文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_127

2007/02/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第127号
         毎月、05日、15日、25日配信         2007/2/15
                     http://unjyou.kairou.com/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載小説「夢盗奴」                 第4回
 【3】 連載超短編「赤井都超短編集」      第17回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 合宿の集合時間まで、あと25分。
                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載小説「夢盗奴」                 第4回
                 著/宮本淳世
 ──────────────────────────────────────

 俗世の縁と怨が絡まりあうこの長編は、あなたの一部をいやおうなく書き換えてゆくで
しょう。五ヶ月に及ぶ長期連載第4回。

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

                  (第三章)  

 
夫婦は、相変わらず二人目に恵まれなかった。しかも、勝が小学校3年になったばかり
の頃、狭心症の発作に襲われ、入院すると言う事態に見舞われた。るり子はおろおろする
ばかりで、その精神的な脆弱さは篠田を苛立たせた。
 勝は半年後に退院出来たのだが心臓に爆弾を抱えていることに変わりはなく、ニトロの
錠剤を肌身離さず持たせて、万が一の事態に備えさせた。か細い首に太めの金の鎖、その
なんとも言えぬアンバランスさが痛々しく、篠田は思わず勝を抱きしめたものだ。
 絵に描いたような幸せな家族に影を射した小さな不幸が、最悪の結末への序曲になろう
とは夫婦ともども考えもしなかった。ただ、るり子は一人息子の不幸に、時に涙を流し、
時に嘆息し、篠田を更に落ち込ませるばかりで、家は暗く沈みがちだった。
 そんな或る日曜日、篠田は夕食前の犬の散歩に出かけた。発病前は、勝と二人で出かけ
たものだが、今は一人だ。門を出ると右に行くか左に行くか迷ったが、すぐに左の道を選
んだ。勝が友達から貰った柴犬は大谷石の塀に沿ってぐいぐいと篠田を引っ張ってゆく。
 このまま行くと、最後にあの忌々しい住宅地に出てしまう。かつては篠田家の裏庭で、
そこにはブナ、楓、栗等の樹が雑然と植えられていて、子供の頃からの思いでの場所だが、
今では6軒の住宅地になっている。篠田は、左に折れススキの繁る川沿い道を選んだ。
 しばらく歩いて、悲鳴をきいたような気がした。散歩の途中だったが、篠田はすぐさま
引き返した。家に駆け付け、るり子を呼んだが返事はない。遠くで勝を呼ぶ声が聞こえ、
それが徐々に近付いてくる。るり子は勝を探して家の近所を必死で駆けまわっていたのだ。
 曲がり角からるり子が飛び出して来た。篠田は駆けよって取り乱するり子を抱きしめた。
るり子が見覚えのあるペンダントヘッドを掌に載せて涙声で言う。
「これ見て。このペンダントを見て、門の前に落ちていたの。どういうこと、ねえ、これ
ってどうゆうことなの」
 篠田はペンダントを取り上げ、じっと見入った。ペンダントの蓋を開けると、ニトロの
錠剤が二つとも残っている。見ると鎖の留め金がなくなっていた。
「どこに落ちていた?」
「この辺よ。確かここだと思う」
 るり子の指差す場所を、篠田は這いつくばって探した。案の定、その留め金がそこに落
ちている。それを拾い上げ重い口を開いた。
「引っ張ったんだ。引っ張って留め金が飛んだ」 
「誰が引っ張ったの。勝が自分で引っ張ったって言うの」
「分からん」
「ねえ、ちょっと、ちょっと、ねえ、聞いて、家で電話が鳴っているわ。厭な予感がする」
 そう言うと、るり子は駆け出していた。篠田も、まさか警察から? と思ったが、すぐ
さま不安を振り払うとるり子の後を追った。
 居間に入ると、るり子の絞り出すような声が響いた。
「お願い、勝を返して。お願い、何でもするから。そんなこと、そんな、警察なんかに電
話なんてしないわ。言われなくたって分かっています。お願い、勝が生きて帰れるなら、
何でもします」
るり子の顔はくちゃくちゃで涙も洟も一緒になって口元を濡らしていた。
 篠田はるり子から受話器を奪うと耳に当てた。男の潰れたような声が響く。
「奥さんよ、分かってりゃあいい。万が一にも警察に届ければ、間違いなく息子の命はな
い」
 篠田が息せき切って受話器に向かって喚いた。
「おい、聞いてくれ。勝は心臓が悪いんだ。もし発作に襲われて、ニトロがなければ死ん
でしまう。金は何とかする。いくら欲しいんだ」
「おや、旦那さんか。その方が話しが早い。いいかよく聞け、一億円を用意するんだ。び
た一文まけない。きっちりと揃えてもらう」
「今日は日曜だ。ましてそんな金などない。現金はせいぜい4千万、証券はあるが現金化
には時間がかかる。家を売ればなんとかなるが、すぐにというわけにはいかない」
「現金が4千万だと、おい、ふざけたことを言うな。近所の噂じゃあ、金庫に金が唸って
いるそうじゃねえか」
「内実は違う。親父の残してくれた財産はあらかたお袋が使ってしまった。俺に残された
のはこの土地と僅かばかりの現金だ。だから一億作るとなると土地を売るしかない。」
「その辺の土地は一坪幾らくらいするんだ? 」
「100万がいいところだ」
「ヒュー、6億か。すげえな。ではこうしようじゃねえか。いいか、よく聞け。坪50万
で大手の不動産会社に打診しろ。明日、朝、一番で電話するんだ、いいな。そして内金と
して一億早急に用意してもらえ。明日、午後7時に電話する。くれぐれも言っておくぞ。
仲間がお前の家を見張っている。変な動きがあれば、子供の命はない。これは脅しじゃな
い。分かったな」
「待ってくれ、せめてニトロを子供に持たせたい。どうすればいい」
「子供は大事に扱っている。安心しろ」
そこで電話は切れた。
「どうするの」 
 るり子の声は震えていた。篠田は、それには答えず、すぐさま駅前の不動産屋に電話を
入れた。裏庭を処分して以来、そこの社長とは親しい。社長は坪50万という言い値に飛
び付いた。明日、午後3時までに4千万円を用意することも承諾してくれた。
 社長は売り急ぐ篠田の様子に不審を抱いたようだが、チャンスをつかんだ興奮の方が勝
った。るり子に明日一番で4千万円を銀行からおろすよう指示し、篠田は出かける用意を
整えた。1億には足りないが、万が一の時の用意だ。実は犯人は分かっていたのだ。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第129号(3月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第17回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 時に清新、時に残酷。超短編界屈指の言霊遣い、赤井都の作品を集成! 今回は二作品
を掲載します。

 ……………………………… 「ぶよぶよとしたもの1」 …………………………………

 ぶよぶよとしたものが隣に座った。嫌だったので、肩をすぼめて手を膝の上に置いた。
すると、ぶよぶよとしたものは、そのままぶよぶよと膨らんで、私があけた空間をすぐに
埋めてしまった。それだけでなく、ぶよぶよと私の腕に垂れかかってくる。嫌だったので、
今度は肘を張った。ぶよぶよとしたものは、私の肘に押され、よけいに肩の上へ覆いかぶ
さった。
その感触に、もうどうしようもなく、そのぶよぶよとしたものが嫌になった。頭の中が白
くなって、なぜ自分がここに座っているのかを忘れ、なぜ隣にぶよぶよとしたものが座っ
ているのか考える余裕をなくした。
嫌だという思いが募って、考えるより先に、私はぶよぶよとしたものを、手で振り払って
いた。ぶよぶよとしたものは床に向かって傾き、しかしむしろ私の膝の上へ寄りかかって
きた。座ったまま脛を動かして蹴飛ばすと、足の甲の上で、ぶよぶよとしたものは割れた。
二つのぶよぶよとしたものになり、たちまち膨れ上がってそれぞれが元の大きさになった。
二倍のぶよぶよとしたものが、私の両側に座った。私は頬が熱くなるのを感じた。ぶよぶ
よとしたものは、両側からぶよぶよと私の肩に垂れかかってくる。思いきり両手で押して、
うんと突き放したら、また二つに割れた。
たちまちのうちに私は、前後左右から、ぶよぶよとしたものに囲まれて座ることとなった。
ぶよぶよとしたものが顔のすぐ前にある。なぜ私はここに座っているのか、これからなに
をするつもりだったのか、全く思い出せない。
ぶよぶよとしたものが私の居場所を奪っていく。これ以上、ぶよぶよとしたものを増やさ
ないように、脇を締めて、身動きしないように座っている。
しかしぶよぶよしたものは、しだいに膨らんでいるようだ。少しずつ肌が圧される。指と
指の間のわずかな空間、膝の後ろ側、鼻と唇の間に、ぶよぶよと入り込まれる。口をあけ
たら即座に喉の奥までそれが入り込むだろう。そうでなくても、肌のすべてを覆われるの
は時間の問題だという気がする。そうして私は生きている。まつげがぶよぶよとしたもの
に引っかかる。ぶよぶよとしたものの向こうに、ぼんやりと壁が見える。目を閉じても、
ぶよぶよとしたものが瞼の中でゆれている。
ここはどこだったろう。なぜこの空間に私は、ぶよぶよとしたものといるのだろう。苦し
い。狭すぎる。もし、この空間のどこかにドアがあるのなら、誰かにドアを開けてほしい。
 そう願っても、ドアは開かない。ぶよぶよとしたもの程度で私は死なない。この空間で
生きている。

 ……………………………… 「ぶよぶよとしたもの2」 …………………………………

 ぶよぶよとしたものが、足の裏にくっついた。足の裏から取ったら指にくっついた。も
う片方の手で取ったら、そちらにまたくっついた。柱にこすりつけたら柱にくっついた。
 ぶよぶよとしたものが体から離れて、ちょっとほっとしたけれど、柱の真ん中にぶよぶ
よとしたものがくっついているこのざまはどうだろう。人を家に呼べない。それよりも、
こんなじゃまな所にぶよぶよとしたものがあったら、通り過ぎるとき私の腕にまたくっつ
いてくるかもしれない。
 ぶよぶよとしたものを、指先で取った。それをごみ箱の中にくっつけようとした。とこ
ろが、指にくっついたまま取れない。もう片方の手も使って払い落とそうとしたが、ぶよ
ぶよと形が流れるだけで、どうにも取れない。両手でごみ箱の中にぶよぶよとしたものを
入れようとしているうちに、両手にぶよぶよとしたものがくっついてしまった。くっつい
て離れない。ごみ箱の縁にこすりつけながら、あまり強く力を入れると、ぶよぶよしたも
のが破れるかもしれないと思った。破れたら何が中から出てくるか、見当もつかない。ど
んなものであるにせよ、後で手を洗ってもきもちが悪そうだと思う。
 両手を頭の上から手前へ振り下ろし、ぶよぶよしたものを振り放そうとした。取れない。
 思いついて、使えない両手のかわりに肘でなんとか蛇口を動かし、流水の下にぶよぶよ
としたものを置いた。それでも取れない。逆に外に出て風に当ててみた。梅雨の雲が厚く、
日差しが残念ながら少しもない。
 湿気でか熱気でか、ぶよぶよとくっついたままの両手が次第に溶けてきた。ぽたぽたと
白いしずくが下に垂れ、外に出ていてよかったと私は思った。家の中だったらまた掃除の
手間がかかるところだった。手も、ぶよぶよとしたものにくっついている間に、ぶよぶよ
としてきたのか、いっしょになって溶けている。両手の先がアイスクリームのようになっ
てしまった。両手からぽたぽたしずくを垂らしているところを、隣の主婦に見つかった。
「おはようございます」
 隣の主婦は足拭きマットの塵を軽く払ってすぐ家の中に引っ込んだ。
 私はまだ、外でしずくをぽたぽたと垂らしている。今朝は朝顔が三つ咲いている。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第129号(3月5日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は2月25日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2007年2月15日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
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