文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_104

2006/07/15

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第104号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/07/15
                     http://unjyou.kairou.com/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 秋山真琴はいかが?「PLANTER」       最終回
 【3】 連載小説「彼女が愛したUFO」      最終回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
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 上の目次を見てください。最終回です。最終回がふたつあります。ふたつあって、すべ
て最終回です。雲上はどうなるのでしょう? どうなるのでしょう雲上は? 大丈夫!
でも大丈夫です雲上は! なぜなら新連載がスタートするから!

                                      後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 秋山真琴はいかが?「PLANTER」       最終回
                 著/秋山真琴
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 いらっしゃいませ、ようこそ秋山真琴へ。
 ご注文お決まりでしたらどうぞ。え、ええはい、こちら「え、終わり?」風味で、かし
こまりました。……マスター、十四番様オーダーいただきましたぁ! 瑶ちゃん「そう、
終わり」風味でひとつ!

 …………………………………………… 505文字……………………………………………

「たとえっ! 闇が地上を覆い尽くし、明日ッ、世界が滅びるのだとしても……」麦藁帽
子を被った男が突然、大声を出した。往路を歩いていた人々は、男を見て後ずさった。
「私は庭に林檎の種を植え、育てようとするだろう……」
 男の両腕が強く握り締められる――『激しすぎる怒りは、その人自身を傷付けるだろう』
――男の腕を鮮烈な赤が伝う。見開かれた男の瞳は、哀しみの色に染まり、すぐそこに迫
っていた終焉は、僅かに慄いた。だが、しかしその程度のことで死神は、躊躇しない。た
だ、己の仕事をこなすのみ。鎌を振り上げ、振り下ろす。とても簡単で、易しい仕事。
 死神が大鎌を振り上げる。
 男が両手を広げる。その手に……林檎が握られている。「救世主、俺には永遠に科せら
れることのない罪状、名誉の欠片もない死ッ」男は両手に握った林檎を口にした。死神が
鎌を振り下ろす――
――、男はそれを受け止める。林檎の欠片が地面に落ちる。芽が出る、育つ、花が咲く。
 旅行に来た少女が、たくさんの林檎を実らせた大木を見上げる。そのとき枝が大きく揺
すぶられ、幾つかの林檎が落ちてきた。少女は目を丸くする。日焼けした少年が枝の上で、
少女に手を振っていた。

 ……………………………………… 「終わらない」 ………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 連載小説「彼女が愛するUFO」      最終回
                 著/夏目陽
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 連載小説最終回。揺れ動く二人の関係は? ほろ苦い青春小説の傑作、ここに完結。

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

 ある日のことだった。雪が降っていた。初雪だった。私は友人三名と卓を囲んでいた。
誰かがやろうとしていた麻雀に付き合っていた。皆、わいわい楽しくやっていた。皆は調
子がよいのに、私だけ一人、調子が悪かった。今月の生活資金があやうかった。私は友人
が七対子でツモり、もう半荘やるか? という話になったところで止めることにした。残
りの友人は皆、残念がった。私という湧いて出る資金源がなくなったからだ。私は雀荘か
ら出ると、家に向かった。雪が頭の上に積もった。私は久しぶりに斎藤璃々子のことを思
い出した。
 しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている
資格がない。
 レイモンド・チャンドラーがマーロウを通していった台詞。彼女は生きていられない。
私はどうだろうか? しっかりはしているが、やさしくなれているだろうか。なれている
はずがない。私はやさしくするべき対象を無視し続けているのだから。ならば、私は生き
ている資格が無い。私は自嘲した。いつもならば、別に深い思いに陥らないのだが、妙に
悲しかった。私は空を見た。雪が落ちてきた。私はぼうと今、いる場所について思った。
彼女の家とはそんなに離れていなかった。私は別に悪くないと思った。行かない理由はあ
ったが、行く理由だって考えることが出来た。彼女が待っていてくれるかも。ただ、それ
だけで十分だった。私は彼女の家に向かった。彼女の部屋のインターフォンを鳴らすと、
彼女は扉を開けた。そして、私に言うのだ。
「こんにちは。UFOの話を聴いてくれる人がいなくて寂しかったんですよ」
 普段と変わらず私を迎えた。あの日を気にしているのは私だけだった。玄関でコートを
脱ぎ、奥に進む。部屋は何ひとつ変わっていなかった。
「外は雪ですか?」彼女は温かそうなコーヒーを持ってきた。私はそれに口をつける。体
の芯が徐々に温まった。彼女は両手でマグカップを持ちながら、はにかむように笑った。
「私、猫舌なんですよ」
 彼女は喜々としてUFOについて語った。「この世の悩みは全部、UFOが持っていく
んです」と彼女は語った。「なんでもかな?」私が尋ねると「なんでもですよ」と言った。
「それじゃあ、君の猫舌もUFOが解決してくれるのかな」私がおどけて言うと「まだ、
解決してくれませんね」と彼女は言いながら笑った。
 彼女は今まで話せなかった分を取り戻すように話し始めた。UFOの話題から、大学の
 話題、そして本の話題に移った。好きな作家の話をした後、話題を変えた。
「あの……『ねじまき鳥クロニクル』は読みましたか?」
 彼女が言った。私は頷く。彼女は微笑みながら、「私、あの冒頭の台詞が好きなんです
よ。『十分だけでいいから時間が欲しいの。そうすればお互いよくわかりあうことができ
るわ』」
 私はもう一度、頷く。
「それでですね、もうわかりあっている私たちは十分で何が出来ると思いますか?」
 私は首を横に振った。彼女はまた微笑んで、
「私たちなら十分でわかりあえていることを確認することぐらいは出来るんじゃないでし
ょうか?」
 彼女はそっと目を瞑る。私は彼女が何を求めているのかを知り、彼女の唇と自分のそれ
を重ね合わせた。
 少しの沈黙を挟んで「またあの野原に行きたいですね」と彼女は呟いた。窓の先に彼女
は視線を移す。まだ雪が降っていた。「綺麗ですね」と彼女が言った。私もそれに頷く。
ふいに目頭が熱くなった。彼女は「綺麗ですね」と言い続ける。そのたび私は頷き続けた。
彼女は窓を開け、外へ手を伸ばした。雪は彼女の手に乗ると、体温で溶けてしまった。そ
れでも何度も何度も彼女の手に乗った。その度に溶け続けたが、彼女の上には常に綺麗な
雪の結晶があった。冷たい空気が部屋を冷やす。彼女が呼吸するたび、白い息が宙に舞っ
た。彼女の手は寒さからなのか、青白くなった。私は彼女の手を取った。彼女のその手は
とても冷たかった。その時、わたしの手と彼女の手に雪が乗った。それはすぐに溶けてし
まう。彼女は「本当に綺麗ですね」と言って空を見上げた。私は涙をこぼしていた。彼女
は子供に教えるようにやさしく呟いた。
「泣かないで下さい。私も辛かったんです。でも、UFOが助けてくれました。きっとあ
なたも助けてくれます。そうだ、今度の日曜日にあの目玉焼きでいつもの場所に行きまし
ょう。UFOは夏よりも冬にいるんです。冬は生物にとって死を暗に意味するものですか
ら。だから――」彼女は顔を空から私に向けた。私の頭を自分の胸に埋めさせた。私の頭
の後ろで組まれた手はやさしかった。
「だから――泣かないで下さい。大丈夫です。何もかもうまくいかない世の中だけれど、
悲しいことが多すぎる世の中だけれど、泣かなくてもいいんです。それはこの世界の仕組
みなんです。神様が創ってしまったものなんです。UFOはすべてから私たちを解放して
くれます。だから、どうか泣かないで下さい」
 私たちは長い間、ずっとそうしていた。彼女はずっとやさしかった。ならば、私がする
ことは決まっていた。
 私たちは日曜日、あの野原に向かった。彼女の好きな音楽を車のCDラックには詰め込
んだ。彼女が聴くのは主にジャズだった。郊外の道には雪が積もっていた。隣の席で彼女
が「目玉焼きは大丈夫でしょうか?」と言った。私は雪道にハンドルを取られながら「大
丈夫だよ」と応えた。
 私の愛車のタイヤは何度も雪に埋まった。その度、彼女にアクセルを踏んでもらい、私
は車から出て、車体を押した。
 野原までは愛車は進むことは出来なかった。後少しだったが、雪が深く、これ以上進め
ば車は雪に埋まってしまうのではないかと思われた。中古で買った目玉焼きならばなおさ
ら雪に埋まってしまう可能性が高い。
「どうしようか?」
 私が訊くと彼女は「それじゃあ、歩きましょうか」と言った。私たちは車から降りると、
まだ誰も足跡をつけていない雪道を歩き出した。
 踏み出す度に足が雪の中に沈みこみ、進むことが困難だった。脛まで沈むこともしばし
あった。だが、彼女は楽しそうに進んだ。靴の中まで雪が染み込み、私は足に痛みを覚え
た。そのたびに私は靴を脱ぎ、雪を払った。だが、彼女はそんなことをせず、まるで踊る
ように雪道を進んだ。歩くことに疲れてしまい、途中で腰を下ろした。すると私は雪玉を
ぶつけられた。驚いて顔を上げると、彼女が笑っていた。私も彼女に向かって雪玉を投げ
る。だが、彼女はひょいひょいとかわしてしまう。逆に彼女の投げた雪玉はほとんど私に
当たった。彼女は「早く行きましょう」と私を急かした。
 野原は銀色の満月に照らし出され、自らが光を保持しているように輝いていた。それが
前回見た紅葉の深い景色とまったく違い、私を驚かせた。それはどこか幻想的な雰囲気を
醸し出していた。彼女はそれに満足したように「今日ならば、UFOが現れそうですね」
と、言った。白い息はすぐに掻き消えた。彼女は空を見上げながら、得意げにUFOのこ
とを語った。
「彼らは私たちにとても友好的で、自分たちの惑星に招いてくれるんです。そこは幸せに
溢れているんです。すべてのものから解放されるんです。普段嫌になっている人間関係や、
自分自身、仕事や遊びも、私たちを縛りはしません。だから、私たちはUFOを呼ぶんで
す。心の中で叫ぶんです。辛いんだ。もう太陽の光を浴びているのが辛いんだ。だから、
そんな辛いものすべてから私を解放してくれ、と」
 彼女が宙に手を伸ばした。ぴんと伸ばした指先は何かを求め、掴もうとしているようだ
った。彼女の細い指が震えている。それは寒さのためか、それとも別の何かのためなのか、
私にはわからない。だけど、彼女の肩を、その華奢で弱々しい身体を、どうしようもなく
脆いその心を、私は抱きしめた。強く強く抱きしめた。彼女の体は冷えていた。冷たく、
今にも凍り付いてしまいそうに思えた。彼女の伸ばしていた右手に私の右手を絡める。一
段と冷えている指先が、私の体温で温まればいいと私は願った。
「If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't
deserve to be alive」
 やさしい彼女には生きている資格がある。しかし、何かがずれてしまい、彼女は幻想に
とりつかれた。UFOを求めるようになった。それは現実から逃避し、幻想に溺れてしま
いたいという願望の表れではないのか。崩れていく彼女。日々ずれが大きくなることがわ
かる。しっかりしていてほしい。もしも、彼女ひとりではやっていけないというのなら、
私がしっかりして、彼女を支えよう。
「マーロウみたいですね」彼女が言った。私を首を振った。「私は、マーロウじゃない。
ただのちっぽけな、ほんとにちっぽけな人間なんだ。彼みたいにかっこよくないし、そん
な台詞も言えない。どこかで聞いたようなことしか言えない」彼女は私に体を預けた。彼
女の体は私の腕の中にすっぽりと収まった。彼女の体の小ささに改めて驚いた。彼女はま
だ空を見上げている。私も釣られて空を見上げた。もしも、この空のどこかに彼女が愛し
たUFOがいて、今も世界のどこかで苦しんでいる人を救い、自分たちの惑星に招待し、
幸せを与えているのならば。私は彼女の体をさらに強く抱いた。彼女の輪郭を感じた。ま
だ、私の腕の中に彼女がいることがよくわかった。ただ、願った。神様がいるなんて信じ
ない。そんな都合のいいものがいるとは思わない。だが、わたしはこの空を、この満月を
見上げ、願ったのだ。どうか、UFOよ。彼女をどこにも連れて行かないでください。
 私たちの白い吐息が出ては消えた。きっと朝まで彼女はこのままなのだろう。ならば私
は、せめて彼女の体が冷えぬよう、強く抱きしめ続けた。



*拙作では書物、音楽、その他からたくさんの引用を使用しています。引用元は省かせて
頂きますが、この場を借りて感謝の言葉を述べさせて頂きます。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com

━━━【オンライン文芸マガジン『回廊』最新刊 Vol.7 】━━━━━━━━━━━━━

 殺人者の少女 記憶に追われる男 恋に焦がれる人々 人ならぬモノ 白と黒の猫 
 いびつな物語の踊り手たちが 始まりとなり 終わりとなり 円を描いて回旋する 

━━━《輪舞(ロンド)の第七号》 (http://magazine.kairou.com/) 絶賛公開中━━━

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。
 というわけで、次号からさっそく新連載のひとつが始まります! 相当長い連載になる
ことがすでに確定していますので、楽しみにしていてください。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は07月25日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年07月15日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
           unjyou@ml.kairou.com
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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