文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

全て表示する >

雲上マガジン vol_100

2006/06/06

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第100号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/06/06
                     http://unjyou.kairou.com/

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲

 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 秋山真琴はいかが?「RED AND BLUE」    第10回
 【3】 100号記念特別企画「歴代編集長総集結鼎談」
 【4】 連載小説「彼女が愛したUFO」      第3回
 【5】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 ぱんぱかぱーん! 100号ですよ! 三桁です! さて、今号では通常の作品のほかに
予告通り、特別企画を用意しています! 長いですよ!

                                      後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 秋山真琴はいかが?「RED AND BLUE」    第10回
                 著/秋山真琴
 ──────────────────────────────────────

 いらっしゃいませ、ようこそ秋山真琴へ。
 ご注文お決まりでしたらどうぞ。え、ええはい、こちらロマンティック風味で、かしこ
まりました。……マスター、十番様オーダーいただきましたぁ! 瑶ちゃんロマンティッ
ク風味でひとつ!

 …………………………………………… 450文字……………………………………………

「素晴らしい」紅い騎士は嘯いた。「幾千もの夢想と幻想、か。流石は最終幻想のひとつ
であるだけのことはあるな」。蒼い剣士の放った最大にして究極、深奥の術を完全に避け
きっての言葉である。剣士は歯噛みする。「そちらが先に秘めていたものを明かしてくれ
たならば、次はこちらが披露するが道理か」騎士が手を上げる。その手には禍々しい緋色
の刀身を持った騎士剣が握られている。「現在、そしてそこに至るまでの無限の道筋。現
在、そしてそこから派生する無限の可能性。現在、その前後に連なる全ての現在だったも
の現在になるかもしれないものを現在、今ここに呼び寄せる。しかと見よ、これこそ最終
夢想のひとつ、唯一なる夢想と幻想である」騎士は華麗に剣を振り下ろした。騎士の目の
前の次元が切り裂かれ、狭間が顔を覗く。
 蒼い剣士は踵を返すと、背後に喚んだ扉を展いてその向こうに姿を隠した。「……ここ
は、いや、今は都合が悪い。ぼくに勝機のある時間も、軸の何処かにはあるだろう」扉が
閉まり、そして物語は今以外の何処かへと続いていってしまった。

 …………………………………「ここではないどこかへ」…………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第101号(06月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【2】 100号記念特別企画「歴代編集長総集結鼎談」
                 鼎談/キセン・秋山真琴・言村律広
 ──────────────────────────────────────

 さて、メールマガジン「雲上」は今号で100号を迎えることができました。これでも読者
のみなさまのおかげです。ほんとうにありがとうございます! さて、今号では特別企画
と題しまして歴代編集長による鼎談をお届けします! 編集部の内側が覗き見できるかも?

 ……………………………………… 100号記念鼎談…………………………………………

キセン:どうも、こんにちは。

言 村:こんにちは。

秋 山:こんにちは。

キセン:メールマガジン「雲上」100号というわけで、今回は歴代編集長を集めて鼎談をし
    ようという企画なんですけども。

言 村:おめでとうございます。

秋 山:ありがとうございます。

キセン:ちなみに「鼎談」の「鼎」は「かなめ」とも読みまして、古代中国で用いられて
    いた器に端を発する漢字なんですが、ま、どうでもいいですね。

秋 山:ていだん、と読むらしいですよ。秋山はこの漢字を、ファウストVol.1で知りまし
    た。ああ、何もかもが懐かしい。

言 村:懐古か。

キセン:さて、懐かしいといえば雲上の秋山真琴編集長時代なわけですが。


…………試行錯誤の黎明期/秋山真琴編集長時代


言 村:いつくらいの頃?

キセン:第1号から22号までです。

秋 山:つい昨日のことのように思い出せます。だから、昨日じゃないかな?

言 村:めちゃ記憶力いいなぁ。

キセン:2003年11月から2004年9月までですが。

言 村:うわ。昔すぎ。

秋 山:三年前から二年前!?

キセン:ていうか、事前に渡したレジュメに書いてあるのですが。読もうよ。

言 村:あ、今開いた。見た見た。そうか、11月15日が雲上の誕生日だったんだ。知らな
    かった。

キセン:この時期の作品は――
    連載:「インタビュー・ノート」「耳よりニュース」「回廊プレビュー編」
    「ブックレビュー」「特設コラム『喪失の筺』」「cc*」「SOUL RECIPE」
    「えごいすてぃっくいまじねーたー」「METARADI」「はじまりのエトランジェ」
    といったあたりですね。

言 村:第一号の「インタビュー・ノート」で散人という言葉が出てくるのが、懐かしす
    ぎて笑える。

キセン:確かに、最近は聞きませんね。

秋 山:「はじまりのエトランジェ」は短期集中連載だったような。

キセン:22号〜23号なので。二人の編集長をまたいでいるのですよ。……そもそも、なん
        でメルマガを作ろうと思ったんですか?

秋 山:それはあれですよ。あれ。なんだっけ。

言 村:ああ、あれね。うそごめんなんでもない。

キセン:理由はない、と。

秋 山:当時は、はてなダイアリーが台頭し始めた頃で、Movable Typeも話題を呼んでい
    て、ブログの時代の到来が予感されていました。しかし、ブログというのは、確
    かに巡回して見る人にとっては便利ですが、それは定期的に巡回できる人に対し
    てだけで、積極的に見にいきたいと思わせる情報を配信している人にのみブログ
    は有効な手段になるのではないかと思ったのです。
    サイトにせよ、ブログにせよ、宣伝してもそれは、そのページを見にきてくれた
    人にしか有効ではない。

秋 山:『回廊』をやる上で、積極的に宣伝することとはどういうことなのか。
    そこで思いついたのがメールマガジンという情報媒体です。

キセン:メルマガというのは、ある種使い古された媒体ですよね。それを活用しようと。

秋 山:ええ、そうです。しかし、アンテナやブックマークを使ってブログを巡回する人
    より、メーラーを使ってメールマガジンを受信する人の方が多いのではと思いま
    した。

言 村:あんまり予想が当たってなさそうな気がするけど?

キセン:「回廊」公式サイトをアンテナに登録している人と、「雲上」登録している人で
    は数倍の開きがありますね。

言 村:そうなんだ……。

秋 山:そう、予想は半ば当たり、半ば外れました。未だに、こんなにも読者数が少ない
    ことがショックです。この鼎談を行っている本日、melmaがメンテナンス中なので
    正確な読者数は分かりませんが。自分の記憶が正しければ、確か110人です。
    少  な  ッ  !

キセン:いやまあ、そんなもんだと思いますけど。

言 村:秋山期の最後でもう70人に迫りそうだったからねぇ。

秋 山:読者数はもう少しどうにかしたいですね。もっと多くの人に届けたいと思います。
    勿論、今現在、『回廊』の宣伝は既に『雲上』の主目的にないわけですが。いや、
    あるかもしれませんけど。

キセン:それ自体がひとつのオンライン文芸マガジンであると。

秋 山:うーん、そこらへんはどうぞキセンさんが考えてください(笑

言 村:がんばって。

キセン:じゃあ、考えます。秋山期の作品群のなかで何か思い出深いものとかはあります
    か?

秋 山:「インタビュー・ノート」「耳よりニュース」に関しては、「できるところから
    始めよう」という思考がありました。前者は知り合いに頼む、後者は自分で巡回
    する。そういった地道な作業で、確実に誌面を埋められるものから手をつけました。

キセン:やはり、全体に手探り感が見えますね。「回廊プレビュー編」なんかにその色が
        濃厚です。

秋 山:「cc*」に関しても同じですね。とにかく誌面を埋めようという意識が強かったで
    す。その他の作品に関しては、依頼した作品や、『回廊』から落ちてきた作品も
    ありますが、ほとんどは作者がくれたので掲載したというような感じです。
    色々な人の協力や手助けによって、初期『雲上』は成立していたように思います。

キセン:まあ、それは今でも変わりませんが。はじめて秋山さん以外の人が執筆したのが
 「ブックレビュー」の初回(Vol.7)でのイサイさんの原稿になりますね。

秋 山:そうですね。ブックレビューは数少ない依頼原稿ですね。本当はもう少し継続し
    たかったのですが、当時は『回廊』創刊号の編集も佳境に入っていて、中々、手
    が回りませんでした。

キセン:イサイさんは初の連載小説である「SOUL RECIPE」も執筆なさっていましたし、初
    期の「雲上」を支える存在といっても良いですね。

秋 山:そうですね、イサイさんには感謝の言葉もありません。

キセン:いったん発行を月二回にしたのも、はやり忙しかったから、ということになりま
    すか?

秋 山:その通りです。

キセン:この時期といえば「えごいすてぃっくいまじねーたー」もありましたね。

秋 山:ありましたね!

キセン:何気に最長連載記録を持っている謎連載でしたが。

秋 山:最長の連載文章!

キセン:あとたぶん最多です。20回続いた連載はほかにないはず。

言 村:秋山期じゃないけどさ、「えごいま」といえば、だんだんと締め切りを守ってく
    れなくなってきてたのが印象深い(笑)

キセン:はて、なんのことでしょうか。

秋 山:メタ的な落ちを何度も放っていたので、一読者となってからは、途中で何度も
    「あ、今回が最終回か」と思いました。実はまだ終わっていないんでしょう?

言 村:そういうネタの話だったのか。

キセン:いやもうあれは、何がなにやら。

言 村:最後の数回は毎回メタでしたね。連メタ。

秋 山:必メタ。

キセン:申し訳ありませんでした。

言 村:こちらこそ。よくわかんないけど。

秋 山:えごいま、みたいのが書きたくなってきた。

キセン:書けばいいじゃない。

言 村:書けばいいじゃない。

秋 山:書いていい?

キセン:許可します。さて、ちょうど「回廊」第二号を発行したところで、編集長が言村
    律広さんに交代するわけですが、これはどのような動機から、なぜ言村さんに決
    定したのでしょうか?


…………やっぱり試行錯誤の新編集長/言村律広編集長時代(1)


秋 山:……ま、全く、記憶にありません。どうしてだったでしょうか?>言村さん

言 村:なんででしたっけ?

秋 山:そうそう。どうしてでしたっけ? そのあたりの経緯は、移り変わった頃に書い
    てあるんじゃないですかね。

キセン:《現在、第三号の発行が急ピッチで進められています。既に第二号の三分の一に
    相当する分は出来上がっているほどです。編集部ではこのペースで編集を前倒し
    で進めていく予定で、計画の要となる編集長は業務を少しでも減らすべく『雲上』
    の編集をメンバに任せるということになりました。
     次号より誌面の構成および前書と後記の執筆は、言村律広が担当するようにな
    ります。今後、秋山は編集長として誌面に携わるのではなく、発行者として誌面
    を監修することになります。》とのことですが、なぜ言村さんなのかは謎です。

秋 山:謎ですね。うーん、掲示板で話し合ったような気もするけれど。調べても見つか
    らなかった。

言 村:あー、確かね。秋山さんと最初に対面したのが第一号の打ち上げだった。楽しか
    ったので、第二号に参加させてもらおうと思って、ギリギリに原稿を提出した。
    第二号の打ち上げに出たら、「大変そうですね。何か手伝いましょうか?」「え、
    まじっすか」……みたいな会話をした気がする。

秋 山:ということは、9月12日に話し合って、その月末には交代か。早いな。しかし、へ
    え、懐かしい。

言 村:早かった。

秋 山:二年前か。

キセン:まったく記憶にございません。

秋 山:しかし、ちょっと懐かしいですね。テンション上がってきましたよ、秋山の。

言 村:つうか、別に全部任されるつもりは全く無くて、整形くらいはやれるだろうと思
    っていたくらいだった。そしたら、数日後、全部まとめて送られてきたからビッ
    クリ仰天。

秋 山:ふふふ。

言 村:えー、まじかよー、みたいな。

秋 山:しかし、すごいなあ。リッチーは。

キセン:まったくまったく。

秋 山:ふつうやらないよねえ。

言 村:いや、あっきーには敵わない。

秋 山:本当、恐ろしいね二年前の自分は。超強引じゃん。

言 村:ふつうやらないよ。会って数ヶ月の人間に丸投げなんて。超強引、というか無茶
    苦茶。

秋 山:会って二回目……

言 村:そうそう。二度目の対面だった。

秋 山:しかし、懐かしい。

言 村:うむ。懐かしい。

秋 山:誰か、秋山クロニクル作ってくれないかなあ。売れるぞ。名言集とか作れるんじ
    ゃないか。

キセン:じゃあそのうち。

秋 山:秋山氏に迷惑を掛けられたK氏インタビューとか。

言 村:「名言集とか作れるんじゃないか。」これは名言だね。とりあえずまあ、自分で
    も不思議なのは、最初から迷惑に感じてなかったことかなぁ。

秋 山:ありがたや、ありがたや。

言 村:ただ、どうすりゃいいんだろう、とだけは深く思っていた。

秋 山:深く思われてしまっていましたですか。

言 村:だって、原稿依頼とかするツテがないんだよ。

秋 山:なるほど。だから、原稿が集まらなかったのか。理解しました。

言 村:そのころって、秋山さん個人が全部握っていて、全然システムになってなかった
    からねぇ。

キセン:実際、そのころには「untitled diary」なんていうわけのわからない原稿が載っ
    たりしてましたからね。

言 村:「untitled diary」はまさに、紙面埋めなきゃ的強迫感の表れですよ。

秋 山:表出してますね、編集長の焦りが(笑

言 村:そうそう。ひどいもんですよ。というわけで、キセンさんには、その辺の人脈と
    か知名度の、原稿集めも購読者増加にも効果がある人だという期待があります。

キセン:この時期の作品は――
    連載:「complicated context'」「第三号プレビュー編」「呼応-幻想の蒼月-」
    「書評(再録)」
    単発:「覚醒する世界」「チノアジ」「死線上の星」「文学フリマオフ・レポート」
    「『回廊』第三号カウントダウン」「回廊アフター編」
    といったあたりですね。

言 村:「cc'」は秋山さんの助けの手ですね。原稿のあまりの集まらなさっぷりへの。

秋 山:ナンセンスエッセイ。今思い出しましたけど、えごいまだけじゃなくてcc'も最長
    最多ですよ!

キセン:いや、cc’は24号から中断を挟みつつ43号までです。勝った。

秋 山:しかし、第20回が最終回!

キセン:いくつか飛ばしてるでしょう、番号!

秋 山:ききききききき気のせいですよ。

言 村:キセンさんや霧生さんや、六門さん、恵久地さんなど、多くの人が助けてくれま
    したよ。

キセン:この時期のプレビュー編はまだ形式が固まってないですね。ある意味、言村さん
    の色がもっとも強く出ていた時期だと思います。

言 村:初期は基本的に原稿飢餓状態でしたから。プレビュー編、どんなのやってたっけ?

秋 山:続試行錯誤の時代ですね。

キセン:やれ電波を受信しただ、やれ予告編だ、やれ二行リレー小説だ。

言 村:ですね。というか安定するまで時間を喰ったんですよね。……あー、一言を募集
    して、それを勝手に繋げるとかやった覚えがあります。

秋 山:やりたい放題でしたね。

言 村:ね。放題でしたよ。

秋 山:あれは面白かったです。あれやりましょう。

言 村:ああそうだ「METARADI」とか続き、今でも期待してるけど、どうなんだろう。書
    いてくれないのだろうか。

秋 山:催促しないと。

言 村:だね。

秋 山:回廊メンバは自分が気合で、全員、mixiに招待しました。なので、メッセージ送
    りたい放題ですよ!!


…………安定、かと思いきや……/言村律広編集長時代(2)


キセン:さて、第三号が発行されまして、まあやや安定期に入ってきたかな、と。

言 村:ですね。このころの安定に最も貢献したのは「呼応」でしょうね。長くて量があ
    ったので。……うわあ、第三号のプレビュー編、すごい。回廊掲載作の冒頭をま
    んま掲載してる。今じゃありえない。

秋 山:確か、第三号発行前後からメンバ専用掲示板を導入したように記憶しています。
    これによって、だいぶ『回廊』側のシステムも構築し始められたのではないかと。

キセン:で、そうそう。いきなり急に一ヶ月以上配信停止したんですよ。

キセン:何があったんですか。

言 村:引っ越し? あと、受験とか。というか、忙しくなるんだけど、秋山さん、しば
    らくお願いしますよ。って言って、丸投げしたら、秋山さんがやんなかったと、
    憶していますが?

秋 山:え? What? When?

言 村:第39号から第40号の間、2005年の2月中。そのころってあっきーも引っ越ししてた
    んじゃない?

秋 山:あ、そう言えば。一時期、見れていないメールがあります。

言 村:うわあ。

秋 山:サーバで1000通まで蓄積してくれるのですが、それ以上は拒否ってくれて。なん
    かもう、色々「ビッグローブ手前!!」的な自体でした。ダイレクトメールを保
    存して、重要なメールを勝手に削除する神経が理解できません。

言 村:てことで、結局は、ネットの闇のせい、ということで。

キセン:なるほど。ネットの闇は怖いですね。

言 村:ね。

秋 山:郵便的不安ですよ。

言 村:なるほど。

キセン:でまあ、気がついたら第四号発行の一ヶ月前。プレビュー編もしっちゃかめっち
    ゃかです。

言 村:どんなプレビュー編したっけか。

キセン:言村さんがなんか書いてます。

言 村:うわあ、覚えが皆無。

キセン:ちなみにこのころは「コツ」や「天才論」、あとは超短編がいくつか再録されて
    ますね。で、エイプリルフール号。

秋 山:去年のエイプリルフール号は自分が作りました。

キセン:そうですね。

秋 山:確か、リッチーには内緒で作ったように覚えています。

言 村:エイプリルフール号は、本当に、うわあ、でしたね。知らされてませんでした、
    全く。毎号、前書と後記を書くのは苦労するので、ああ、一回分がぁぁ、という
    気分も少しありましたけど、楽しい企画でしたね。

秋 山:ふふふ。

キセン:さて、第四号が出ました。黒歴史の話をしましょうか。

キセン:この時期の作品は――
    連載:「語り回廊」「雲上あ〜ん」「霧生康平の超短編」「第五号プレビュー編」
    単発:「回廊アフター編」「第四号の誤植訂正のお知らせ」「編集部からのお知らせ」
    「『回廊』第四号打ち上げレポ」「勝鬨」「呼応 -幻想の蒼月- 後書き」
    「『回廊』第五号目次先行公開」
    といったあたりですね。

言 村:雲上の黒歴史といえば「語り回廊」でしょうねぇ。

秋 山:語り回廊。

言 村:あれは、もっと読者とインタラクティブになって、オープンな編集部になるとい
    いかな、というのと、コミュニケーションが読者増に繋がるかな、と思ったんで
    すけどね。

秋 山:残念!

言 村:残念!

キセン:51号から投稿がないのに、65号までお休みが載り続けました。

秋 山:お休み悲しす。

言 村:まあ、もっと読者のみなさまの重要な位置へ進んでいけるメルマガにならないと、
    意見をくれないんだろうな、という気がします。お休みの連載は、惰性ですね。
    悲しいことに。

…………一号編集長のはじまり/言村律広編集長時代(3)

キセン:さて、悲しいことばかりではないと。一号編集長制度が開始しました。

言 村:前書と後記って書くのが大変なんですよー。って言ったら、霧生さんが、霧生さ
    んが! 書いてくれたんですよねぇ。なんて心温まるエピソード。

キセン:温まりますね。

秋 山:よかったね、リッチー。

言 村:よかったよかった。それが一号編集長が始まるきっかけでしたね。じゃあこのま
    まメンバに甘えちゃえー、みたいな。

キセン:まあ、ちなみに僕に移行してからというもの、停止しておりますが、そうですね、
    再開しようかな。

秋 山:えがったえがった。

言 村:そういうわけなので、最初のバトンパスは霧生さんからではなくて、次のイサイ
    さん(だっけ?)からですね。

秋 山:なるほど。

言 村:前書や後記に書いてバトンパスする人もいましたが、そうでない人も、私が次に
    書いて欲しい人いますか、と訊いて、依頼を出していました。書く内容を考える
    手間はなくなったけれど、原稿管理の手間がかかった、という罠(笑)

 踝 :お邪魔じゃなかったら誘ってくださいな。

秋 山:しばし待たれい。

言 村:いらっしゃい、踝さん。

キセン:いらっしゃいませ。

 踝 :こんにちは、横からのぞき見失礼します。ただの出しゃばりともいいますが。

言 村:今は50号過ぎたあたりです。

 踝 :僕が購読はじめたのが41号からなので、何か良いタイミングですね(良いのか?)。

秋 山:改めて紹介しましょう。こちら、『回廊』の副編集長、踝祐吾さんです。

キセン:ぱちぱちぱち。

 踝 :……そうだったの!?

言 村:ぱちぱちぱち。

秋 山:くっくっくっ……

言 村:まあ、なし崩しってやつですね。

 踝 :あ、暗黙の了解なんだ(苦笑)。

キセン:この時期の連載では、ほかに50号記念の「雲上あ〜ん」がありますが、まあこれ
    もグレー歴史ぐらいですかね。

言 村:記念なのに(笑)。キセンさんの原稿は、単体では少し弱い気がしたんですよね。
    掲載しても、だから何なの、という気が少し。で、50号記念ということで、まと
    めて掲載。

キセン:まあ、そうですね。その前に改訂版が出せればよかったんですが。

秋 山:まあ、仕方あるまい。

言 村:まあ、そのへんは、ちと手際が悪かった気もします。ごめん。

キセン:あとは「霧生康平の超短編」がありました。のちに「霧生康平と世界の旅」に結
    実する重要な連載なので、言及しておきます。

言 村:このころの『雲上』では、募集しても原稿が集まらない、というのが原則という
    意識がありました。悲しいかな、私の知名度と人望の無さの現れですね。「霧生
    康平の超短編」は、確か、初めて作者名が冠についた連載だったような気がしま
    すが?

キセン:そうですね。

秋 山:へえ。

言 村:作者という単位で売っていこう、というような姿勢をそのころ取り始めてました
    ね。

キセン:「『回廊』第五号プレビュー編」ははじめて現在のインタビュー形式が定着した
    プレビュー編です。

 踝 :言村さんがんばった。

キセン:このころは雲上ラジオやアキヤマニアで大フィーバーでした。

言 村:アキヤマニア!

秋 山:そうでしたね。

言 村:踝さんが名付け親でしたね、アキヤマニア。

秋 山:少しおかしい方向に熱意が傾いていました。秋っ子の方がかわいいのに。

 踝 :語感ですかね。

言 村:いやぁ、アキヤマニアの怪しさに敵うものは、なかなかないですよ。

秋 山:まあ、これはアキヤマスターの時代ですよ。

 踝 :最近は派生して「前島賢氏」=マエジマニア、とかもあるようですし。

秋 山:アキヤマニアたちの目指す星であり、アキヤマニアを極めしもの。

言 村:インタビューで「―――特別編:アキヤマニアたちの夜―――」とかやったの思
        い出した(笑)

キセン:この時期の作品は――
    連載:「七十秒後の改行都市」「霧生康平と世界の旅」「号頭言」
    「生肉の月と月啖い蟲」「『回廊』第六号・騒乱インタビュー」
    単発:「回廊アフター編」「『回廊』第五号打ち上げレポート」
    「『回廊』第五号誤植訂正のお知らせ」「「雲上あ〜ん」リバイバル編」
    「『回廊』第六号・目次先行公開!」
    といったあたりですね。

キセン:そうそう、あと、遥さんが編集部長に就任しました。

言 村:あー。非常に助かりましたね。

キセン:ちなみに、「七十秒後の改行都市」はまだ連載中です。

秋 山:あれもある意味、黒歴史なんじゃない?

言 村:「改行都市」は、たぶん、かなりかかるかもしれませんが、完結させてもらいた
    い作品の一つですね。きっと続きは書いてくれますよ。今は充電期間。

 踝 :とりあえず、遠野さんを引っ張り出すところからはじめましょう(笑)。

キセン:「霧生康平と世界の旅」、「号頭言」は超短編で、のちの「キセンで超短編」、
    「秋山真琴はいかが?」とともに超短編黄金時代を形成した、ということにしま
    しょう。

秋 山:黄金時代なのか。

言 村:そうしましょうか。全部リサイクルですけどね。

 踝 :黄金時代ですよ。

言 村:ちなみに「号頭言」は遥さんのアイデアですね。

キセン:「生肉の月と月啖い蟲」は久々の連載小説でした。

言 村:「生肉月」は「イサイさん、グロ書いてくださいよ」みたいな軽い気持ちでお願
    いした作品ですね。

 踝 :………のあいだに挟まれてる「モツ」で吹いた記憶が。>生肉


…………雲上のこれから/キセン編集長時代


キセン:まあ、そんなこんなで時間もなくなってきたので、残りはすぱっと。僕が編集長
    になりました。第七号が出ました。何で僕なのかは知りません。

 踝 :ぱちぱちぱち。

秋 山:ぱちぱち。

言 村:まあ、キセンさんこそ相応しい、という私の判断ですね。勘とか、その場の勢い
    とも言いますね。

キセン:この時期の作品は――
    連載:「キセンで超短編」「秋山真琴はいかが?」「特別企画・シークレット目次」
    「『回廊』第七号・輪舞インタビュー」「塑性言論」「彼女が愛するUFO」
    単発:「回廊アフター編」「打ち上げレポ」「「回廊」第七号アフター編」
    といったあたりですね。

 踝 :むしろ「これからが楽しみ」というものばかりですね。

キセン:僕がはじめて編集したのがエイプリルフール号でした。そしてすぐ怒涛のプレビ
    ュー編。ほんとうにエグチさんと言村さんには世話になりました。

 踝 :お疲れさまでした。

キセン:一日二号とか、前例がないんですが。

秋 山:これからは「えごいすてぃっくいまいじられ」の時代ですよ。

 踝 :噛みそうですね。「えごいすてぃっくいまいじられ」。

言 村:宣伝部長に恵久地健一さんが就任して、その初仕事ですね。第七号プレビュー編。
    一日二号は、分業の成果ってことでしょう。

キセン:そうですね。

言 村:今までだったら不可能ですよ。

 踝 :0時・94号配信→午後2時半・回廊七号公開→午後6時・95号公開……く……狂って
    る……。

言 村:初めてカウントダウン号をしたときも、狂ってると思いましたよ、私(苦笑)

秋 山:分業最高ですね。

キセン:「彼女が愛するUFO」は、投稿されてきた作品なんですよね?

言 村:夏目陽さんですね。

キセン:現在編集している作品にもありますが。

言 村:そうですね。だんだんと外に開かれていくと素敵だろうな、と思いますね。

キセン:これから外に開かれていく「雲上」ということですね。

キセン:ステキなまとめですね。

 踝 :オフラインで積極的に投稿者を募集するとか。

言 村:オフラインでの募集は、回廊オフでけっこうやってきました(笑)「改行都市」
    とかそうですし。

 踝 :例えば関西地区をイサイさんに任せて、九州地区は智之助さんで、東北地区は僕
    で(笑)。

言 村:それは素晴らしい全国展開ですね。やりましょう。

 踝 :まずは皆さん宮城SF大会に来て、回廊のビラを配りましょう(笑)

秋 山:踝さんが行ってください。

キセン:さて締めますか。

 踝 :おつかれさまでした。

秋 山:お疲れ様でした。

キセン:編集長の面々、なにかありますか。一言。

秋 山:今の編集長はキセンくんただひとりですよ。

キセン:旧編集長の面々、何かひとこと。

 踝 :僕編集長じゃないし。

秋 山:無事に三代目編集長の時代に移ってよかったと思います。

秋 山:今後も『雲上』が継続してゆければ嬉しいです。

言 村:(第一号より)「秋山は祭りが好きだ、かなり好きだ、愛してる。」私も祭り、
    好きですね。お祭精神で楽しく『雲上』が続いていくことを願います。

 踝 :ぱちぱちぱちぱち。

キセン:じゃ、そういうことで。お疲れ様でした。

秋 山:おつかれさまでした。

 踝 :おつかれさまでした。

言 村:お疲れ様でした。

 ………………………………… 雲上はこれからもつづく …………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 連載小説「彼女が愛するUFO」      第3回
                 著/夏目陽
 ──────────────────────────────────────

 連載小説第三回。いよいよ急展開の予感?

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

 彼女と会う機会は基本的に、一週間に一回の物理ゼミだけのはずだった。だが、校内を
歩いている時、たまたますれ違ったりすることもある。今までは彼女に興味を持っていな
かったので、気にしなかったが、今はすれ違うたびに挨拶をするようになった。
 彼女と挨拶を交わすようになってから四日目、私は図書館で彼女と会った。私が適当に
本を探していた時だった。ほとんど読みたい本を読んでしまい、何を読もうか私は考え続
けていた。
「こんにちは」
 女性の声に私は書架から視線をそちらへ移す。斎藤璃々子だった。今日は髪を束ねて、
眼鏡を掛けていた。私も挨拶する。
「やっぱり、あなただったんですね、そこの本を整理してたの」
 彼女の表情は逆光でよく見えなかったが、声色から微笑んでいることが予想できた。私
も微笑みながら、「もう全部、読んじゃったんだけれどね」と言う。
「それじゃあ、面白いのを一緒に探しましょうか」
 彼女はそう言うと書架を見始めた。真っ暗だった彼女の顔がよく見えるようになった。
真剣な眼差しで書架に並ぶ、背表紙を眺めていた。私も背表紙に目を通す。
「どんな本でも読めます?」
 彼女が尋ねた。私は「面白くないもの以外なら」と答えた。
「それじゃあ、レイ・ブラッドベリとかは?」
「SFはあまり読まないなあ。レイ・ブラッドベリなら、短編集を一つ読んだことがある
けれど」
 彼女は書架から一冊の本を取り出した。「レイ・ブラッドベリはSF作家には不評です
からね。それに始めの頃はSFよりも幻想文学、ホラーの要素がありますし。これは彼の
唯一のハードボイルド小説ですけれど」そう言って、私にそれを渡した。「ちょっと、彼
らしくないお話なんですけれどね」
 私は彼女に渡された本をちょっとだけ見ていた。最後の頁にある貸し出しカードには彼
女の名前がある。
「女性作家は読みますか?」私は首を横に振った。
「サラ・パレツキーとか、スー・グラフトンも?」私はさきほどと同じ反応をした。彼女
は微笑みながら「面白いですよ、どちらも」
 彼女は私の腕の中に本を数冊投げ込んだ。
「ポール・オースターみたいな純文学は読みませんか?」
「純文学はちょっと。昔から純文学ってつくものが苦手だった」
「それじゃあ、村上春樹とか、村上龍とかも読みませんか?」
「村上春樹は読むよ。龍のほうは読んだことがない」
「それじゃあ大丈夫ですよ。ポール・オースターは村上春樹と似ているってよく聞きます
し。
探偵も出てきます。彼はエレガントな前衛を書く人ですし、面白いですよ」
「エレガントな前衛って変な言葉だね」
 彼女は書架から取り出した本を胸に抱きながら、目を丸くした。それから「そういえば
そうですね。ちょっと変な言葉ですね。アヴァンギャルドとエレガントは変ですよね」と
言う。
 結局、私は彼女の薦めで十数冊の本を借りた。貸し出しコーナーに全部、持っていくの
は恥かしかったが、ここで書架に戻すのも彼女に悪かった。
 だが、持ち帰りには苦労した。持っていた鞄は小さく、本を五冊ほど入れたところでい
っぱいになってしまった。中を整理して、頑張って入れようにも七冊が限界である。私が
手元に残った数冊の本を見て、途方にくれていると、
「私の鞄にも入れましょうか?」
 彼女は私に向かってそう言うと、自分の鞄に本を詰め始めた。彼女の鞄は私の鞄よりも
大きかったので、本はすべて入ってしまう。彼女は鞄を持って、「私も家についていきま
すよ」と言った。断ろうにも、断った場合の本の処理に困りそうだったので、私は彼女の
提案を受けれいた。
「でも、電車に乗るよ?」私の『それでもいいのか?』の意味を含んだ質問に、彼女は嫌
な顔をひとつもせずに頷いた。「大丈夫ですよ。今日はもう講義がありませんし、このま
ま部屋に帰っても暇なだけですから」
 私たちは並んで校門を出た。鞄がとても重かった。ものの数分で右肩が痛くなり、左肩
に掛け直した。だが、彼女はそんな様子は微塵も見せなかった。
「汚くて狭いところだよ」
 私は彼女の部屋を知っているので、あらかじめ言っておいた。それでも彼女は微笑みを
絶やさなかった。
 私は部屋の鍵を開ける。私はその時、ちらりと他の部屋を見た。どうやら、どの部屋も
誰かが在宅しているようである。私は彼女を招き入れる。
 彼女は部屋に入ると「おじゃまします」と声を上げた。私はすぐにそれを制する。
「隣に聞えるから、あんまり大きな声は上げないで」
 彼女はきょとんとした後、前に話したこの部屋の話題を思い出したのか、小さな声で
「ごめんなさい。忘れてました」と言った。
 彼女は居間に坐った。私は鞄を下ろすと一息ついた。私たちはまるで秘密のことを言い
合うような声で話した。笑う時も、声を出さないように努力した。でもいつの間にか、そ
の努力するところが可笑しく、また笑ってしまうという悪循環にはまってしまった。最後
には努力空しく、二人で大声を出して笑い合った。
「大声で笑うと、すっきりしますよね。さっきまでずっと我慢していたのですっきりしま
した」
 彼女はそれから私の趣味の部屋に入った。六畳間には本棚が二つと、その上にオーディ
オ機器が乗っている。今は使われなくなったスピーカーは出番を待ち続けている。彼女は
本棚を眺めている。三百冊ほどあるが、ほとんどは古本屋で安く買ったために傷みが激し
い。一通り見終わると彼女は、視線をオーディオに移す。
「高そうですね」
「うん、高い。このうちにあるもので一番高い。中学生の時から欲しかったやつで、高校
二年生になるまでずっとお金を貯めて買ったものだから」
 今はスピーカーにも埃が被っている。彼女は右のそれに被っている埃を手で払うと、
「それじゃあ、二番目はその安楽椅子ですか?」
 私は頷いた。「坐ってみる?」私は彼女に訊いた。「一度、坐ると二度と普通の椅子に
は満足出来なくなる」
 彼女は安楽椅子に坐った。彼女はそっと目をつぶる。夕日が丁度、部屋に差し込んでい
る時間帯だった。部屋を橙色に染め、安楽椅子に坐る彼女も染めた。染められた肌は美し
く、うなじの辺りの産毛が見えた。私は無防備な彼女に触れてみたいと思った。
 もしもこれが小説の中ならばいいかもしれない。知り合って間もない女性に触れる男性
を私は星の数ほど知っている。その中にいる初めから性交目的の男性もだ。
 彼女が目を開ける。安楽椅子から体を起こすと、「とてもいい安楽椅子ですね。私も欲
しいぐらいです。いつもこの椅子に腰掛けて本を読んでいるんですか?」
 彼女の質問にすぐに答えることが出来なかった。あたふたした後、ようやく首肯した。
 夕日は瞬く間に沈み、夜が生まれた。一斉に街に点る原色のネオン。私はそれを彼女に
見せた。部屋の電気を消すと、一層ネオンの灯りが引き立つ。
 彼女とネオンを見終わった時には、すでに午後八時を過ぎていた。彼女一人で部屋に返
すのは悪いと思った。しかし、彼女は「大丈夫ですよ」と言い続けた。私はタクシー代を
彼女に渡し、タクシーをつかまえるところまで付き合った。タクシーが捕まり、彼女に
「さようなら」と言い、タクシーが発進したのを見送ると、私の体に疲れがどっと押し寄
せた。
 家に帰って、そのままベッドに倒れこむ。耳栓をしていないと思ったが、それよりも深
い眠気が私の体を支配した。これなら耳栓もいらないだろう。私は心地よい眠りにそっと
身をゆだねた。
 それから数日後、私は流体工学の教授に呼び出された。大学に入ってまで、そんなこと
があるとは思っていなかった。嫌々ながら教授の研究室に行く。
 教授の研究室で聞かされたのは一割がテストの点数の悪さで、残りの九割が愚痴だった。
研究室から解放されたのは午後五時を回ったところで、私は約三時間のほとんど中身のな
い話を聞き続けていたことになる。私は気分が最悪で、夜は和成とアルコールでも摂取し
ようかと考えていた。私は和成の携帯に『夜はよく冷えたビールを飲もう』と送った。
 すると、送った直後に携帯が鳴った。ボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ス
トーン』である。送り主は斎藤璃々子だった。メールの文面は短かった。
『Hello, hello, hello, how low?』
 私は笑い出しそうになった。すると、私の肩が軽く叩かれた。振り向くとそこにいたの
は彼女だった。
「Hello, hello, hello, how low?」
 彼女はメールの文面に書かれた言葉をもう一度、言う。私は、
「とてもだよ。最悪さ」と答えた。続けて、「ニルヴァーナを聴くの?」
「ううん、聴くのはポール・アンカがアレンジした『スメルズ・ライク・ティーン・スピ
リット』のほう。でも、ニルヴァーナのほうも聴いたことはありますよ」
「ジャズが好きなの?」
「好きってほどでもないですけれど、時々、聴いたりしていますよ」彼女はそれに続け、
「あの教授には注意したほうがよいですよ。友達から聞きましたけれど、よく学生を捕ま
えて愚痴を言うらしいですから」
 私は苦笑しつつ、頷いた。
「そう言えば、あの本を読みましたか?」
「半分ちょっとを崩したかな。まだサラ・パレツキーとレイ・ブラッドベリが残っている」
「読むの速いんですね。まだそんなに経ってないのに」
 私は曖昧に頷いてみせる。私たちは一緒に校内から出た。話しながら歩いていたら、彼
女の部屋の前まで来ていた。
 彼女が部屋の鍵を開ける。彼女は「入りませんか?」と誘う。私は丁寧に断ろうと思っ
たが、彼女の『私、最近ひとりで寂しかったんです。話し相手が欲しくて』という言葉を
思い出した。前回は断ってしまった。二回目は悪いだろうと思った。それに本を運ぶのを
手伝ってくれたこともある。私はそれを承諾した。
 私は彼女の家で夕食をご馳走になる。前回来た時よりも、料理が豪華になっていた。
 会話は主に大学の話題で、注意しなければいけない教授、これは出席するだけで単位の
取れる科目、これは点数もちゃんと取らないといけない科目、これは出席しなくても単位
が取れる科目などについて話した。彼女は頬を朱に染めながら、「全部、友達に教えても
らったんです」と言った。
 話題は本に移る。ポール・オースターの話から始まった。私は確かにポール・オースタ
ーの作品を四作ほど読んだが、頭を捻り続けていた。読後も曖昧な感じが拭えない。彼女
は「仕方ないですよ、そういう書き方をしているのですから」と言った。
「そんな書き方をする意味はあるのかな? 普通に書けばもっと面白かったかもしれない
というのが多いんだけれど」
「だから、それが前衛文学なんですよ」
「難しいなあ」と私はため息をもらした。
 話し続けるうちに終電の時刻が近づいた。私は重い腰をあげる。
「帰るんですか?」
 彼女が尋ねると、私は頷く。「もうすぐ終電だからね」
「泊まっていきませんか? ここまま話を続けましょうよ」
 前回と同様に断ろうと思ったが、彼女の顔を見ていると、私はそれが出来なかった。私
が頷き、再び坐ると、彼女は微笑む。私たちはまた話し出した。話題は彼女が提供してく
れた。結局それは、夜中の三時まで続き、彼女はベッドで、私は書庫になっている部屋に
布団を敷いて就寝した。
 次の日の朝、先に目覚めたのは私だった。私が居間へ行くと彼女はまだベッドで健やか
に眠っていた。朝日を浴びた無防備な寝顔が美しく、私はつい手を伸ばしてしまった。
 すると、彼女は小さな声で唸りながら、起き上がった。寝起きだからだろうか、彼女の
視線はどこか虚ろだった。その視線が私を捉えると、「私を抱いてくれますか?」と言っ
た。寝ぼけた顔から発せられた言葉は、冗談としてしか受け止めることができなかった。
「抱く理由なんてないし、抱かない理由なんてない。別に抱いてもいいし、抱かなくても
いい」
 彼女は笑みを浮かべ、「マーロウみたいですね」と言った。実際、そんなことはない。
私はまだ十九歳なので、酒を飲むことも煙草を喫うことも禁じられているし、車を乗り回
しているわけでもない。ただ、どこかで聞いたことのあるような台詞を言ったまでだった。
彼女は続けて、「でも、それは間違いですよ」と言った。
「間違い?」私は尋ねた。彼女はベッドの上で体を動かし私の方を見た。「抱く理由があ
るんです。それは私があなたを求めているからですよ」
 私が何も答えられずにいると、彼女は「だって、十九歳ですよ、私。友達はみんな、処
女を捨ててます。いくら子供っぽいからって、私もこの歳で処女なんて恥かしいんです」
 彼女が世間体を気にするような人には見えなかったが、それは私の思い込みなのかもし
れない。もしかすると彼女はもっと繊細なのかもしれない。だが、私はそれとは別に既視
感を覚えた。すぐにその原因がわかった。小説の中の一節だ。それから言うべき科白は決
まっていた。私ははっきり記憶していた。「私はゴミ箱じゃない。きみが大事にしている
ものなら、事と次第によってはいただかないでもないが、本人がゴミみたいに思っている
ものを、勝手に捨てられてはかなわない」
 私が言い終わると、彼女はくすくすと笑い始めた。「よくわかりましたね。覚えている
んですか?」と彼女は言った。私は頷く。「うろ覚えだけど、うん。あってたかな?」と
私は訊いた。「あってますよ。しかも、一字一句まちがえてない」
 彼女と私は笑い合った。私たちだけが知っている秘密を持ったような感じだった。彼女
は「それじゃあ、問題です」と言った。「あの小説の状況と私とあなたの状況の違いを答
えなさい」
 彼女は片手で数を数え始めた。私はぱっと思いつかなかった。違いがありすぎたからだ。
彼女が望んでいる回答がどれだかわからなかった。すぐに彼女は最後の指を折った。彼女
が「残念でした」と言った。私が「答えは?」と訊くと、彼女は「答えは彼らは出会って
三十分だったけれど、私たちは出会ってから何日も経っているってことですよ。だから、
別にいいんじゃないんですか?」と言った。私はそれが冗談かどうかを図りかねた。まだ、
さきほどの続きかと思ったが、いい答えは浮かばなかった。既視感もなくなっていた。
「でも……」と躊躇っている私を彼女の唇が止めた。私はバランスを崩すと、喧嘩の癖で
体勢を立て直そうと、相手と上下を換えた。彼女のベッドに倒れこむと、私が上になって
いた。彼女は頬を真っ赤に染めていた。彼女にとって精一杯の行動だったのだろう。ここ
で私が思いとどまるのは、彼女に申し訳ない気がした。すると彼女が微笑んだ。私はそれ
に負けた。そして、私たちは性交した。
 家に帰ったのは十二時を過ぎてのことだった。家に帰るとまず、玄関で和成に捕まった。
昨日の夜、どこに行っていたのかを尋ねられた。そのとき思い出したが、昨日の夜は和成
と飲む予定だったのだ。彼はしつこく私を問い質し、挙句の果てに自分以外の男を作って
遊んでいたんだ、と言った。和成のしつこさで頭に血が上っていたので「ハードボイルド
と生け花とUFOが好きな女の家に泊まって、朝からやりまくったんだ」と言い捨てて、
自分の部屋に入った。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第101号(06月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

━━━【オンライン文芸マガジン『回廊』最新刊 Vol.7 】━━━━━━━━━━━━━

 殺人者の少女 記憶に追われる男 恋に焦がれる人々 人ならぬモノ 白と黒の猫 
 いびつな物語の踊り手たちが 始まりとなり 終わりとなり 円を描いて回旋する 

━━━《輪舞(ロンド)の第七号》 (http://magazine.kairou.com/) 絶賛公開中━━━


◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。
 ひゃーくごー! というわけで特別企画はいかがだったでしょうか? 雲上編集部の裏
側を覗くことができる興味深い企画だったのではないかと自負しています。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は06月15日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年06月06日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
           unjyou@ml.kairou.com
       購読の解約および、公式サイト:
           http://unjyou.kairou.com/

       (c) unjyou_kairou 2006 all right reserved 

規約に同意してこのメルマガに登録/解除する

メルマガ情報

創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
発行周期:月3回  
Score!: 90 点   

コメント一覧コメントを書く

この記事にコメントを書く

上の画像で表示されている文字を半角英数で入力してください。

※コメントの内容はこのページに公開されます。発行者さんだけが閲覧できるものではありません。 コメントの投稿時は投稿者規約への同意が必要です。

  • コメントはありません。