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メールマガジン日台共栄

日本の「生命線」台湾との交流活動や、他では知りえない台湾情報などを、日本李登輝友の会の活動とともに配信するメールマガジン。

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【メルマガ日台共栄:第3426号】 Fake news─台湾駐大阪弁事処処長の不幸な事件の元凶  王 輝生(輝生医院理事長)

2019/03/11

>>>>> http://www.ritouki.jp/ ━━━━━━━━━━ 平成31年(2019年)3月11日】

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1>> Fake news─台湾駐大阪弁事処処長の不幸な事件の元凶  王 輝生(輝生医院理事長)
2>> 日本語籍を取得した日  李 琴峰(群像新人文学賞優秀作受賞作家)
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1>> Fake news─台湾駐大阪弁事処処長の不幸な事件の元凶  王 輝生(輝生医院理事長)

 昨年(2018年)9月4日に関西を襲った台風21号により、強風に流された大型タンカーが関西空港
の連絡橋に激突、空港への交通が遮断されたことで空港に約3,000人が閉じ込められた。このと
き、救出をめぐって責任を問われた台湾の外交官、台北駐大阪経済文化弁事処処長(総領事に相
当)だった蘇啓誠氏が9月14日に自裁した。

 去る3月4日、「NHKクローズアップ現代+」がこの問題を取り上げ「“フェイクニュース”暴
走の果てに 〜ある外交官の死〜」を放映した。

◆NHKクローズアップ現代+【3月4日放送「フェイクニュース暴走の果てに〜ある外交官の死〜」】
 https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4256/index.html

 当時、蘇処長にメールを送り「あのときは(空港に)車は入ることができなかった。これはフェ
イクニュースだ」と励ましていたのが、台湾出身の医師で、京大医学部を出たあと滋賀県大津市で
輝生医院を開業している王輝生氏(日本名:大田一博)だった。

 王氏は本会理事でもあり、李登輝元総統が2004年暮に来日されたとき、京大恩師の柏祐賢先生の
ご自宅に李元総統をご案内するなど中心的役割を果たされた方だ。

 番組では、蘇処長と王氏がメールを交わしていた状況を伝え「王さんと最後のメールを交わした
2日後。蘇さんは帰らぬ人となりました」と伝えている。

 王氏はNHKから3度の取材を受け、3度目の2月7日は4時間半のインタビューを受けたという。
その日のうちにインタビュー内容を日文と中文にまとめ、翌8日、本会にお送りいただいた。

 昨年9月14日、台北駐大阪経済文化弁事処の蘇啓誠・処長が自裁されたニュースを知ったときは
心底驚いた。

 李登輝元総統が2016年に石垣を訪問されたときも、昨年6月の沖縄県糸満市で行われた慰霊碑除
幕式に臨席された折も、当時、那覇分処処長だった蘇処長には沖縄県警との連絡や車輛などの手配
で大変お世話になった。渡辺利夫会長が弔電をお送りして弔意を表している。

 フェイクニュースという人災で自裁に追い込まれた蘇啓誠処長の死を改めて悼み、王輝生氏から
寄せていただいた「Fake news─?台湾駐大阪弁事処処長の不幸な事件の元凶」と題されたインタ
ビューのまとめをご紹介したい。

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Fake news ?台湾駐大阪弁事処処長の不幸な事件の元凶

 「NHKクローズアップ現代+」の取材班が暴走フェイクニュースの被害と台北駐大阪経済文化
弁事処の蘇啓誠処長のご不幸の件について、大津市の当院まで3度の取材がありました。1月末は 
電話取材だけで、2月1日はわざわざ東京から約2時間半の取材に来られ、2月7日は4時間半の撮影取
材でした。

 そして、その一部が3月4日に「NHKクローズアップ現代+」で放送されました。私は取材?容
を文章で表しましたのでどうぞ日、台交流の為に役立ててください 。

◆NHKのインタビュー(2019/2/7取材)
 3月4日に放送した「“フェイクニュース”暴走の果てに 〜ある外交官の死〜」

1:蘇処長の人柄や思い出について

 私は昨年の6月23日、台湾の李登輝元総統をお迎えする為に沖縄に参りました。そこで蘇処長と
初めてお会いしました。まる2日間、大?お世話になりましたが、処長さんは温厚で無口、真面目
で責任感が強い人だとの印象でした。とてもおとなしい方です。

2:台風当時、連日の批評を受けている状況をどのようにみていたか?

 昨年9月4日、台風の為に関空が一時的に閉鎖された。9月5日、関空側は残された客を救出する為
に、午前6時から、関空内のバスと船を利用して移動作業を開始した。午前11頃、中国客1012名と
台湾客32名、合計1044人を集めて日根野のショッピングセンターの駐車場まで移動させた。しか
し、外部からのバスは関空?に入ることは未だ禁止されていた。

 その時には2つのFake newsが流されていた。

 第1のFake newsは、中国のinternetからの ニュースによるもので、中国側がバスを派遣して関
空?に入って取り残された中国客を救出した。中国のマスコミも大きく報道して「偉大な祖国のお
陰で、関空内に取り残された中国客以外の台湾客も助けられた」という?容だったので、台湾のマ
スコミや評論家、野党の?会議員たちが騷いで大騒ぎになった。

 批判の言論が絶えずやって来て、攻撃の焦点は台湾駐日代表の謝長廷大使と駐日官僚たちに集中
していた。批判の?容は「中国側ができることをなぜ台湾はできないのか?」「その時に謝大使は
何処にいたのか? なぜ関西空港まで見に行かなかったのか?」「責任を取って大使の職をやめ
ろ」等。

 その過剰反応の攻撃目標が謝大使になった理由は、日本と台湾の友好関係がここ数年は最良状態
になっていたことです。

 去年、両国は670万人が交流していた。日本の高校生の修学旅行先もアメリカを抜いて台湾が
トップとなっています。去年、40個所の日本の地方議会と323名の日本各地からの地方議員たちが
招聘されて「日台議員サミット」が台湾の高雄で行われました。「運命共同体」の日台関係が更に
進むと困る国がある。困る人達もいる。そして、日台友好関係の最大功労者の謝大使は邪魔物に
なっているので 、どうしても彼を打倒したい というわけです(大使の職をやめさせたいのです)。

 しかし事実は、9月5日関空の発表によると外部からのバスは関空内に入ることが禁止されていた
ので、中国側のバスが関空内に入るということはFake newsだと後で明らかになった。

 第2のFake newsは、9月6日、ある人がPTTのJapan Travel に投稿した。

 その内容は、彼が関空で中?側から派遣されたバスに乗って脱出した後、大阪市内で台北駐大阪
経済文化弁事処に電話して宿泊と交通などの協力を要求したが、弁事処職員の態度は冷たく、断わ
られたという記事で、火に油を注ぐように駐大阪弁事処と駐日代表の謝大使を厳しく非難した。

 しかし、あのPTTの記事はfake newsだと後で明らかになった。投稿した人物は游xx、ペンネーム
GuRuGuRuという台湾の大学生で、警察も彼を起訴したが、裁判官は無罪判決とした。無罪の理由
は、台湾の法律「社会秩序維護法」に違反するまでの行為ではなかったとの理由からです。

3:蘇さんへメールを送った経緯について

 津波のような台湾のマスコミ、評論家たちと野党の政治家たちからの厳しい批判を受け、おとな
しい処長さんは対応しにくいだろうと、私は思っていました。私は台湾出身ですから、同じ台風の
被害者として、真相究明のために7篇の文章を書いて台湾のマスコミに投稿し、そして新聞に?載
された文章を処長さんに送って「これを自己防衛の武器としてどうぞ利用してください」と言いま
した。

4:最後のメールにはどんなことが書かれていたか?

 処長さんからのメールは3通ありました。

 9月10日に処長さんから返事のメールがあって、これは台湾のマスコミに掲載された私の文章に
ついての返事で「請教王博士,台灣自由客人數来源是那裡?蘇啓誠」(王博士、ちょっとお伺いし
たいですが、台湾の個人旅行客、その人数の出所は何処からですか? 蘇啓誠)

 私はその日にパソコンを開けて見なかったので、9月12日になって処長さんに返信しました。

「由於電腦未開機,延遲答覆,尚乞海涵。勞苦功高卻徒負罵名,真是太委曲了,未能更有效的替您
們申冤,謹致歉意之忱。根據來自關西空港的報導,9月5日送走中國滯留客1012人(包括香港客117
人及澳門客5人)加上自動加入的台灣自由行散客32人,共1044人於上午11點由關西空港乘專用巴士
送往泉佐野市(實際是日根野的大賣場停車場),所以4日當?滯留在關西空港的台灣散客應該是32
人+?。至於確實人數,如未辦妥登機手續,大概無從?考吧。?將敝人的愚思蠢見,傳真呈上,敬
請玉覽。9月12日 王輝生敬上」

(私はパソコンを開けて見なかったので返事が遅くなり、申し訳ありませんでした。最近、大変ご
苦労されている処長さんですが、その苦労も台湾国内の人達には理解されず 、かえって叱られて
いて、本当に悔しくて残念でおつらいと思います。

 微力ながら私はあなたを弁護する為に、もっと有効な方法を考えていましたが見つからなくて、
誠にすみませんでした。

 関空からの報道によると、9月5日に取り残された中国客1012人(香港客117人及びマカオ客5人を
含む)と台湾の個人旅行客32人,合計1044人が関空提供の專用バスに乗って泉佐野駅(実際は日根
野のshopping centerの駐車場)まで移動した。だから4日の夜、関空に残された台湾の個人旅行客
は32人+?。正確な人数は、搭乗手続きをしていなかったら調べることができないでしょう。私の
愚見と文章をファクスで送りましたのでどうぞご覧ください。9月12日 王輝生敬上)

 その他に、追伸として「同遭災變同受委曲不同迴響」(同じ災害を受けて、同じつらさを感じ
て、しかし反応が同じではない)という文章を蘇処長にも送った。その文章内容の簡略は下記の 通り。

「9月4日の暴風雨で関西の被害が大きかった。9月6日にまた北海道で震度7の大地震があって、全
道295万世帶が停電断水状態になり、すべての対外交通もマヒ状態になった。しかし日本全国が団
結して国と社会の運営は規則正しく、平日と同じように動いていた。9月10日、安倍首相も予定通
り国際会議に出席する為にソビエトへ行き、20日の自民党総裁選挙も中止なしで実施された。しか
も、被害者たちが誰も文句を言わず、野党側も国の為に与党と協力して国家の災難を一日にも早く
乗り越えるように努力して、政治家たちは誰もその災難を利用して私利を図ることはなかった。

 その一方で、同じ災害を受けて、台湾の駐日官僚がfake newsの為に攻撃の目標になって、とて
も困った情況になっていた。遠く離れている台湾のマスコミ、評論家たちと野党の議員たちが過剰
反応して、そのfake newsの真相究明の前に厳しく駐日大使と駐日の官僚たちを絶えず非難していた。

 同じ自然災害大?の日本と台湾は、どうして天災地変に対する反応が千差万別なのだろうか? 
日本人の「治人事天莫若嗇」(人間と天に奉仕するのは精力、気力、神経等のエネルギーを倹約す
るより良い方法がない)の精神を台湾の国民も学ぶべきだと痛感しております(見賢而思齊)。 9
月12日 王輝生敬上」

 間もなく,9月12日午前8:42蘇?長からmailがあり:

「處置不當,連累謝大使,罪過」(処置不適当で、謝大使が巻き込まれて、大変ご迷惑がかかりま
した。罪深いです)

 2分後の午前8:44又mailがあって:

「所言甚是,同感,但沒人聽進去」(おしゃった通りで、同感です。しかし誰にも聞いてもらえな
かった)

 それが処長さんの遺言となりました。

5:それを読んで どんなことを感じたか

(1)[台湾個人旅行客の人数の出所は何処からです?]

 関空に取り残された台湾人客はほとんどが個人旅行客ですから、その人数を調べることはできな
かった。それで処長さんが悩んでいたことを、私はよく感じた。

(2)[?置不適当で謝大使が巻き込まれて、大変ご迷惑がかかりました。罪深い]

 Fake news1:中国側のバスが関空内に入ることと、Fake news 2:大阪弁事処の電話対応が悪い
こと等の問題は、すべて自分の管轄地であったのにもかかわらず、500キロ以上も離れている東京
の長官謝大使が巻き込まれて、厳しく批判を受け、温厚かつ責任感が強い処長さんの心のつらさは
よく感じました。「罪深い」という言葉も出していたので、自分を責める気持ちが頭を満杯にして
いたのではないでしょうか。

(3)[おしゃっ通り、同感です。しかし誰にも聴いてもらえなかった]

 私は「同じ災害を受けて、同じつらさを感じていても、日本人と台湾人の反応は同じではない」
という文章を処長さんに送った。

 その?容の要点は「この度の台風と地震に対する、日台両国国民の対応精神の違いを台湾の国民
に知らせたいからです。日本の国民は全国団結して災害を一日でも早く乗り越えるように努力して
いたのに、台湾の人々は過剩反応して、真相究明の前に駐日大使と駐日官僚たちを厳しく批判して
いた。日本人の「治人事天 莫若嗇」(人間と天に奉仕するなら精力、気力、神経などのエネル
ギーを倹約するより良い方法はない)精神を台湾人も学ぶべきだと痛感します。」

 処長さんは私の文章の?容に同感で、そしてこれを自己弁護の武器として対外的に説明してい
た。しかし、誰にも聴いてもらえなかったということで、あの時の処長さんは無力感で一杯だった
のではないでしょうか。

6:蘇さんが亡くなられたことを受けて、どんなお気持か?

 本当にびっくりしました。真面目、一生懸命に台湾の為によく頑張っていたのに、かえって自分
の国の国民たちから厳しく非難を受けて「百口莫弁」(百の口があっても弁解することができな
い)、誰にも聴いてもなえなかったという遺言で、彼の無力感とつらさはよく理解しました。まさ
か自殺までしてしまうとは考えてもみませんでした。

7:今回の一件が社会に残す教訓とは何だと思うか?

 処長さんのご不幸の元兇はFake newsによる事件だと私は思います。自由民主な国では言論自由
の為にFake newsが非常に流れ易いので、その被害も割合に大きいです。それは日、米、台湾等の
言論自由国、共通のweak pointだと思います。処長さんのご不幸はただ冰山の一角でしかなかった。

 言論不自由な敵国がいつもfake newsを武器として、相手国の自由民主制度を破壊し、混乱をお
こす。

 Fake newsの出所は個人行為なら、その対応と防ぐのは割合に簡単ですが、団体的な行為ならそ
の対応が難しくなって、そして国のレベル、特に独裁国からの行為なら、現時点ではお手あげの状
況です。

 それで自由民主の国々が一刻でも早く密に連携して,その対策を真剣に考えないといけないと思
います。

  2019年2月7日

                         医療法人 輝生医院理事長 王輝生 敬具

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2>> 日本語籍を取得した日  李 琴峰(群像新人文学賞優秀作受賞作家)

【nippon.com:2019年2月23日】
https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g00652/

◆平仮名も知らなかった女子中学生が、群像文学賞作家に

 先日、拙著『独り舞』の中国語版『獨舞』を台湾で出版した。作者と訳者が同一人物の文学作品
は、空前絶後と言わないまでも相当珍しいだろう。宣伝文句に「史上初、群像新人文学賞優秀作を
受賞した台湾人」とある。この通り私は日中両語で創作活動を行っている台湾人作家である。

 日本語で小説を書く台湾人作家と言えば、温又柔さんや東山彰良さんが有名だろう。しかし彼ら
は幼少期から日本に移住し、いわば日本語の中で育った人たちである。

 私はそうではない。今でこそ日本に住んでいるものの、引っ越してきたのはわずか数年前のこと
だ。一人の、ごく普通の留学生として。日本には家族や親戚がいない。そもそも私の家族や親戚の
中で日本人や日本在住者はおろか、日本語ができる人が一人もいなかったのだ。

 だから子供時代に、私は日本語に触れる機会がほとんどなかった。中学の歴史の授業で「平仮
名」と「片仮名」の成立を習うまで、そもそも「平仮名」と「片仮名」という名称すら知らなかっ
た。プリングルズの多言語の食品表示で「召し上がる」という日本語の言葉を見かけた時は、漢字
しか読めないから「上へ召喚する」という意味かと思った。確かにプリングルズを食べる時は筒状
の容器の中からポテトチップスを上へ順次取り出す必要があるのだけれど、それは日本語では「召
喚」というのかと面白がった。

 あの「あいうえお」も読めなかった女子中学生が、12年後に日本純文学の代表的な文学賞「群像
新人文学賞」で作家デビューすることになるなんて、私も含め、誰にも想像できなかっただろう。

◆日本語に恋したからうまくなった

 なんで日本語を習おうと思ったの?

 日本に来てから何度も何度もそう聞かれたが、聞かれるたびに私は首をかしげながら悩む。

 就職するためとか、日本のアニメが好きだからとか、そういった分かりやすい動機があればいい
のだが、それが私にはなかったのだ。結果的に日本で就職したし、日本のアニメも確かに好きだけ
ど、どれも日本語を習った結果であって、理由やきっかけではない気がする。

 結局、きっかけは特にないかな、と答えるしかなさそうだ。ある日、15歳の私に突如降りかかっ
てきた、そうだ、日本語を習ってみよう、というその正体不明な想念がそもそもの始まりだった。
もし天啓というものがあれば、まさにそういうことなのかもしれない。

 とはいえ、天啓だけでは語学学習が十何年も続くわけがない。始まりは正体不明な想念であって
も、いざ学んでみる日本語の美しさに魅了され、続けずにはいられなくなり、気付いたら十何年も
たったのである。

 どこが美しいかって?

 まずは表記面。漢字と仮名が混ざり合う字面は、密度がふぞろいなゆえにまだら模様のように美
しく感じた。例えるならば平仮名の海に漢字の宝石が鏤(ちりば)められているように、あるいは
平仮名の梢(こずえ)に漢字の花びらが点々と飾り付けられているように。月光が降り注ぐと海が
きらきらと輝き出し、風が吹き渡ると花びらがゆらゆらと舞い降りた。

 そして音韻面。日本語の音節は基本的に「開音節」と言って、「子音+母音」の組み合わせであ
る。例えば「こ」なら「k」+「o」、「と」なら「t」+「o」という具合に。他の言語は必ずしも
そうではない。「子音+母音」の組み合わせが続くと、機関銃のようにダダダダダッととてもリズ
ミカルに聞こえて、つい声を出して繰り返したくなるのだ。あ、輝く水面と舞い降りる花びらの後
にいきなり機関銃を出してごめんなさい。

 そうして私は初級、中級、上級と、日本語の階段を上っていった。いつしか日本語で独り言を言
うようになり、夢の登場人物まで日本語を喋り出した。日本に渡り、日本企業で就職した。あろう
ことか日本語で小説なんて書こうと思い、それが僥倖(ぎょうこう)にも受賞してしまった。今や
日本語は私にとって必要不可欠なものになっているのだ。

 何のきっかけもなく、それこそ気まぐれで始めた日本語学習が私の人生を大きく変えたのだ。し
かし、もし当初は気まぐれではなく明確な目的意識を持って日本語と対峙していたのなら、恐らく
ここまでは来られなかっただろう。そんな気がしてならない。兎が死ねば犬は煮られ、鳥がなくな
れば弓は仕舞われる。目的があれば日本語もただの道具で、目的が達成した瞬間に不要なものに
なってしまう。私にとって日本語は道具ではなく、目的そのものなのだ。そう、恋みたい。

 何故ここまで日本語が上達したのかと聞かれれば、それは、日本語に恋をしたから、と答えるほ
かなさそうだ。

◆日本国籍はないけれど、日本語籍は手に入れた

 中国語で小説を書いていた時期は、いつか日本語でも小説が書けるようになるとは思ってもみな
かった。

 表現自体は好きで、当時はまだ片言だった日本語でも表現せずにはいられなかった。初級クラス
の作文の課題で「厳寒」「酷暑」「耽溺(たんでき)」のような、どんな初級の教科書でも決して
出てこない熟語を好んで使った。プレゼンの練習で藤村操「巌頭之感」を暗誦(あんしょう)する
なんてこともやってのけた。休憩時間はいつも先生をつかまえて、五段活用やら四字熟語やら漢文
訓読やらの質問をしたものだから、きっと手の焼ける生徒だっただろう。

 アニメやドラマの台詞(せりふ)の書き取りをしたり、日本語で日本の小説を読んだり、漢文訓
読を独学したりなど、あの手この手で日本語の表現の幅を押し広げようと努力した。それでもうん
と長い間、私の持っている日本語の語彙や文型の質と量はとても表現したいことを満足に表現でき
るほどのものではなかった(厳密に言えば今もそうだが)。多様かつ正確な表現が求められる文学
作品は、非母語話者の自分ではとても書けないと思っていた。

 文学は言語を用いた芸術表現であると同時に、言語そのものの可能性を押し広げる役割も担って
いる。だとすれば、本来自分のものではない言語で、果たしてそれが可能なのか。長い間、私は不
可能だと思っていた。思い込んでいた。

 これはよく考えればおかしなことで、言語というものは本来、誰かの所有物ではなく、もっと開
かれた存在で、異なる時空間の人類に共有され、歴史と共に変化を遂げていくもののはずだ。にも
かかわらず、母語でない言語を「自分のもの」として、何か既存の規範(文法、言葉の辞書的意
味、母語話者の言語感覚)に従うのではなくわが物顔で「可能性を押し広げる」努力をしようする
のは、どうしても憚(はばか)られた。

 非母語話者は、言葉の世界の難民だ。幼少期に習得した第一言語の領域を離れれば、その言語使
用の正統性は誰にも認められない。母語話者同士でも言語感覚が大きく乖離(かいり)することが
あるにもかかわらず、非母語話者と母語話者の語感が食い違った時に正しいとされるのは常に母語
話者の方で、非母語話者にはその言語に対する解釈権がないのだ。移民が、移住先の国の内政に口
出しする権利が認められないように。

 非母語話者であることは、「あなたの日本語はおかしい、不自然だ」と指摘される恐怖に絶えず
晒され続けることだ。非母語話者自身も、自分の言語感覚にはなかなか全幅の信頼を置けないもの
である。

 だからこそ「群像新人文学賞」を取った時、作家としてデビューした喜びもさることながら、
「日本語の使い手として認められた」喜びもひとしおだった。慣れない手つきで、辞書やネット情
報を参照しながら恐る恐るこしらえた初めての日本語小説は、図々(ずうずう)しくも私なりの
「可能性を押し広げる」試みだった。元来、小説を書くことは綱渡りに似たもので、第二言語の場
合、その綱は蜘蛛(くも)の糸のように脆弱(ぜいじゃく)なものだ。気を抜けば墜落して粉々に
砕けかねないと知りながら、それでも捨て身のつもりで繰り出した無謀な跳躍は、幸い、墜落せず
に済んだ。跳躍した先に誰かに受け止められ、頭を軽く撫(な)でながら「あなたはここにいてい
いよ、書いていていいよ」と優しく告げられ、筆を手渡されたような気分だった。

 それはまさに私が誰かに言ってほしいことだった。血を吐く思いで辛うじて手に入れた、日本語
という名の筆。その筆を信頼していいということを知って、とても安心した。「日本国籍」ならぬ
「日本語籍」をやっと手に入れたような気分だった。

 国籍というのは閉じられたもので、所定の条件を満たし、所定の手続きを踏まえ、所定の審査を
通して初めて手に入るもの。新しい国籍を取得するためには古い国籍を放棄する必要がある場合も
ある。しかし「語籍」は開かれたもので、誰でもいつでも手に入れていいし、その気になれば二
重、三重語籍を保持することもできる。国籍を取得するためには電話帳並みの申請書類が必要だけ
れど、語籍を手に入れるためには、言葉への愛と筆一本で物足りる。国籍は国がなくなれば消滅す
るけれど、語籍は病による忘却か、死が訪れるその日まで、誰からも奪われることはないのだ。

 やっと日本語籍を取得したその日、講談社ビルを出て黒が濃密な夜空を見上げ、私は一度深呼吸
をした。そして心の中で決めた。

 この二重語籍の筆で、自分の見てきた世界を彩るのだと。

               ◇     ◇     ◇

李 琴峰(り・ことみ)
日中二言語作家、日中翻訳者、通訳者。台湾生まれ。15歳より日本語を学ぶ。同じ頃から中国語で
小説創作を試みる。2013年来日。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程入学、のち修了。
2017年、初めて第二言語である日本語で書いた小説『独り舞』にて第60回群像新人文学賞優秀作を
受賞。以来、二言語作家として創作・翻訳・通訳など活動中

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・『海の彼方』
・『台湾萬歳』
・『湾生回家』
・『KANO 1931海の向こうの甲子園』
・『台湾アイデンティティー』 
・『台湾アイデンティティー』+『台湾人生』ツインパック
・『セデック・バレ』(豪華版)
・『セデック・バレ』(通常版)
・『海角七号 君想う、国境の南』
・『台湾人生』

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・2018年 李登輝元総統沖縄ご訪問(2018年6月23日・24日)*new
・2014年 李登輝元総統ご来日(2014年9月19日〜25日)
・片倉佳史先生講演録「今こそ考えたい、日本と台湾の絆」(2013年12月23日)
・渡部昇一先生講演録「集団的自衛権の確立と台湾」(2013年3月24日)
・野口健先生講演録「台湾からの再出発」(2010年12月23日)
・許世楷駐日代表ご夫妻送別会(2008年6月1日)
・2007年 李登輝前総統来日特集「奥の細道」探訪の旅(2007年5月30日〜6月10日)
・2004年 李登輝前総統来日特集(2004年12月27日〜2005年1月2日)
・許世楷先生講演録「台湾の現状と日台関係の展望」(2005年4月3日)
・盧千恵先生講演録「私と世界人権宣言─深い日本との関わり」(2004年12月23日)
・許世楷新駐日代表歓迎会(2004年7月18日)
・平成15年 日台共栄の夕べ(2003年11月30日)
・中嶋嶺雄先生講演録「台湾の将来と日本」(2003年6月1日)
・日本李登輝友の会設立総会(2002年12月15日)

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