文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_117

2006/11/05

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第117号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/11/05
                     http://unjyou.kairou.com/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第10回
 【3】 連載小説「後ろ手にドア」        第7回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 床屋に鞄を忘れました。
                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第10回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 時に清新、時に残酷。超短編界屈指の言霊遣い、赤井都の作品を集成! 今回は二作品
を掲載します。

 …………………………………………… 途上1 ……………………………………………

 市電の通りに面したホテルだった。窓を開けると街の音が流れ込んできた。その音は明
快な調子で、雑多な忙しさが都市を支配していることを教えた。走り過ぎる車の音、バイ
クの音。どこかへ去っていった後に同じように忙しくどこかへ向うエンジン音が被さる。
教会の鐘が鳴る。遠くの広場から鳩の群れが飛び上がり空気がはためく。生活はホテルの
外側で満ち干きし、常に窓枠の下の高さに盛り上がっている。
 私は窓を閉めて鞄の紐を解き、洗面用具を出した。あてのない旅行者が、この忙しい街
の一角でしようとするのは、己の歯を磨き顔を洗うことだ。汚れた靴下を石鹸でこすり、
窓の下に吊るすことだ。
 雲が空を走って周囲が翳った。風景から影が消えたぶん、私の心に多くの影がいっせい
に忍び込んできたようだった。
 既に観光には興味をなくしていた。しかしここは私の家ではない。ベッドの端に座って
ノートに書き付ける言葉は、文章の断片以上のものではなかった。この街を離れる日の予
定はまだ立てていない。
 窓から見える建物の煉瓦組みの模様を私は見つめた。灰色の空の下でじっと動かない建
築物のように、私も窓辺のくろぐろとした塊として佇んでいた。

 …………………………………………… 途上2 ……………………………………………

 魚の尾が私のかかとに当った。硬直した魚を、毒針をぶら下げたままの一匹の虫が運ん
でいるのだった。
 それが夢だったとわかった朝、城跡の小さな博物館に入った。地図で見ると大きな展示
物がまだ先にあるようだが、私は先史時代の勾玉のネックレスに見覚えがあって、壁際の
ガラスケースの前から動けない。黒い筋の入ったトルコ石の管が堅いものに当ったとき、
どんな音を立てたか、耳の底に残っている気がして思い出せない。その堅いものは刀だっ
たと思う。その刀がネックレスの持ち主の胸を切り裂いたとき、そのひとは既にネックレ
スも命も持たない、己の血潮の音も聞かない無にすりかわっていたはずだ。もともとそん
な記憶などないのだから思い出せないのだ。
 靴音が幾つか私の背後をすぎていく。子供の集団が部屋に入ってきて、私はようやく顔
を上げられた。
 足早に残りの部屋を見る。自然光が入る窓の外で街の生活はすっかり動き出している。
窓のこちら側では彫刻たちが千年同じ風に髪をなびかせている。そのそばに私が立ってい
る。
 窓の向うでは焼いたソーセージが売られている。ビールの栓が抜かれ、アイスクリーム
が盛り付けられている。
 人生の意味はやっぱりわからない。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第118号(11月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 連載小説「後ろ手にドア」        第7回
                 著/川西素浪人
 ──────────────────────────────────────

 連載小説第七回。クライマックスに向けて加速する物語から眼が離せない!

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

 その夜。虫明と丸目は寮の塀を乗り越えて外へ出た。普段使われる寮の通用口は見回り
担当の寮生と風紀委員が見張っているからだ。しかも、ただでさえ厳しい警戒があった上
に今回の事件発生である。ドアを出て寮の建物から敷地内に行くのも大変だった。
 寮を囲む塀は、低くはないが高くもない。それなりに運動に自信があるものならば何と
か乗り越えられるのが、本当の所だった。その為、巡回に見つからなければ外に出られる
し、門限が過ぎてからも戻ってこられる。
「しかし、千早のヤツ……最後までしつこかったな」
 夜道を歩きながら、丸目がぼやいた。あの後、楠木を半信半疑ながらも何とか納得させ
たのだが、彼女はその後も、丸目の行動をチェックしつづけていた。やはり、結局の所、
二人の話を全く信用していなかったらしい。おかげで放課後すぐに虫明の寮の部屋に行く
事が出来ず、丸目は楠木の目を誤魔化すのにわざわざ一度駅まで行って帰るフリをしたり
と、一苦労だった。
「まあ……千早はわたし達を心配して、ああいう事をしてくれるからね」
 仕方なさそうに虫明が答える。二人とも楠木の説教には閉口する事が多く非常に苦手だ
った。しかし、彼女が二人の事を本気で心配して言ってくれているのと、実際、楠木が二
人を止めたおかげで大事にならずに済んだ事も今までに何度もあるので、裏で愚痴を言う
程度にとどめている。
 そもそも、楠木の言い分が正しい事が殆どなので言い返しようが無い。
「しかし、こんな行き当たりばったりの作戦で巧くいくのか?」
 丸目はスグに言い直した。
「そもそも作戦と言えるレベルでもないぞ。本当に行き当たりばったりだ」
「相手だって、その場の気分で通り魔してるでしょ。そんな人たちの行動なんか読もうと
する方が無駄だって」
 虫明の言う“作戦”は至って単純なものだ。
 学校近くの暗い道を歩く。ただそれだけである。
 丸目の言うように作戦と言うには何かが違う。
「ただ、街灯をわざと壊してる時もあるんだって。だから、変に暗い所なんかは本当に狙
い目だと思う」
 今回は通り魔を退治する、つまり捕まえる事が目的なので、二人とも木刀を片手に持っ
ている。勿論、抜き身のまま持っているとこの二人が通り魔と間違えられるので、誤魔化
すために竹刀を入れておくのに使う袋に仕舞っている。しかし、実はこれでも十分あやし
い。
 二人ともそれはわかっているが、鈍器で滅多打ちにしたり、刃物で滅多切りにしたりす
るような連中に素手で相手をするのは些か危険である。やはりこちらも護身用に武器が欲
しい所だった。
「しっかし、どんなヤツラなんだ。ハッキリ言って気持ち悪いぞ」
「集団だしね。頭がおかしくなった人が一人で暴れているならともかく」
 夜になるまでに虫明は更に詳しい情報を手に入れていた。全治2ヵ月の大怪我を負わさ
れた生徒は少なくとも二人以上の人間に襲われたらしい。肝試しをした生徒達も、流石に
一人でうろうろするのは危険だと考えて、二人一組で歩いていた。
 しかし、暗い路地に入った途端、同時に二人とも襲われたらしい。虫明は、その倍の4
人くらいで襲ったのではないかと推測していた。相手の顔を碌に見る事も出来ないまま、
叩きのめされたのだ。普通に考えて、倍の人数は必要だろう。
「そうでなきゃ、あっという間に昏倒させるなんて無理だと思う」
「あたしがぶちのめした時の感じだと武道に精通しているわけでもなさそうだしなぁ」
 手持ち無沙汰なのか、片手で木刀の入った袋を振り回しながら、丸目が言う。
「でも、そう考えるとあたしの時は変だな」
 丸目が襲われた――正確には襲われそうな気配になって、先に叩きのめした――時には
一人飛び出してきただけだ。
「タイミングの問題でしょ。飛び出した途端にノックアウトだよ」
 虫明が答える。
「後に続けるわけ無いじゃない。……少なくとも、遊び半分でやってたら怯んじゃうんじ
ゃないの?」
「まあ、それはいいとして」
 丸目は立ち止まった。
「いつまで二人で歩くつもりなんだ? 二人で歩いてちゃ意味無いだろ?」
「そうだね。そろそろ別れようか」
 虫明がそう頷いた時、二人を激しい光が照らした。
 その光に合わせるかのように厳しい誰何の声が響く。
「君達何やってるんだ?!」

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第118号(11月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

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◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【5】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は11月15日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年11月05日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
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