文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

全て表示する >

雲上マガジン vol_121

2006/12/14

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第121号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/12/14
                     http://unjyou.kairou.com/

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第13回
 【3】 オンライン文芸マガジン『回廊』第九号プレビュー編
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 さて、オンライン文芸マガジン『回廊』第九号の公開を前日に控えた今号は、恒例のプ
レビュー編をお届けいたします!

                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第13回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 時に清新、時に残酷。超短編界屈指の言霊遣い、赤井都の作品を集成! 今回は二作品
を掲載します。

 ………………………………………「花ゲリラ暦」…………………………………………

 球根をもらった。亡くなった祖父母の家が取り壊される前に、庭のものたちを引き揚げ
たという、その幾球かが宅配便で届いた。新しい土と共に植木鉢に植え、大事にしたら、
四月に見事なラッパ水仙が咲いた。アマゾンの本を持ってきてくれたペリカンのおじさん
が、花の大きさと色にえらく感心して行った。
 五月、花はなくなり葉だけが垂れている。その鉢に朝顔の種を撒きたくて、球根をこそ
っと取り出した。球根のセオリーは、葉がついている間は、そのまま置いておくことだ。
すると葉から養分が送られ、来年もよい花を咲かせる。
 私の小さな玄関には葉を置いておく場所がない。そこで、近くの公園の隅に埋めさせて
もらうことにした。公園とはいいながら、ほんの少しツゲと楠があるだけの乾いた地面が、
そらぞらしい水色のペンキ塗りの鉄柵に囲まれている、この上なくつまらない所だ。宵闇
にまぎれてスコップを持って進出し、葉のついた球根を地面に埋めた。土がかちかちだ。
 球根を埋めさせてもらうかわりに、朝顔の種を幾つか埋め込んだ。こんな行動を、ゲリ
ラ・ガーデニングと言うそうだ。本葉が三枚になるまで、ジョギングするふりをして公園
の横を通り、水を飲み損ねたふりをしてペットボトルの水を振りまいた。
 七月、太すぎる柵に朝顔の蔓がけんめいに這い上がり、花をつけた。通勤の人たちの目
線が、靴を鳴らして過ぎながらも薄くはかない花びらに留められている。近所に住んでい
るらしい人が、じょうろで水を株の根元にかけているのを目撃した。
八月、誰かにいたずらされたのか、蔓はずたずたにちぎられて乾いていた。
 九月、朝顔があった場所に誰かがマンドラゴラを植えた。あの、水やりしていた人かも
しれない。おとなしそうに見えたが、かなりのやり手だ。私の知るところでは、マンドラ
ゴラはイギリスの怪しげなサイトからの通販でないと手に入らない。高価なものだが、万
一税関で開けられたら留められて手に入らないうえに、お金も戻らず、公安のブラックリ
ストに載ってしまうと聞いた。なにしろマンドラゴラを引き抜くと、その球根が金切り声
を出し、それを聞いた人は死ぬと言われている。ケシ以上に出回らない植物だ。公園の禁
制品はきっと、朝顔を殺した人に誰かが仕掛けた罠なのだ。
 どきどきして救急車の音やタウンペーパーの見出しに気をつけていたが何事もなく、大
型台風の後でマンドラゴラの葉はぐったりと枯れた。日本の湿度が合わなかったらしい。
 十一月、球根を玄関の鉢に戻そうとして、はたと困った。
 細い雑草がまばらに生えるだけの、かちかちの土地が広がる。水仙の葉は既に枯れ果て、
どこにも見当たらない。目印の朝顔もない。マンドラゴラもない。柵の何本目だったか。
この辺りだったか。
 適当にスコップを突き刺したが、乾いた砂利が現れるだけだ。場所を移動しながらあち
こちを掘った。秋の夕はまたたくまに展開する。水銀灯がぼうっとした光で闇を薄める。
 来春、水仙がこの公園で花をつけるのを待とうか、と諦めかけたとき、スコップが小さ
な頭蓋骨を掘り抜いた。道端で死んだ猫を誰かが埋めていたらしい。慌てて埋め戻そうと
土をかけていくと、その掘った下に、今度はかつんと鋭くスコップを跳ね返すものがある。
石、ではなく闇を跳ね返して光っている。土をどけていくとなお赤っぽく輝く。金の延べ
棒が出てきた。重くてカナダ銀行の刻印がついているから間違いない。誰がこんな浅いと
ころに埋めたのか。もう一本ぐらい埋まっていないか。いや、もしあと十本も見つかった
ら。
 時間を忘れて掘り続けた。つまらないこの公園に人気がないのは幸いだが、今にも金の
持ち主が私の肩を叩くかもしれない。急いで掘った。手の皮は両方とも剥けて真っ赤に腫
れているが、構ってはいられない。そのうち、スコップが球根を掘り当てた。
 そうだ、ラッパ水仙だ。これを私は探していた。大きな金色の花は、黄金そのものより
も価値がある。これを掘り当てたからこれでよしとしよう。満足して引き揚げるとしよう。
 球根を土から持ち上げると、耳をつんざく叫びが上がった。

 …………………………………………「夏えびね」…………………………………………

 日曜日にフリーマーケットで鉢植えを買った。小さな芽が土から顔をのぞかせた、白い
プラスチック鉢を一つ。売っている人は、帽子をまぶかに被っていて顔が見えなかったが、
落ち着いた声で、これは夏えびねです、と言った。植え替えはずっと必要ないです、大き
くならないですから。
 この白いプラスチックの鉢がねえ、汚れてるし割れかけてるし、と私は買う前から植え
替えを計画しはじめたが、その人は、植え替えてはだめだ、触ると弱る、このプラスチッ
ク鉢が気になるなら植え替えずに鉢カバーで覆えばいい、と主張した。その主張の強硬さ
に園芸家としてのこだわりを感じて、私はその夏えびねを買った。
 玄関脇に置いて、言いつけどおりの半日陰を保った。適当な鉢カバーを探したが、気に
入るものがない。薄汚れたプラスチック鉢のままであるうちに、葉が伸びてきた。濃い緑
色に、薄い空色の斑点が入っている。
 妙に禍禍しいが、夏えびねとはこんな葉だったか。ガーデニング事典を調べると、空色
の斑点の葉を持つものはマンドラゴラだった。イギリス原産で、球根を引き抜くとそれが
悲鳴をあげ、その悲鳴を聞いた人は必ず死ぬという。
 だからあの売り手は、これを植え替えないようにと強く言ったのだ。
 変なものを掴まされた、と思ったが、うっかり捨ててしまうと、ごみ収集中に誰かがマ
ンドラゴラの悲鳴を聞いて死ぬはめになるかもしれない。それ以上に、これは幻の植物、
世界のガーデナーの憧れだ。めったに手に入るものではない。なにしろ植え替えができな
いのだから増やすことができない。それが原産地を遠く離れ、極東のフリーマーケットで
たった三百円で売られていたのだから、たいした買い物をした。
 プラスチック鉢は割れかけている。これが割れると悲劇が起きそうなので、気に入らな
い模様のうえに五百円もしたが、ともかく鉢カバーを買ってきて被せた。
 マンドラゴラを持っているガーデナーなんて、まずめったにいないだろう。すばらしい
掘り出し物だった。
 朝に夕に、玄関の出入りのたびに眺めるうち、次第に私は思うようになった。
 それを聞いたら死ぬ悲鳴というのは、どんなものだろう。
 身の毛がよだつというのはどんな死に方だろうか。体じゅうの毛穴から、棘を差し込ま
れて真っ赤になっていく気がするのだろうか。
 脳が声でかき混ぜられ、何もかも溶けていくような死に方だろうか。
 それとも。
 実は、どんな死に方なのだろう。どうやって死ぬのか。
 マンドラゴラを鉢から引き抜きたくて、たまらなくなる。葉を掴んで土から引きずり出
してみたい。鉢を蹴飛ばして、マンドラゴラを転がしてみたい。
 次の日曜日のフリーマーケットに出ることにした。水色の斑点をマジックで塗りつぶそ
う。なんとしてもこれを、誰かに売ってしまおう。植え替えてしまったり、簡単に捨てて
しまったりするような、分別のない人にはだめだ。自分でもガーデニングをやっていて、
知識と知恵がきちんとあり、多肉植物の一種です、と売っても、後でその葉を調べてマン
ドラゴラとわかる人に。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第122号(12月25日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 オンライン文芸マガジン『回廊』第九号プレビュー編
                 著/恵久地健一
 ──────────────────────────────────────

 いよいよ公開を明日に控えた『回廊』第九号。その魅力を『雲上』宣伝部長、恵久地健
一さんに語っていただきましょう!

 …………………………………………… 超短編 ……………………………………………

 どうも、雲上宣伝部の恵久地です。ここ最近は『回廊』の仕事にかかりきりで、雲上の
肩書きは、名ばかりですが……。
 さて、今回は宣伝部の数すくない仕事となる、最新刊『回廊』プレビュー編です。
 これまでは「雲上インタビュー」という企画で、『回廊』参加者のインタビューを掲載
してきましたが、年末の時期で参加者の予定がいそがしいこともあり、インタビュー記事
は休載することになりました。期待されていた方、ごめんなさい。
 その代わりとして、最新刊『回廊』第九号の内容を、私から簡単に紹介します。

 まず、「第一特集」では「少女小説」がテーマとして、かかげられています。
 一般的に「少女小説」といえば、少女読者を対象とした小説、少女を主要な登場人物と
した小説などをイメージされるかもしれません。しかし、曲者ぞろいの『回廊』執筆陣が、
ごく普通の「少女小説」を書くわけがない! というわけで、乞う御期待。
 そんな曲者のラインナップは、最強無双編集長、秋山真琴。ミステリ担当、星野慎吾。
驚異のルーキー、雨街愁介。末席に私、恵久地健一。
 また、表紙担当、からさきうるは。中表紙担当、遥彼方。ゲスト参加、那須花花。小説
扉絵担当、綾風花南、藤堂桜。以上、五名の絵師さんによる少女、あるいは第九号テーマ
の「未明」を題材とした、華やかイラストにも御注目ください。

 「第二特集」として、もうひとつの目玉となるのが「桂たたらトリビュート」です。
 一貫した世界観で作品を書き続ける、『回廊』の赤松健、桂たたらの作品群を題材に、
他の作家陣が二次創作しようという試み。ここでは、よあけの敵(愛称よっちゃん)こと、
遠野浩十が『回廊』初見参。桂さん本人も、新たなジャンルの作品を掲載しています。
 こちらの扉絵は、表紙イラストとマンガ「コドモ失格姉妹」でお馴染み、空信号先生。
副編集長、六門イサイ推薦の絵師、時磴茶菜々。以上のおふた方が担当されています。

 通常の小説作品では、不動の連載小説、芹沢藤尾。青春エロスの新風、姫椿姫子。実力
派のブラックノベル、痛田三。奇想小説、白縫いさや。以上、四名の方々。白縫さんは、
超短編作家としても活躍される方ですが、ゲストとして原稿をいただきました。
 今回は『回廊』の超短編小説でも編集者、水池亘のもと、新鋭の活躍が光ります。
 その他のコラム、エッセイでは、脱力系積読コラムでお馴染みの住居移転中、踝裕吾。
ミステリ小説コラムに雲上編集長、キセン。思想的エッセイに北の土下座使い、夏目陽。
以上、三名の方々が執筆しております。
 また、紙面レイアウトを一新させた制作班、古井先生の活躍も見逃せません。

 これらの内容をふくめ、総数三百ページにおよぶ特大号ですが、ダウンロードは無料。
 最新刊『回廊』第九号は、十二月十五日(金)の発行です。

 …………………………………………第九号に続く…………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com

*****◆◇作者と読者を繋ぐ〜オンライン文芸マガジン『回廊』最新刊 Vol.9◇◆*****

    それは純粋にして、妖しく……はかなくして、強きもの
    古くより表現者の心をふるわせる、至高の題材──《少女小説》特集

*****【未明の第九号】(http://magazine.kairou.com/)近日公開予定**************

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は12月25日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年12月14日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
           unjyou@ml.kairou.com
       購読の解約および、公式サイト:
           http://unjyou.kairou.com/

       (c) unjyou_kairou 2006 all right reserved

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
Score!: 90 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。