文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_112

2006/09/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第112号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/09/15
                     http://unjyou.kairou.com/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第5回
 【3】 連載小説「後ろ手にドア」        第4回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 急に寒くなりました。ここで熱くなるためには雲上だ! とか書けばいいのかもしれま
せんが、正直そんなテンションでもないのでやめておきます。
                                     後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 連載超短編「赤井都超短編集」      第5回
                 著/赤井都
 ──────────────────────────────────────

 時に清新、時に残酷。超短編界屈指の言霊遣い、赤井都の作品を集成! 今回は三作品
を掲載します。

 ……………………………………………………………………………………………………

 アリスの縮み薬をクリスマスプレゼントにもらい、テーブルの上のケーキを見たとき、
今夜、薬を使ってしまおうと思った。
 ケーキの上にダイブする。ケーキの上で泳ぐ。ケーキを掘って家を作る。ケーキの上に
座ってケーキを食べる。悪くない思いつきだ。
 小さくなりすぎてケーキによじのぼれなかったら困るので、まずは戸棚の上にのぼった。
しがみついたなりで薬を飲んだ。
 ところが小さくなってしまうと、テーブルの上がはるか遠くに見える。堅いチョコレー
トの上に落ちたら骨折してしまうだろう。苺とクリームのケーキにすればよかったと後悔
しつつ、汗で掌が滑った。
 焦って伸ばした手は、何にも触れなかった。
 そのまま黒いチョコレートケーキの上に落ちた。
 自分で望んだこととはいえ、コーティングされたチョコレートの堅さは予想以上で、腰
をしたたかに打ってしまった。
 ともあれ骨は折らずにすんだ。腰は痛いがともかく制限時間内に食べなければ、と拳で
チョコレートの表面を砕いた。はがした表面は板チョコよりも厚く、その下にスポンジ生
地がくっついている。中に挟まれているはずのクリームはずっと底のほうにある。もっと
掘り進まないと到達しないだろう。
 薬が切れるまでに、たっぷりのクリームの部分まで満喫したいものだ。必死の両手でケ
ーキをかきむしった。
 ……デコレーションのベルが私の顔を映した。顔や髪についたチョコレートが溶けて、
黒く粘る血を頭から浴びたようだ。セーターのあちこちにみっともなくケーキ屑がついて、
爪の間までクリームだらけ、目は満腹しすぎてとろんとしている。
 でも、薬が切れるまでに、もう少し楽しまなければ。よろめいて自分が開けた穴に足を
取られた。顔から柔らかなケーキに突っ込んだ。スポンジはもがく手足の力を吸い取り、
顔は掘り出したクリームの中に埋ったまま、息ができない。
 明日の朝、台所のテーブルで冷たい私の躯が発見されても、目撃者はサンタクロース一
人いないだろう。

 ……………………………………………………………………………………………………

 窓を越えた子供が、花ざかりの薔薇の茂みに落ちた。
 再び頭を上げたとき、その白い頬に赤い線が幾本か走っているのが見えた。日の中で翠
にも見える艶やかな漆黒の髪がいらだったように振り立てられると、なおさら棘に絡まっ
た。
 進退きわまったところを見定めて、私は木の影から姿を現した。
「そんなに私と勉強するのが厭なのですか? 窓から逃げ出すほど?」
 棘だらけの薮から助けてやろうと腕で枝を掻いても、子供はそこから抜け出そうとしな
い。穴蔵を見つけられた野兔のように縮こまって、なおさら奥へ進もうとする。
 脇に抱えた本の束を置いて、私もかがんで薔薇の薮をくぐる。今日は二人で、温かな部
屋で因数分解の初歩からやるつもりだったのだが。膝をついて、注意しながら枝の間に腕
を差し入れた。
「動かないで」
 無理をして逃げようとした子供は、長く細い髪を薔薇に絡め取られ、服のあちこちをも
棘に刺されて、手足を奇妙に引っ張られた恰好で、花の前に磔になっている。
「先生。触っちゃ……厭だ」
 睫が切迫したようすに震えている。
「触らないようにしますから……動かないで。暴れるから、こんなに」
 狭いわずかの空間で、子供と向い合う。互いの息さえかかりそうな距離で、指を伸ばし
て、少しずつ棘から髪をほどいていく。子供が薔薇の香りの溜め息を漏らした。袖を引っ
掛けた枝を外すとき、細い手首に私の指先が触れた。その肌は驚くほど熱かった。
「ほんとは……もっと触ってよかったんだ」
 自由になるやいなや、莫迦にした調子でそんなことを云って、子供は緑の庭を駆けてい
く。
 私は薔薇のトンネルの出口で、数学の本を拾い上げた。今日は因数分解の初歩をやるつ
もりだったのだが。

 ……………………………………………………………………………………………………

 今、禁欲しているからと子供は、連立方程式を解く間もチョコレートを少しずつ食べて
いる。
 子供の禁欲、というのがどういう意味なのか、私は知らないし知ろうと思わないが、禁
欲すると他に強く欲しいものができるのだと子供は勝手に説明してくれた。代替として子
供の舌が求める柔らかさは、しかし最初から柔らかいクリームではだめだ。固いチョコレ
ートの溶けていく滑らかさがいい。だからけしてチョコレートを噛まない。
 板チョコの端を少しだけ齧って、いつまでも嘗めている。
 日射しが入ってくる窓際でヒヤシンスの根が白く伸びている。水の中を泳ぐ根のその白
さに似た、性別も生き物の種類も定かでないような白い頬が、チョコレートを含んでかす
かに膨らんでいる。窓際の机の上に広げられたノートは、白く光る罫をいつまでも晒し、
時計の秒針の刻みが静かに響いている。
 先生にもあげようか、と齧りかけのもう片方の端の銀紙を剥いてくれようとするのが、
親切なのか意地悪なのか私には判らない。
 二つの式のxとyの値を求める間ぐらい、食べるのをやめられないのか、と云うと簡単
にふてくされてしまう。
 だから先生は、と云ってその先の言葉をチョコレートと一緒に飲み込んでしまう。
 だから今、禁欲してみてるんだよね、と云い直す子供は、短い髪をかきあげて、少しで
も先生のこと判るかと思ってさ、と付け加えた。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第112号(09月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 連載小説「後ろ手にドア」        第4回
                 著/川西素浪人
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 連載小説第四回。いよいよ盛り上がってまいりました。

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

「だから」
 振りかぶり。
「それで」
 横に薙ぎ。
「なんで」
 手を返して。
「あたしの所にっ?」
 振り下ろす。
 そして、ギッと風紀委員の方を睨んだ。
 風紀委員の方はそんな視線も意に介さず再度同じ台詞を言った。
「丸目の居場所に心当たりは?」
「ありません」
「昨日の丸目の行動は?」
「知りません!」
 虫明は憤慨していた。
「何であのバカの行き先をあたしが把握していなければならないんですっ?」
「楠木にまず聞いたら判らないという事で、もしかしたら虫明が知っているかもしれない
と」
「ああもう!」
 虫明は構えを崩した。乱暴に歩いて壁になぎなたを立てかける。終始横に張り付かれて
いたら集中も何もあったものではない。かといって丸目のように風紀委員を叩き出すわけ
にも行かない。
「千早に聞いて判らないものを何であたしが知ってるんですか!」
 丸目の付属物として扱われるのだけは我慢ならない。そこには虫明自身の存在は欠片も
必要とされてない。そこが我慢ならないのだ。
「千早が喋ったのが全部ですから、あたしも帰るんで帰ってください!」
 武道場に虫明の声が響いた。他には誰もいない。
 剣道場ではない。柔道部、空手部、薙刀部などが共同で使っている武道場だ。
 剣道部は、特別活動、課外修養として撃剣稽古が始められた時を創立として今に至って
いるため、その時に建てられた専用の道場をもっているが、他の武道系の部活は、通常の
体育の授業で利用される武道場を使っていた。
 鴎鷲学院において武道系の部活は、剣道部が最古であり、薙刀部、柔道部がそれに続き、
戦後、空手部が創立される。
 剣道部は学院側が教育の一環として始めたものであるが、それ以外は生徒が自主的に始
めた。その為、利用する施設が異なるのだ。
 また、現実的な問題として、鴎鷲では剣道がもっとも盛んで、他の武道系の部活は余り
人数がいない、ということも施設の共同利用の理由でもある。
 特に虫明が所属している薙刀部は武道系部活において、最も弱小であり、毎年休部の危
機に晒されている。今年は虫明を含めて三人の新入部員が入ったため、部員数が倍増した。
近年稀に見ると先輩達の喜びはひとしおだった。
「全く新聞部め……」
 散々しつこかった風紀委員も、虫明が道場を閉める事で漸く諦めて帰っていった。
 虫明は更衣室で制服に着替えながら、新聞部に悪態をつく。
 新聞部が裏新聞で何か派手な記事を掲載すると大抵風紀委員が合わせて動いて関係者を
追い回すことになる。特に丸目という問題生徒が生まれてからは彼女の記事に関する追及
はとても厳しく行われていた。
 朝、新聞部の裏新聞を手にした段階で、丸目が風紀委員にまた追いかけられるのは予測
すべきで、更に丸目に逃げられれば、楠木か虫明の所にやってくるのは自明だったがそこ
まで考えが及んでいなかった。
 今更ながら、丸目が新聞部へ怒鳴り込むのを止めたことが悔やまれる。
 着替えが終わった後、虫明は鞄を持って校舎を出た。そのまま、正門を出ずに庭園を横
切る。彼女は鴎鷲学院の寮生で隣にある寮に住んでいた。
 学院寮は、綾雲寮、祥雲寮、瑞雲寮、慶雲寮と呼ばれる四つの寮があり、基本的には学
校から遠く通えない生徒などが共同生活をしている。
 ここに入れておけばとりあえず、衣食住の心配は無いために、入寮させてそのまま外国
など長期旅行へ出かけてしまう保護者などもいる。また、運動部の中には入寮が推奨され
ている所が多い。放課後の練習等で、住んでいる家の場所によっては、帰宅時間が遅くな
りすぎる場合があるからだ。
 寮といってもマンション風ではなく、今時では珍しい玄関で靴を脱いで中に入り、室内
の部屋は全て廊下で繋がっているような古い形式の寮だった。何度か改築されて大半の部
屋は洋間になったものの、基本的には建てられた当時の姿をそのまま保っている。
 現在の寮を取り壊して新築の寮を建てようという計画は何度か持ち上がっているのだが、
資金が中々集まらない事と今の寮を壊す事について反対する人間が計画を進めようとする
度に現れるため、殆ど話は進んでいない。
「あ、虫明が帰ってきたよ!」
 虫明が入り口で自分の寮生札を裏返していたときそんな声がいきなりそばでした。慌て
て横を見ると同級生の一人が立っている。
「え? 今月、あたし何か当番だっけ?」
「違う違う! ちょっと食堂に一緒に来てよ」
「は?」
 訳もわからないまま腕をとられてそのまま食堂へと連れて行かれた。
 寮内では食堂が全ての生活の中心となる。会議室になり、遊戯室になり、そして勿論、
その名の通り、食堂として使われている。その事は寮が作られた明治の頃から変わってい
ない。寮においては共同浴場に並ぶ社交の中心だ。
 同級生に引っ張られて食堂へ入るとそこで人が集まっていた。二十人くらいはいるだろ
うか。
「虫明が帰ってきたんで捕まえてきました」
「あ、お帰りー」
「みんなで集まって何やってるんですか? 何の会議です?」
 虫明は首をかしげた。食堂の一角で、それぞれ自分の茶碗を片手に着席している。テー
ブルの上にはお菓子が載っていた。
「まあ、普通にお喋りしてたんだけど……ちょっと面白い事思いついて」
 中の三年生が答えた。
「虫明は勿論、今日の裏新聞読んだんでしょ?」
「ああ……あれですか」
 虫明は、改めて疲れがどっと押し寄せてきた。
「読んだどころか、落人がどっか逃げ出したせいで、風紀に張り付かれました」
「そりゃ災難だったね」
「剣道部は丸目に甘いからなー」
 みんな軽く笑った。その様子に虫明はため息をついた。
「他人事だからって……」
「まあまあ。で、虫明は丸目から話は聞いたの?」
「え?」
「記事だと丸目が退治したことになってたんだけど」
「退治というか、とりあえず一人は返り討ちにしたようなことは言ってましたけど、通り
魔は一人や二人じゃなさそうだって話です」
「うーんそうか……なら微妙なあ」
 少し困ったように呟く三年生が気になって虫明が尋ねる。
「何でです? 夜とかに独りで出歩かなきゃ別に危なくないですよ」
「いやそうじゃなくて」
 三年生は食堂に集まっている生徒を見回した。
「みんなで肝試ししようかと思って」
「はぁっ?」
 虫明の声がひっくり返った。
「なんでわざわざ今なんです?」
 普段から門限破りや夜に抜け出す生徒の取締りの為に風紀委員が見回りをしているが、
今は学校集会が開かれるほどの非常時であるため、厳戒態勢が敷かれている。
「今だからでしょ」
 三年生は特に動じることも無く答えた。
「普段よりも警戒厳重な中、外へ抜け出せるかどうか。面白そうじゃない? 違う」
「……まあ、違わないですけど……」
「最初、寮の敷地内を見つからないように一周しようと思ってたけど、丸目が退治したの
なら外もコースにいれてもいいかと思ってね。まあ、通り魔退治もどきみたいな感じで」
「はあ……」
 いつもであれば面白い事好きの虫明は積極的に話に乗っただろうが、丁度、丸目の代わ
りに風紀委員に追い回された後である。むしろ、デメリットの方が気になった。
「でも、見つかったら、生徒指導室に監禁は確定ですよ? しかも、外出禁止令が出てる
時だから、下手すれば謹慎処分になるかも……」
「門限破り仲間の癖に何か後ろ向きだね。先輩たちが草葉の陰で泣いてるよ」
 確かに門限破り、門限に関わる寮生と風紀委員会とのやりとりは先輩達から受け継がれ
ている伝統だ。本来、学校としては非常に重大な管理不行届きでもあるのだが、旧制高女
時代から築かれた伝統によって、暗黙のルールが生まれ、今ではある種のゲーム的な要素
を帯びたものになっている。
「とりあえず、退治したかどうかなんて、あたしは勿論、丸目に聞いたって判らないと思
いますよ」
 正直、丸目関連の話はうんざりしていた虫明はそういって話を切り上げた。そのまま、
背を向けて食堂から出て行く。
「まあ、少し様子は見るか……」
 最後に聞こえたのは三年生の呟きだったが、虫明は気にも留めなかったし、部屋に戻っ
て寝る頃には既にその事はすっかり忘れていた。
 翌日、虫明が教室にいくと登校早々に丸目が風紀委員に捕まったというニュースが流れ
ていた。それを聞いて、虫明自身は風紀委員に追いかけられる事もなくなったとホッとし
たのだったが。……

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第111号(09月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

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◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【5】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は09月25日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年09月05日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
           unjyou@ml.kairou.com
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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