文学

雲上マガジン

総合創作団体・雲上回廊が送るメール文芸マガジン。

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雲上マガジン vol_97

2006/05/05

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    メールマガジン『雲上』 〜読者へつなぐ〜         第97号
         毎月、05日、15日、25日配信         2006/05/05
                     http://unjyou.kairou.com/

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 ……………………………………… も く じ …………………………………………

 【1】 前書
 【2】 秋山真琴はいかが?「DAWN DOWN」      第7回
 【3】 連載小説「彼女が愛するUFO」      第1回
 【4】 編集後記

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【1】 前書
 ──────────────────────────────────────

 もーういくつ出すと、だーいひゃーくごーう。というわけで、地味にカウントダウンし
つつ始まりました雲上、なんと新連載開始です! これは期待大というやつですね!

                                      後略。

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 秋山真琴はいかが?「DAWN DOWN」      第7回
                 著/秋山真琴
 ──────────────────────────────────────

 いらっしゃいませ、ようこそ秋山真琴へ。
 ご注文お決まりでしたらどうぞ。え、ええはい、こちらよっちゃん風味で、かしこまり
ました。……マスター、七番様オーダーいただきましたぁ! 瑶ちゃんよっちゃん風味で
ひとつ!

 …………………………………………… 295文字……………………………………………

 黒鉄の鞘からよく鍛えられた刀が抜かれる。刀身は漆黒に塗り固められている。刀を持
っている男は、全身を黒い衣装にかためている。男は刀を握り締めたまま、壁を背に移動
を開始した。男の名は夜、だが男は深い紫をした夜よりも黒かった。雰囲気までも黒い。
 男は壁を背にしたまま移動を続ける。男の敵の名前は太陽。誰よりも明るく光輝く、白
き者。
 太陽はこの壁の果てにいる。男は音を立てぬよう摺り足で進む。先へ先へと。男は歩き
続ける、だがしかし気づかない。男が背にしている壁が、世界の果てを模したものであり、
世界に果てがないように、その壁にも果てがないことに。
 夜は歩き続ける、太陽を殺すために。永遠に。

 ……………………………………… 「夜明けの敵」 
………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第98号(05月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【3】 連載小説「彼女が愛するUFO」      第1回
                 著/夏目陽
 ──────────────────────────────────────

 雲上初登場の新鋭による連載小説がスタートです! ハードボイルドの名台詞と名高い
『あの』引用から始まる物語は、どのような展開を見せるのでしょうか。

 ……………………………………………連載小説……………………………………………

  1

 ――If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I 
wou
ldn't deserve to be 
alive.(しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしく
なれなかったら、生きている資格がない。)
                   〈レイモンド・チャンドラー『プレイバック』〉


 私は窓を開ける。色とりどりのネオンがゆらゆらと揺らめいていた。原色のそれらは夜
の暗闇を彩り、幻想的な雰囲気を醸し出している。私が住んでいた田舎では、見ることの
出来ない風景である。私はしばし放心し、それに見入っていた。街中で見る色とりどりの
ネオンにはどこか空虚感があるが、私の今、高台から見ているものはまったくの別物だっ
た。
 この物件を薦めた不動産屋の男が私の方に近づいてきた。四十代前半で、髪の毛を三七
に生え際でしっかりと固めた人だった。営業スマイルを浮かべながら、私を見ている。そ
れに釣られて、私も笑みを浮かべてしまう。
「これで、三万八千円?」
 私は部屋に入ったときに言った言葉を繰り返した。彼はにっこりと微笑みながら、頷い
た。私に迷う理由はなかった。彼に「これにするよ」と言う。彼は私に感謝の言葉を述べ
ながら、頭を下げた。私はその場で契約書にサインする。それを彼が鞄にしまっている間、
私はもう一度、窓からネオンに揺れる街並みを見下ろした。夜に来てよかった。昼間に来
ていたら、私はこの物件を選ばなかったかもしれない……。
 冗談で受けた東京の私立大学に合格が内定したのは、つい最近である。私の本命は、そ
れよりも偏差値の低い地方大学だった。だが、真面目に受けたはずの地方大学が落ち、東
京の私立大学の方には合格した。まったく期待していなかった大学だったが、それを断っ
てまで地方大学に行こうとは思っていなかった。浪人生という言葉が嫌だったこともある
が、志望校を決める際も、どこかに収まればいいような考えだったからだ。急遽決まった
上京だったので、事前に部屋を探していなかった。私は急いで住む部屋を見つける必要が
あった。
 引っ越しはほとんど私ひとりで行った。実家から持ってくるものは本棚ひとつとその中
身、それと愛用の安楽椅子とオーディオだけだったからだ。その他の生活に必要なものは
あちらで買うことにした。幸い、親からの仕送りもあるし、入学祝いだと言って、東京の
大学に受かったことを喜んだ親戚一同がくれたお金もあった。それに加え、東京は私の住
んでいた田舎と違って、何でも安かった。私は、十六インチのとりあえず映るテレビと、
安いパイプベッドと寒さはしのげるであろう布団、家賃と同じ値段の石油ストーブ、首を
叩けば巧く回る扇風機を買った。私の部屋はとりあえず、住めるようになった。
 私は引っ越した次の日、他の部屋に挨拶回りをした。中学生の頃、母方の実家に引っ越
したのだが、その時、家族全員で近所に挨拶回りに行っていたことを思い出したからだ。
とりあえず、私は誰でも使うであろう、衣料用洗剤を包んだ。
 一番端の部屋には主婦と六歳ぐらいの子供が住んでいた。私が挨拶すると珍しそうな顔
でこちらを見ていた。私はそれが嫌で頭をもう一度下げると、その部屋から出て行った。
 次の部屋は私の左隣だった。七十代後半の老夫婦が住んでいた。私が包装された衣料用
洗剤を渡すと、老婆はにやにやと笑いながら「あんたも大変だね」と言った。何のことだ
かわからなかったが、私はこの老婆の長話につきあわされそうだったので、そそくさと逃
げ出した。
 私の右隣に住むのは、私と年齢がさほど変わらない女性だった。だが、その奥に見える
部屋の雰囲気から、もう一人、男性が住んでいるようだった。私はその女性に衣料用洗剤
を渡す。女性は包装された立方体を見て、「これ、何?」と訊いてきた。私はそんなこと
を訊かれることなど予想していなかったので、答えることが出来なかった。それを見かね
たのか、女性はその場で乱暴に包装を破ると、衣料用洗剤を見た。女性は「ああ、洗剤ね、
ありがと」と言い終えると、扉を閉めた。
 最後は私の上に住む人だった。上には部屋が四つあるが、その中の一つしか使われてい
なかった。扉を開けると、私と同じぐらいの背をした男性が現れた。私が洗濯用洗剤を渡
すと、「そういえば挨拶回りしてなかったなあ」と言った。私は最近引っ越したばかりな
のか、と訊くと彼は頷いた。そして、私と同じ大学に合格したから上京したと言う。私も、
冗談で受けたその大学に受かったから上京してきたことを言った。私たちは意気投合した。
彼は、沢崎和成と名乗った。私は彼に好感を抱いた。
 部屋に戻ると、誰かの話し声が聞えた。テレビかと思ったが、そうではないらしい。私
はしばし、会話の主を探した。人が隠れることが出来そうなところをすべて探し終えると、
私はいよいよ現実的にはありえないことを考え始める。不動産屋のにやついた顔を思い出
しながら、家賃の安さについて改めて考えた。しかし、それよりも現実的な回答が一つ、
浮かんだ。
 私は女性が住む部屋の側の壁に耳を当ててみた。微か、ではなくはっきりとさきほどの
女性の声が聞えてきた。どうやら、同居人の男が帰ってきたらしい。注意深く聴こうとし
なくとも、それは聞えてきた。やがて、同居人の男が私の渡した衣類用洗剤の存在に気づ
いたようだった。女性に「これどうしたんだよ?」と訊いていた。「隣に引っ越してきた
やつに貰ったのよ。挨拶のついでにだって」と、女性は言った。男は鼻で笑い、「どうせ
なら、現金をよこせよな」と言った。あまり聞きたくないことだった。だが、ほとんど仕
切りとして以外、役に立っていないその壁は、彼らの愚痴を延々と私に伝え続けた。頭痛
のために首を横に振る。すると実家から持ってきたオーディオと目が合った。当分、使わ
れることがないだろうオーディオに、私は同情した。
 彼らには二日目の夜にも悩まされた。入学を明日に控えた私は、すぐに床についた。何
時かはわからなかった。私はまだ、時計を買っていなかった。時間に困るような生活をし
ていなかったからだ。必要なときも、テレビの端に映る時計で十分だった。
 だが、私は深夜、目を覚ました。寝苦しい夜ではなかったが、私は汗をびっしょりとか
いていた。心地よくないので、私は下着を変えた。換気のために窓を開けた。街は揺らめ
いていた。まるで砂漠の蜃気楼のようで、幻を見ているような錯覚に陥った。自然と溜め
息がもれる。ジャズでも聴きながら、ウィスキーでも飲めれば最高だろう。
 すると、誰かの会話が聞えてきた。私は二日目にして、隣の部屋の生活音が筒抜けなこ
とに慣れてしまった。だから、何かが聞えてきても気にならなかった。私はベッドに戻る
と、布団を被って眠ることにした。
 だが、その声は次第に意味のない声になっていった。女の声らしいが、妙に艶っぽかっ
た。さらに、それは私のすぐ横の壁の先から聞えてくるらしく、布団を被ってもそれは聞
えてきた。私はそのせいで寝付くことが出来なかった。その声が気になって仕方がなかっ
た。結局、その日は朝日が出るまで一睡もすることが出来なかった。私はそれでも一ヶ月
に一度か二度ぐらいだろうと楽観視していた。だが、実際は五日に一度の頻度で、それが
聞えてきた。その妖艶がましい声が聞えてくると、私は寝付くことが出来なくなってしま
った。隣から聞えてくるその声は金縛りよりも私を震え上がらせた。
 そのことで一度、和成に相談してみたことがある。彼は私の手に二つ、合成ゴムででき
た塊を渡した。「これは何だ?」と私が尋ねると、彼は両手の小指を耳に入れた。そうし
てにっこりと微笑んだのだ。私は、聞かないふりをしているのだろうかと一瞬、憤慨した
が、すぐにそれが間違いだということに気づいた。彼は、私にそれの使用方法を教えてい
たのだ。二つの合成ゴムの塊の正体、それは耳栓だった。
 それから、五日周期で行われる彼らの営みを気にすることはなくなった。私は毎日、耳
栓をして床に就くことを心がけていたからだ。
 学校にはすぐに慣れた。私はまず、図書館を探した。本を買うのにお金はあまりかけた
くなかったからだ。大学の図書館には専門書が多く、一般文芸の棚はそれらに比べて少な
かった。だが、日本作家はもちろん、海外作家まで充実しているのを見た時、私は感嘆の
声をあげた。ただ、玉に瑕なのが、誰も管理していないのか、本が作者名の五十音順に並
んでいないのだ。武者小路実篤の隣にモーリス・ルブランが置いてあったりする。私はと
りあえず、レイモンド・チャンドラーの『さらば愛しき女よ』を借りた。まだ貸し出しカ
ードに名前を書くものだったので、驚いた。
 他のゼミではなかったのだが、物理ゼミでは飲み会があった。ほとんどの学生が参加し
ているようで、物理ゼミでは見なかった顔も何人かいた。こういう席だけに参加する学生
なのか、あるいは私の記憶力が悪いのか。前者もいるだろうが、後者を完全に否定する自
信もなかった。実際、隣に坐っている斎藤璃々子という女性に見覚えはなかった。彼女は
オレンジジュースを飲みながら、私に話し掛けていた。どうやら内容はエネルギー保存則
が量子論によって成立することらしい。物理ゼミに来ていることからその話題を選択した
のだろうが、私にはまったくわからなかったので、タイミングを見計らって、相槌を打つ
ことに専念した。後で知ったのだが、彼女が語ったことは十二月頃に勉強する範囲だった
そうだ。
 次の日、私は図書館の本棚の整理を始めた。書架の一番端に空間を作ると、まずレイモ
ンド・チャンドラーの作品を集め、発表順に並べた。それだけに一時間を掛けた。次にダ
シール・ハメットを探した。だが、中々見つからず、二作ほど集めたところで、私は挫折
した。ゼミの時間も近づいていた。私は新しく『高い窓』を借り、ゼミに向かった。
 次の日も、その次の日もその作業を続けた。とりあえず、読みたい作家だけでも整理し
ておきたかった。
 五月が終わるまでロス・マクドナルド、ダシール・ハメット、ウイリアム・アイリッシ
ュ(コーネル・ウールリッチ)、ロバート・B・パーカー、マイクル・コナリーの著作ま
で発表順に並べることが出来た。時々、私の並べなおした場所から本が数冊抜けているこ
とがあった。作品は適当なところに置いてあり、私はそれを見つけるたびに元の場所に戻
した。入学当時、やろうと思っていたレイモンド・チャンドラーの諸作を発表順に読みこ
なすのも終わっていた。
 七月末、ちょっとした出来事があった。その日、沢崎和成は私を自分の部屋へと誘った。
試験最終日だったので打ち上げでもやるのかと私は思っていた。実際、彼が用意したビー
ルが卓上に置いてあった。私たちは普段、音を立てないような生活を心がけていたが、そ
の日ばかりは違った。私は缶を五本、和成は七本を空にした。私は、四本目で駄目になっ
ていたのだが、そのときすでに酔いが回っていた和成に、「四は悪い数字ですよ」と言わ
れた。彼自身、ラッキーセブンまで飲んでいた。私は、彼にあおられると五本目を飲み干
す。眩暈に耐えながら、和成を見た。彼は眠りこけていた。私も思考がはっきりしていな
かった。だが、卓上の缶は片付けたほうがいいと思った。私は中の見えないビニール袋を
見つけると、そこに缶を放り込んでいった。私はまだ未成年だから、飲酒は犯罪である。
 すべて放り込んだ後、私は和成の部屋の中を観察した。私のところとさほど変わらず、
違いといえば、私のものよりも大きなテレビがあり、本棚とオーディオがないぐらいだろ
う。私はビニール袋を後ろにおく。このまま帰るべきか悩んだ。だが、床に寝ている和成
ぐらいはどうにかしようと思った。私は和成を抱えると、ベッドまで引きずっていって寝
かせた。布団を掛けて、部屋を出ようとした時、私の足元にブックマッチが落ちているこ
とに気付いた。ブックマッチには『アラベスク』と書かれていた。唐草模様の素敵な店と
私は想像したが、すぐ横に書いてある『ゲイバー』の文字を見つけ、それを訂正した。和
成がどのような理由でこれを入手したのかわからないが、私はそれをテレビの上に置き、
何も見ていないことにした。
 前期中間試験が終わり、私は毎日、学校とアパートを往復する生活にも飽き、何かサー
クルに入ろうかと考えた。幸い、手元に浮いた金もあったので多少、金のかかるサークル
でもいいと思っていた。

 …………………………………………… つづく ……………………………………………

 この作品に対するご意見・ご感想は編集部まで:unjyou@ml.kairou.com
 次回は第98号(05月15日配信予定)に掲載予定です。お楽しみに!

━━━【オンライン文芸マガジン『回廊』最新刊 Vol.7 】━━━━━━━━━━━━━

 殺人者の少女 記憶に追われる男 恋に焦がれる人々 人ならぬモノ 白と黒の猫 
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◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆
 【4】 編集後記
 ──────────────────────────────────────
 前略。
 いかがでしたでしょうか。『雲上』では現在、作品募集を行っています。詳しくは下記
公式ページをご覧ください。
 夏目陽さんの新連載はいかがだったでしょうか。5日、15日配信分の連載という多少変則
的な掲載になりますが、楽しみにしていただければ幸いです。では、また、十日後に。

*公式サイト
http://unjyou.kairou.com/
*編集部
unjyou@ml.kairou.com


 次回の配信は05月15日を予定しています、それでは。

   ……………………………………… 公 募 ………………………………………

 本誌『雲上』では、アイデアと感動に満ちた作品を募集しています。

 対象は「文章で表現されるすべての作品」です。
 著作権等の問題が無ければ、既に何らかの形で公開された作品でも構いません。
 編集部では作者との共同作業で作品をより良くするシステムを整えております。
 たくさんのご応募を、お待ちしております。

         まずは編集部までご連絡ください:unjyou@ml.kairou.com

   ……………………………………… 奥 付 ………………………………………

       発行日:2006年05月05日
       発行元:雲上回廊
       発行者:秋山真琴
       編集者:キセン
           遥彼方
           言村律広
           恵久地健一
       ご意見ご感想:
           unjyou@ml.kairou.com
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創刊日:2003-11-08  
最終発行日:  
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