洋子は何事もなかったように語り掛けるだけだ。
それまで篠田は絶望の淵でさ迷っていたのだが、この瞬間、その淵から奈落の底にまっさ
かさまに落ちていった。洋子の声に耳を傾ける余裕などあろうはずもない。
 それからどれほどの時を重ねただろう。来る日も来るも自分の不幸を嘆き、その運命を
呪い、終いには、発病の原因を洋子の作った脂っこい食事のせいだと結論し、最愛の妻、
洋子さえ憎しみの対象にして罵った。
 そして、洋子がベッドサイドに座ることもなくなった。薄情女といくら罵っても、現状
に何の変化もなかった。のろ呪いをかけるまじな呪いを何度もかけたが、その結果を確か
めるすべもない。毎日が苦痛と呪いの連続だった。
 いつの頃か、白髪の老婆が迷い込んでくるようになった。老婆は明らかに狂っていた。
篠田を自分の息子だと思い込んでいる。部屋のネームプレートを見たらしく、篠田を「翔
ちゃん」と呼ぶのである。もしかしたら、息子が同じ名前だったのかもしれない。
 狂人の話など聞く気はなかったのだが、朝の心地よい看護婦の声の他、人の話を聞くこ
ともなく、時間つぶしになると思い、耳を傾けることにした。老婆の子供は交通事故で死
んだという。じっと動かない篠田を、自分の子供だと勘違いして話しかけてくるのだ。
「まったく、翔ちゃんには泣かされっぱなしだった。出産の時だってそうだ。翔ちゃんは
 私の腹を散々蹴っ飛ばして二度と子供が生めない体にしたんだ。それは翔ちゃんの独占
欲のなせる業だった。翔ちゃんは私を独占したかったから、妹や弟のうまれる余地を残し
たくなかった。そうだろう、分かっているんだ」
『おいおい、おばあちゃん、それって考え過ぎだって。そんなこと赤ん坊が、考えるかよ。
腹を蹴ったからといって、赤ん坊のすることだ、たかが知れてる』
「分かっているんだ、惚けるんじゃない。お前は覚えていないだろうが、公園で可愛い女
の赤ちゃんがいて、私はお母さんに抱かせてって頼んだんだ。抱き上げて、頬ずりして、
高い高いをしてあげた。ふと、バギーにいるお前を見下ろしたら、お前は憎憎しげに私を
睨んでいた。そして火がついたみたいに泣き出したんだ」
『それも婆さんの思い込みだよ。赤ちゃんが人を睨んでいる顔なんて想像もつかない。や
っぱりお婆さんは病気だよ。お医者さんに見てもらった方がいい。とにかく、まさに思い
込みだ。それ以外にない』
「いいや、思い込みなんかじゃないよ。私は見たんだ。憎憎しげに睨むお前の顔を見たん
だ。まさにホラー映画を見ているようだった。確か、昔あったじゃないか、二人で見た映
画、そうそうダニヤンとかいう悪魔の子供の映画だ。それを思い出したもんさ」
 篠田はおやっと思った。篠田は心で語りかけたのだが、婆さんはそれに反応するように
言葉を返した。もしかしたらという思いが胸を急激に熱くした。コミュニケーションが可
能かもしれないと思ったのだ。篠田は必死に叫んだ。
『婆さん、婆さん。俺の言ったことが分かったのか、おい、分かったら返事をしてくれ。
頼む、答えてくれ』
「父さんが死んだのも、お前のせいだ。お前は父さんに嫉妬していた。だから、お風呂場
で倒れたお父さんを放っぽらかしにして、ピヨピヨアヒルで遊んでいた。もし、すぐに救
急車を呼べば助かったんだ。分かっているのよ。私を独占したかったんでしょう」
 何を話しかけても、ただただ子供に対する恨み辛みを訴え続けている。微かな期待を膨
らませ過ぎた罰なのだろう、篠田は、まるで階段を踏み外したかのように絶望の深みに落
ちてゆくしかなかった。
 狂人の言葉が続く。涙も出ない。こんな狂人にすがろうとした自分が情けない。しかし、
篠田は、人とのコミュニケーションを欲していた。それは、洋子が何故来ないのか、そし
て勝はどうしているのか、それを確かめたかったからだ。
 洋子は、最初のリハビリであれほど親身に、そして厳しく、励まし導いてくれた。それ
なのに、今度の発病では最初の頃、何度か顔を出しただけで、その後はぷっつりだ。まし
てあれほどなついていた勝が何故見舞いに来ないのか。
 訪問者は相変わらず、朝の看護婦、そして月に一回やってくる老婆の二人。朝の愛しの
君はいつも優しく声をかけてくれる。老婆は来るたびに30分ほど息子の悪口を言いまく
って帰って行く。篠田に語りかけるのは、この二人と時折迷いこむ虫達だけだ。
 老婆の話は、最初は赤ちゃんの頃から始まったが、二月目は幼稚園、三月目は小学一年
と順を追って進んで行く。次第に煩わしく、嫌気がさして来て、この頃はビートルズを歌
いまくって聞かないようにしている。
 老婆が帰るとほっとする。確かに性悪の息子だったのだろう。しかし、それは自分の育
て方にも問題があったのではないかと思える。何故なら、全ての責任を息子に押し付け、
自ら省みることはない。まして子供は愛情をかけてさえいればまともに育つ。
 勝を見ればそれが分かるはずだ。突然、勝が見舞いに来て、この老婆と鉢合せしないか
と思うのだが、その機会はやってこない。何故、勝は来ないのか。きっと何か訳があるに
ちがいないのだ。洋子が俺の知らぬ間に離婚届けを出している可能性もある。
 もしかしたら、と思う。元気だった頃に抱いた疑惑、洋子と山口先輩との疑惑が突如浮
かび上がった。狂おしいほどの嫉妬が胸を掻き毟った。と、突然
『許さんぞ、貴様、許さん、山口そして洋子、殺してやる。呪い殺してやる』
という大きな吠えるような声が聞こえ、篠田は思わず、辺りを窺ったが何の気配もなかっ
た。

 どれほどの時が重ねられただろう。それは孤独と絶望、そして嫉妬の世界だった。老婆
の話はうるさいハエのように、憎しみを倍加させるだけの音に過ぎなくなっていった。老
婆の顔に唾を吐き掛けたいと思うのだが、自分にはその力もない。
 しかし、突然、それは訪れたのだ。椅子のきしむ音。そして荒い呼吸。何が起ころうと
しているのか耳に神経を集中させた。ポツリと男の声が響いた。
「お父さん。ご免」
この時の衝撃を何と表現したらいいのだろう。動かぬ体が衝撃で飛び上がったように感じ
られたほどだ。そして叫んでいた。
『勝、勝じゃないか、どうしていたんだ。お前に会いたかった』
涙が頬を零れ落ちたように感じた。それは錯覚に過ぎなかったのだろうが、本当にそれは
流れ落ちたとしか思えなかったのだ。勝の声にじっと耳を澄ませた。
「俺はアメリカに三年間留学していたんだ。お袋は、親父のことを俺に知らせてくれなか
った。知っていたら、すぐにでも帰国して見舞った。ご免。お袋のことを許してやってく
れ。俺に心配させたくなかったと言っていた」
『分かった、分かった。許すよ、全て許す。お前も知っているだろう。俺が誰に対しても
寛容で忍耐強いことを。お前はそんな俺に育てられたんだ。そんなこと、お前が一番よく
知っているじゃないか』
またしても涙が頬をつたわるのを感じた。
「親父、堪えて生きてくれ。親父が生きていてくれるだけで、俺は力が湧いてくる。そう
だ、交換に、俺が親父の力になってやる。俺の人生を話して聞かせてやるよ。毎週来るか
ら、約束する。そうだ、今日は、今までの話をするよ。俺は三日前までアメリカに留学し
ていたんだ。交換学生ってやつだ」
それから一時間ほど話して帰っていった。熱い思いが波のように後から後から打ち寄せて
くる。感動の波が、勝の語り口とともに甦ってくる。楽しそうな暮らし。刺激を求める若
者の情熱。懐かしさがこみあげてく。確かに、自分にもそんな時代があった。
『勝、生きろ。そして俺に聞かせろ。お前と一緒に生きていこう。老婆よ、お前さんも、
勝と会って話してくれ。勝はきっと、お前さんの心を癒してくれるはずだ』


 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第136号(5月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 連載超短編「赤井都超短編集」      第22回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 時に清新、時に残酷。超短編界屈指の言霊遣い、赤井都の作品を集成! 今回は二作品
を掲載します。

 ………………………………………… 「兄弟子」 …………………………………………

 駅を出たところで夜食にとおいなりを買って、それを胸の前に持って歩いていた。踏切
を渡るときに赤い夕焼け空が見えた。歩いていく道はすぐに両側から家と塀に挟まれ、空
は狭くなる。その空に、動いていくものが見えた。
 大きな屋敷だ。今、数人で梯子を持って、いっせいに庭木に駆け寄った。梯子段を、若
くて大柄な男が駆け上る。しかし梯子はまだ安定していなかった。倒れるかと思うほどに
一瞬ぐらつき、幾つもの腕で元に戻された。上っていた男は空に大きく放り投げられ、再
び梯子に舞い戻った。落ちたときに梯子の先で尻を突いたらしく、男は段の上で小さくな
ってうめいた。梯子を支える兄弟子たちは、いっせいに大笑いした。笑われても男は体を
丸めて腹を抱え、脂汗を流している。手前から梯子を支えている弟弟子一人が、細い面に
同情と不安の色を浮かべていた。
 梯子の上の男は、うめきながら梯子の上で座りなおして腹を見せた。腹が破れかけてい
る。梯子の先は、尻から腹へ突き抜けたものと見えた。
こんなになってまった。
 男の腹は、呼吸のたびにふくふくと破れかけた皮膚の端が浮き上がる。沸騰しそうでで
きないでいる鍋のようでも、熱い飯にかけたかつおぶしが踊るようでもあった。いかにも
中途半端で苦しそうだった。兄弟子の一人が、なにそんなもの治してやろう、と男の腹へ
手を伸ばした。こんなものはな、と兄弟子は指先でそれをつまんで穴を広げた。そのとた
ん、
 ひゃああああ
 と男は叫んでこときれた。
 私はふとんの中で目を覚ました。胸には夜食にといなりずしが一箱乗っている。そして
この話を語るようにと、男の叫び声は強く耳の底に残っていた。

 ………………………………………「小さな人たち」………………………………………

 午後の光の中で、妹がいなくなった。
 二人で林に入って、乾いた枯葉を踏んでいた。山ぶどうの茂みの陰を回って、広い道に
出たのはわたしだけだった。
 ふりかえると木の葉がゆれる。
 先回りして帰ったのかと一人で家に戻った。まだ帰っていなかった。
 けんかしたわけじゃない。探しておいでと母さんに叱られて、わたしはまた林に入った。
さっきよりも少しうすぐらい。
 林はからっぽ。
 ひとめぐり歩いて、また道に出た。ふりかえると木の葉がゆれる。
 妹はきれいな子だから、だれかに深く愛されてしまったんだ。わたしをほしがるものは
いない。一人で家へ走った。
 やっぱり妹は戻っていなかった。
 母さんが替わって探しに出かけた。
 あずけられたしゃもじで、鍋の中の煮物をかきまぜながら、妹は戻ってこないと思って
いた。きっと、力あるなにかに捕えられたんだ。妹はもう、心配事に老けることもなく、
悲しみにあのきれいな顔をゆがめることもない。季節の煮物を食べることもなく、飢える
こともない。白い湯気が空中に消えていく。
 ふりかえると窓の外で木の葉がゆれる。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:info@kairou.com
 次回は第136号(5月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【5】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。

*公式サイト
http://magazine.kairou.com/unjyou/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は4月25日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:info@kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年4月15日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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