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メールマガジン日台共栄

日本の「生命線」台湾との交流活動や、他では知りえない台湾情報などを、日本李登輝友の会の活動とともに配信するメールマガジン。

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【メルマガ日台共栄:第723号 】 情報統制を超えて漏れ聞こえるラサの悲鳴をきけ! [福島 香織]

2008/03/18



>>>>> http://www.ritouki.jp/━━━━━━━━【平成20年(2008年) 3月18日】

  ☆★☆★ 日本李登輝友の会メールマガジン「日台共栄」 ☆★☆★
         新しい日台交流にあなたの力を!!
<<INDEX>>━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━[Vol.723]
1>> 情報統制を超えて漏れ聞こえるラサの悲鳴をきけ! [福島 香織]
2>> 台北へのセンチメンタル・ジャー二一-速水和彦氏のことなど(1)[立石昭三]

■日本李登輝友の会事務局からのお知らせ
 3月20日から23日まで「総統選挙見学ツアー」のため、事務局メンバーも訪台しま
 すので、21日(金)は事務所をお休みとさせていただきます。
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1>> 情報統制を超えて漏れ聞こえるラサの悲鳴をきけ! [福島 香織]

 中国政府によるチベット族への弾圧はすさまじい。現地における外国メディアの取材
を厳しく制限して正確な情報を洩れないようにしたところで、それでも洩れてくるのが
現代だ。

 産経新聞中国総局の福島香織記者のブログ「福島香織の北京特派員記者ブログ」がチ
ベット族の女性とのメールでの生のやり取りを伝えている。福島記者が伝えているよう
に、「彼女のもたらす情報がどれほど正確か、検証するすべはない。だが彼女とのチャ
ット文面からにじむ焦りと民族の悲哀に、私は当局発表より、真摯なものを感じる」の
は、このやり取りを読んだ人の大半の思いではないだろうか。

 チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世は16日の会見で、チベット自治区への国
際調査団の派遣を求めていたが、中国外務省は今回の弾圧を「内政問題」と位置付け、
国際調査団の受け入れを拒否した。臭いものに蓋をしたのである。時刻に都合が悪くな
ると「内政問題」とする、いつもの手である。

 中国国民党の馬英九候補は昨日の英語による内外記者会見で「台湾はチベットではな
い。中国に統治されたこともない」などと述べ、事件と台湾総統選は無関係との考えを
強調したというが、和平協定を結んだチベットが中国に侵略された歴史を直視させまい
とする発言だ。

 福島記者が現地女性とのやり取りに感じた「民族の悲哀」は、「台湾人に生れた悲哀」
を知る民進党の謝長廷候補が「チベットの今日は、未来の台湾だ」と力説したことと底
通していると感じたのは編集子だけではあるまい。

 いささか長いブログだが、今回のチベットの「暴動」がどのようにして始まったかを
忘れないためにも、福島記者のブログ全文を紹介したい。        (編集部)
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情報統制を超えて漏れ聞こえるラサの悲鳴をきけ! 福島 香織

【3月17日 福島香織の北京特派員記者ブログ】

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080317/chn0803171122007-n1.htm

■国内はヨウツベも、BBCもアクセス禁止。ラサの電話は故障を装い、メールは届かな
い。一方で、中国CCTVは、抜き身の刀をさげた凶暴そうなチベット族の暴徒の姿をうつ
し、チベット族の無法を強調している。中国のネット世論は「チベット独立派を殲滅せ
よ!」「不要軟手(手加減などいらない!)」と雄叫びをあげ、鎮圧部隊は正義の味方
扱いだ。見事な情報統制と世論誘導!さすが。

■しかも、これだけの無法行為がありながらも、国際社会では北京五輪ボイコット要求
拒否が主流。さすが!中国の外交力、そしてパブリック・ディプロマシー力。日本も爪
の垢でも煎じてのませてもらおう。

■今回、中国はCCTVなどで、現地の暴動の映像を流したが、中国的にはこれが成功だっ
た。隠蔽しなかった分、情報公開の透明性は前よりまし、と国際社会に思わせ、海外メ
ディアも、この同じ映像使い、公式発表を中心に報道した。赤い衣のラマ僧が商店を破
壊したり、チベット族の若者が中国国旗・五星紅旗を燃やしたりしている映像。それだ
けで、テレビを見ている一般の人々は、中国もこんな凶暴なやつら抑えるには、多少の
暴力もしかたなかったんじゃないか、と思いかねない。実際、日本の知人とさきほど、
電話で話したら、そういう意見だった。

■しかし、この暴動が起きたきっかけは何だったのか?そこを忘れてはならないと思う。
この暴動事件を「一部血の気の多いチベット族大騒ぎ」で納得してもらっては、彼らが
あまりにあわれだ。暴動は一刻も早く収まってほしいが、今回の件では中国当局に非が
あることは、きっちり日本もふくめ国際社会として認識を一致させてほしい、と切に願
う。

■16日夕、14日夜にチャットした友人と再びつながった。検閲ワードをさけながら、書
いては速攻で削除しながらの、あわただしいチャットで、情報量は多くない。チベット
自治区にネット・ユーザーは32万人しかいない。中国全土では2億1000万人もいるのに。
しかもその32万人の多くは漢族だろう。チベット族でネットを自由に扱える人間は、限
定されていて、監視を受けやすい。そういう危険を承知の上で、グレート・ファイヤー
・ウォールをかいくぐって私に何かを伝えようとしてくる彼女。もちろん、彼女のもた
らす情報がどれほど正確か、検証するすべはない。だが彼女とのチャット文面からにじ
む焦りと民族の悲哀に、私は当局発表より、真摯なものを感じるのだが、みなさんはど
うだろうか。

■彼女、ラインオン。

彼女「ハロー、ここは悪くなっている」
福島「ハロー?元気?」
彼女「今、入ったばかりの情報だけど、シガツェで抗議行動(衝突?)が起きている。」
  「ナクチェ県でも」
福島「どのくらい大きい?」
彼女「大きいわ、人数は調べているところ。僧侶はまだ含まれていない。」
福島「ラサはOK?」
彼女「外出禁止令が出ている。外に出ると撃たれるわ。街は軍だらけよ」「ラサは静か。
   でも郊外で抗議行動(衝突)は起きている。(ずらずらと地名がでてくる、五カ
   所くらい。あっという間に削除でメモれなかった!)」
福島「電気、水道、電話、食料、みな大丈夫?」
彼女「大丈夫よ、私の家にはザンパ(干菓子みたいなチベットの保存食)がたっぷりあ
   るから!」
  「でもバルコエリアの方は食料が大変みたい。長引くと飢える家がでてくる」
福島「家族は大丈夫?」
彼女「もちろんよ!」
福島「(暴動は)どんな風にはじまったの?」
彼女「14日、午前11時30分ごろ、ジョカン寺の近くにあるラムチ寺で僧侶がハンガース
   トライキをはじめた。これを軍(武装警察だろう)が阻止しようと、殴るけるな
   どの暴行のあげく発砲した。7、8人が死んだ。逮捕者もでた。これをきっかけ
   に市民に怒りが広がり、暴力的な大規模デモが起きた。他の僧院も抗議のハンス
   トに入った」
福島「ラムチ寺の僧侶は何人?」
彼女「70〜80人」(寺院の1割の僧侶が虐殺されたわけだ)
彼女「市民デモは北京中路あたりで軍と衝突。軍は発砲を繰り返し、銃創や圧死(おそ
   らく軍用車両で)で、このエリアだけで死者は70〜80人は出ている。」
福島「市全体では何人くらい(の死者)?」
彼女「正確には分からないけれど100人以上。110から120人の間だと思う。(亡命政府
   の発表は80人の遺体が確認された、少女も含む。これから増える可能性も)」
福島「市民が多いの、僧侶が多いの?」
彼女「僧侶より市民が多い、若いチベット族が犠牲になった」
福島「政府は漢族の商人が犠牲になったようなことをいっていたけれど」
彼女「漢族の死者はない。回族が5人死んだ。」「チベット族は怒りにかられて回族の
   ショップを襲った。それで回族が怒りチベット族を5人殺した。それでチベット
   族が怒り回族を5人殺した」「漢族が犠牲になったというのは、政府のウソよ」
福島「僧侶が破戒行動に参加したというのは本当?」
彼女「それは本当。回族の店に火をつけた」
福島「僧侶は何を望んでいるの? 独立?」
彼女「それだけではないわ。僧侶たちは政府に、漢族・回族移民政策をストップするよ
   うに要求していた」「政府は300万人の漢族・回族をラサに移民させようとして
   いる。僧侶たちは自分たちの子供たちをまもろうと、この政策に反対を申し立て
   ていた。今でもチベットの大学新卒者は就職難で、チベット族の失業者は多い。
   そんなに大量の漢族、回族がくれば、チベットの子供たちは生きていけない」
福島「最初のデモは10日?」
彼女「10日、デプン寺で起きたデモ行進は軍(武装警察)に制圧された。このとき発砲
   もあったし、死者や車でひかれた者もでた。人数は分からないけれど。逮捕者も
   相当でた」。

ここで、ラインオフ。

■ここに書いた以外にも、いろいろ書き込まれたのだが、地名や寺の名前は、速攻で削
除されるので、あやふやなもの、読み取れないものもあった。今回の暴動の最初のきっ
かけは、軍による僧侶への発砲、暴力であった、というのが彼女の主張。しかも、僧侶
らの要求は、独立という大層なものではなく、地域の移民政策への反対だった、という。
当局のいうところの「ダライ・ラマ14世策動による独立分裂活動」のようなものではな
かったという。

■この300万移民政策なるものが、本当にあるのかどうかは、確認できていない。しか
し新疆ウイグル自治区ウルムチは、まさに大量の漢族移民によって、人口200万人あま
りのうち75%が漢族という漢族支配の都市になった。もはやウルムチには、ウイグル族
文化のかおりはほとんどのこっていない。中国では、少数民族地域への漢族移民、同化
政策というのは、これまでもやってきた手段だ。全自治区人口280万人、ラサ人口44万
人のところへ300万人、というのは多すぎる気もするが、最高の観光資源と地下資源、
インド・ネパールに隣接する軍事的要衝でもあり、そのぐらいのことやらかしたとして
不思議はない。

■ましてや、今は青藏鉄道が敷設され、大量の人、物資の輸送が可能になった。チベッ
ト族たちは、すでにラサに氾濫する漢族文化、漢族経済に不安を覚えている。それは昨
年夏、中国外交部主催のプレスツアーにいったとき、ひしひしと感じた。

■ちなみに、ムスリムである回族は、少数民族ながら、普通語に堪能な人が多く、漢族
とビジネスができる人は多い。しかもチベット族と仲がわるい。一方、チベット族は、
普通語の会話・読み書きが苦手、というより過去の迫害の記憶から漢語を蛇蝎のごとく
嫌っている人が多い。

■そこで、漢族が青藏鉄道とともにもたらした漢族市場経済(特色ある社会主義市場コ
ネ経済)にすでに、チベット族はあぶれている状況がある。チベット族は貧しい人が多
く、このままラサやチベットに漢族が増えたら、我々の文化、伝統、くらしは完全に破
壊される、そういう危機感は強い。

■当局側が撮影したと思われる暴動映像をみれば、暴行を働いているのは、若いチベッ
ト族の若者だ。みなりはボロをまとい、ひょっとして失業中かもしれない。たとえ仕事
をしていても、賃金は数倍の差がある。昨年7月のプレスツアーで、ラサの経済開発地
域の取材をしたさい、建設現場で同じ仕事をしている漢族の出稼ぎ農民と、チベット族
地元民の賃金は、かたや1日40元、かたや1日8元だった。

■もちろん、自由アジア放送が伝えたように、投獄中の僧侶の釈放要求とか、いろいろ
な不満がつもりつもっていたのだろう。昨年末で、政治犯として投獄されたチベット族
は僧侶を中心に119人。活仏の当局による管理・許可制導入など、チベットの伝統・宗
教文化を完全になめくさった政策を強引に導入するなど、外国人にはどうしてそこまで
締め付けねばならないのか、踏みにじらねばならないのか、理解に苦しむほど、チベッ
ト族への圧政がある。たとえ、ダライ・ラマ14世の存在感、影響力が共産党中国の想像
を絶するほど大きく、中国指導者が過剰におびえているとしても、あまりにひどすぎる。

■こういう状況でおきた僧侶のデモだが、300人レベルの坊さんのデモを武装警察を突
入させて制圧する必要がほんとうにあったのだろうか。300人レベルの抗議活動なら、
香港では毎日起きている、とはいわないが、比較的頻繁に起きている。ダライ・ラマ14
世が求める高度の自治とは、この香港レベルのなんちゃって自治・一国二制度にすぎな
いのである。一国二制度くらいいいじゃないか、と私などは思うが。

■暴動の原因が何なのか、どういう経緯でかくも悲惨な大暴動に広がったのか、今は断
片的な情報の寄せ集めで見えない部分が多い。中国側公式発表をうのみにして、それを
既成事実としてしまうのは、毒ギョーザ事件の真相を中国公式発表どおりの見解で処理
するのと同じだろう。

■ダライ・ラマ14世は、この暴動について、国際的な独立した調査団派遣を望んでいる。
ぜひ、日本もこの意見を支持してほしい。暴動は今や飛び火、拡大している。今、ここ
で国際社会に見捨てられると、沸点の低いチベット族は、それこそ玉砕覚悟で蜂起する
かもしれない。

■毛沢東が行った対チベット政策がいかに苛烈にして陰惨であったかは、わざわざ私が
言うまでもないが、その記憶を受け継いでいる若いチベット族は今でも大勢いる。一見、
漢族にとけ込んで暮らしている普通のチベット族の若者も、ふと酔った瞬間、もし状況
がこのままならば、殺された祖先の数だけ漢族を叩き切って自分も死ぬのだ、といまだ
にうわごとを言う人もいるのだよ。その深い恨みと悲しみを本当に癒すのは、金でもな
く、女でもなく、ダライ・ラマ14世の帰還と宗教の自由というあたり、チベット族のメ
ンタリティは、中国人にも日本人にもなかなか理解できないのだが、それは尊重せねば
多民族国家は成立しえない。

■あす(というか今日)17日は、ダライ・ラマ14世インド脱出の記念日。多くのチベッ
ト族・僧侶の心がざわざわする日だ。どうか、恐ろしいことがおきませんように。血が
ながれませんように。私まで心がざわざわする。ひとつ間違えば、本当に北京五輪どこ
ろではなくなるかもしれない。              <2008/03/17 04:19>
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2>> 台北へのセンチメンタル・ジャー二一-速水和彦氏のことなど(1)[立石昭三]

 台湾では今でも尊敬されている日本人が少なくない。先般、本誌でも鳥居信平(とり
い のぶへい)について紹介した平野久美子さんの講演会を紹介したが、この鳥居信平、
八田與一、後藤新平、児玉源太郎、明石元二郎、羽鳥又男など、数え上げれば切がない。

 その中に、速水和彦(はやみ かずひこ)もいる。速水は台湾鉄道の近代化に偉大な
功績を残した鉄道技師で、今でも台北市松山にある「台北機廠」には速水の胸像が展示
されている。中国国民党による白色テロ時代は、速水を尊敬する台湾の人々がその胸像
を倉庫に隠して保管していたというエピソードも残っていて、八田與一の銅像秘話を思
い出させる。

 最近刊行された「榕樹文化」第22号に、京都で病院を経営され、速水和彦の姪を妻と
された医師の立石昭三氏が「台北へのセンチメンタル・ジャー二一(速水和彦氏のこと
など)」と題して、速水和彦との交流の一端をつづられている。

 日本へ帰国する船でご一緒した速水和彦が船中で亡くなっていたことを初めて知った。
縁者でなければ紹介できないエピソード豊かなエッセイだ。

 著者の立石昭三氏及び「榕樹文化」の内藤史朗編集長の許可をいただいたので、ここ
に3回に分けてご紹介したい。なお、読みやすさを考慮し、適宜、改行していることを
お断りする。                            (編集部)

■「榕樹文化」のお問合せ先
 〒603-8071 京都市北区上賀茂北大路町25-13 内藤方「榕樹会事務局」
 TEL&FAX:075-711-3982 E-mail:fwkv6294@mb.infoweb.ne.jp

■速水和彦氏・略歴
 明治22年、北海道に生まれる。父速水経憲は通信技手。母はゑい。明治28年、経憲は
 電信技手として、北白川能久親王に仕え、台湾へ渡る。妻子もその頃台湾へ渡る。小
 学校は、台北では総督府立小学校として、第一尋常高等小学校が唯一の小学校だった。
 中学は府立台北中学(台北一中の前身)が出来るが、和彦氏は滋賀県立膳所中学へ進
 学、更に第三高等学校へ進んだ。京都帝大工学部を卒業し、上海の商社へ就職したが、
 直ぐに父に台湾に呼ばれて、台湾総督府交通局鉄道部へ鉄道技師として就職した。終
 生技師であったが、終戦当時は二千人の部下がいた。生涯クリスチャンであった。
                                 (立石昭三氏)
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台北へのセンチメンタル・ジャー二一(速水和彦氏のことなど)【1】

                                  立石 昭三

 私も家内も台湾、台北市からの引揚者である。「引き揚げ」という言葉も一般には死
語になりつつあり、台湾が日本の一部であったことも一般の記憶から風化しつつあるよ
うなのでここに書いて残したい。

 私の両親は長崎県の出身であったが、父は国内の大学を経て、1930年から台湾大学理
学部動物学教室に助教授として奉職していた。当時、台湾の人を本島人(これを私は本
当の人と思っていた)、日本人を内地人、台湾生まれの日本人を湾生と呼んでいた。私
は1935年生まれの湾生である。妻は輔仁小学校にもいたが、京都生まれなので湾生では
ない。

 1941年12月8日、ハワイの真珠湾に集結していた米太平洋艦隊への攻撃をもって日米
間の太平洋戦争は始まった。緒戦は香港、シンガポールも陥落させ、ニューギニアの産
油地、パレンバンにパラシュート部隊が降下し「空の神兵」と呼ばれたあたりまでは戦
線の拡大が中国大陸、太平洋諸島に及んだ。

 しかし停戦の機を逸し、ラバウルも落ち、山本五十六元帥の乗る新司令部偵察機がア
メリカのP38に落とされ、やがて米軍の沖縄占領、本土爆撃となり、1945年の戦艦ミズ
ーリ号上のポツダム宣言受諾となり、これで日米(英・中・蘭・ソ連)相手の世界大戦
も終結となったのである。

 海外にいる邦人はそれから続々と日本本土へ帰国して行った。シベリアの虜囚は労働
力として引き揚げも遅れたが、台湾では事情が一寸異なり中国国民党政府が台湾へ進出
してきても台湾の行政、教育、産業に邦人の協力が求められたのである。

 敗戦当時、私は小学5年生であったが、これら邦人の子弟の教育には旧三中のあった
場所に輔仁小学校、和平中学校が作られた。

 私は和平中学の2年まで通学したが、ここでの教育は朝礼の時に歌う「三民主義」の
国歌と北京語の授業くらいしか覚えていない。やがて生徒たちも日本人の帰国に伴って
減少し、この小・中学は廃校となった。私は大学官舎に住んでいたが、近くの小川で魚
をとったり、大学の先生宅に遊びに行き楽しんでいた。

 子どもの心の外傷をPTSDなんていうが、子どもの心はかなり柔軟なもので非日常
的な生活もただ面白く、不謹慎だが台風で学校が休みになると歓声を上げ、空襲、敗戦、
異文化での暮らしなども苦にならなかった。

 よく覚えているのはヴァイオリンを教わった高坂知武先生宅(文献2)、緑の背表紙
の講談社落語講談全集が揃っていた速水和彦先生宅(文献7)であった。

 特に速水宅には毎週、通って一冊ずつ拝借し、岩見重太郎や幡随院長兵衛、柳生但馬
守の伝記などすっかり覚えこんだ。和彦先生は総督府鉄道部部長で、台北鉄路工廠と台
湾大学工学部に勤めておられたが、当時から満鉄の広軌鉄道のデータを解析し、これが
後に目本の新幹線の基となった、と聞いた。

 和彦先生は大学または工廠から帰宅されると、和服に着替えられ、小さな七輪上で煮
える湯豆腐を肴に一杯召し上がりながら、中学生の私に広軌の鉄道の効率を説いて下さ
るのを常とした。

 和彦氏には経清、経康、経明という三人の男のお子さんが居られたが皆さん、日本内
地に居られ、台湾宅には、おえいばあさんと富子夫人と三人で住んでおられた。

 そのうち台湾政府のご好意で、私ども中、高校の学生は台湾大学の構内にも自由に出
入りし、父母の研究室、またご自宅でもその専門とする講座を拝聴するようになり、こ
れを「留用日僑子女教育班」(文献1)、略してNSKと称した。野球のユニフォーム
にまでNSKと大書してあり、口の悪い人はこれを「日本少女歌劇団」の略だろう、な
んて言っていた。

 恩師の中でも印象深く覚えているのは高坂先生の物理(文献2)、山根敏子先生によ
る英語(文献3)、立石鉄臣先生の美術(文献4)であった。これらの方々のことは後
年、その時の学生により思い出深く書かれている。           (つづく)

文献1;高野秀夫「台湾省留用日僑子女教育班(1947〜49年)」。2006年、麗正会(台
    北一中同窓会誌)

文献2;李遠川ジョンズ・ホプキンス大教授著「高坂知武記念館」。日本エッセイスト
    クラブ95年版、ベストエッセイ集、文藝春秋1995年10月号

文献3;山根甚信「去りぬるを」。Private press, 1957.8.4

文献4;立石鉄臣「立石鉄臣、台湾書冊」。台北県政府、劉峰松他編。1997年6月

文献7;加藤昭三(清水高等水産学校昭和24年卒、練習船船長、航海訓練部長等を経た)
   「シージャックと速水氏の水葬」千葉宗雄監修「練習帆船・日本丸」原書
   房,1984.8.9
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